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難民問題をめぐる不誠実と日本の正義が問われている

「難民を助ける会(AAR)」名誉会長で、難民審査参与員の柳瀬房子氏は2021年4月21日の衆院法務委員会で「難民と認定できたという申請者がほとんどいないのが現状です。」と発言したが、この発言について斎藤法務大臣は「この発言を私どもは重く受け止める必要がある」と語った。10日にオンエアされたTBS「報道特集」では入管法改正が特集で、柳瀬氏の「根本的にね、どこの国だって、日本にとって、その国にとって、都合の良い方だけ来てください、都合の悪い方は困ります、どこの国もしています」という発言も紹介されていた。

ロヒンギャの人だが、彼の言う通りだろう https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/527354?page=2


 日本政府の難民に対するスタンスは、たとえばシリア難民についてはトルコやヨルダンに逃れた難民には資金を提供して支援するけれども、シリア難民が日本に来るのは「お断り」という姿勢であり続けた。柳瀬氏が名誉会長を務める「難民を助ける会」のスタンスも国外の難民は助けて、難民が日本に来るのを防ぐというものなのだろうと思わざるを得ない。

 柳瀬氏の難民審査件数は、2021年は全6741件中1378件(全体の20.4%)、2022年は全4740件中1231件(全体の25.9%)だった。番組に登場した参与員経験者たちからは非常に緊張感をもって1件1件審査しなければならないとか、丁寧に審査すればそのように多いことはあり得ないとかの発言が聞かれ、都合の良い方だけ来てくださいというのは移民については国益という視点をもってもいいかもしれないが、庇護を求める難民についてはあり得ないという考えも紹介されていた。

 柳瀬氏はハナから難民は日本に来てほしくないという考えのようだが、その考えが今回の入管法改正の根拠の一つとされた。柳瀬氏に難民審査の多くの機会を与えるのは、難民を受け入れたくないという政府の意図が透けて見える。虚偽の根拠による入管法改正は日本の恥を世界にさらすようだ。「難民を助ける会」には真摯に活動に取り組んでいる人たちも無論いるだろうが、少なくとも上層部は柳瀬氏のような考えをもっているのだろう。

 2019年に群馬県館林市で難民申請をしているミャンマーのムスリム少数民族ロヒンギャの男性に面談したことがある。入管からは母国に帰るように言われたが、ミャンマーに帰国したら殺されてしまうと語っていた。ロヒンギャの人々は仏教徒の過激派やミャンマー軍の暴力や迫害の対象となってきた。現在、ロヒンギャの人々はおよそ100万人がバングラデシュなどで難民生活を余儀なくされている。そうした実状を入管や、入管法改正に賛成した与党議員たちはまるで理解していないようだ。米国のブリンケン国務長官も、昨年3月、ミャンマー国軍によるロヒンギャへの迫害をジェノサイド(民族大量虐殺)に認定したと発表したが、そうした人々を難民認定せずにミャンマーに強制送還するというのは国際的常識にも著しく欠けている。

2019年9月、群馬県館林市で会ったロヒンギャのアウンアウンさん。 仮放免の状態に置かれていた。仮放免だと県外への移動は認められず、労働もできない。なぜ仮放免状態なのかについて入管からは一切説明がない。あなたは仮放免になっていると告げる紙しかくれないと嘆いていた。きちんと理由を書いてくれれば、私たちも行動を正すことができるけれどもその可能性もない。ミャンマーに帰ってくださいと言われたこともある。しかし、その国が私たちロヒンギャにいったい何をしているのか、日本の入管はまったく理解していない、国に帰れるならば日本にはいないと怒りをあらわにしていた。


 入管法改正には正義が感ぜられないが、フランスの詩人ポール・エリュアールは『 よき正義(法則) 』という下のような詩を残している。( 大島博光訳・抜粋)
葡萄から 葡萄酒をつくる
石炭から 火をつくる
接吻(くちづけ)から 人間をつくる
それが 人間の温かい法則だ
水を 光に変える
夢を 現実に変える
敵を 兄弟に変える
それが 人間の優しい法則だ

 入管法改正には人間の温かさや優しさ、あるいは人間の尊厳を尊重する姿勢が感じられない。法案に賛成した与党議員たちは自分自身が難民問題について熟慮しているか、付和雷同していないか、よく省みるべきだ。日本の国家像が世界から問われている。日本の労働力不足を技能実習生制度などで補おうとしているが、外国人に冷たい国は労働の場としてまったく好まれないだろう。技能実習生など外国人労働の獲得も他国と競合していかなければならない。ロヒンギャ難民たちは米国で必死に働き、その勤勉と上昇志向で成功を収める人が増えている。(「『最も迫害される』ロヒンギャ難民が実は米国で大活躍」Wedge、4月8日配信)群馬県館林市でも中古車業などで成功を収めるロヒンギャの人に会ったが、館林市自体が、外国人労働がなければその経済活動が成り立たないような印象だった。公正な審査を行えば、難民の認定者数は現在よりもはるかに増えるはずで、彼らを日本経済に有効に取り込むような工夫や努力を行っていくべきだと思う。

ロヒンギャの人にはこのように事業を興す人もいる。夫人は日本人。群馬県館林市で。

アイキャッチ画像は柳瀬房子氏
入管法改正はこの発言が重要な根拠となっている
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/527354?page=2

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