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サラエボ事件から110年と、日本の集団的自衛権

 明日6月28日は第一次世界大戦勃発の契機となったサラエボ事件から110年。サラエボ事件では1914年6月28日、ボスニアのサラエボを訪問していたオーストラリア皇太子フランツ・フェルディナント夫妻がセルビア人で、19歳のガヴリロ・プリンツィプによって射殺された。プリンツィプはセルビア人民族主義秘密結社「黒手組」によって訓練を受けた人物で、バルカン半島におけるオーストリア=ハンガリー二重帝国の支配を終わらせ、スラブ系民族による統一国家を築くには、ハプスブルク家の王室のメンバーや帝国の政府高官を殺害することが必要だと信じていた。オーストリアは1878年の露土戦争終結後に結ばれたベルリン条約によって、ボスニア・ヘルツェゴビナの統治権が認められていた。

サラエボ事件はセルビア人の青年プリンツィプがオーストリアの皇太子を殺害し、第1次世界大戦が起こるきっかけになった事件件  https://listen.style/p/history/kc318bu9


 皇太子暗殺事件を受けて同年7月23日に、オーストリアはセルビアに対して最後通牒を送り、7月28日に宣戦布告を行った。これに対してロシアが翌日の29日に総動員令を発すると、ドイツは8月1日にロシアに、8月3日にフランスに宣戦布告した。ドイツはフランスとの戦争を進める際に中立国のベルギーに侵攻したが、イギリスは中立国侵犯を理由に8月4日にドイツに宣戦の布告を行った。こうしてオスマン帝国が支配していたバルカン半島をめぐる対立から、1000万人とも見られるおびただしい数の戦死者を出した第一次世界大戦の戦端が開かれることになった。

 日本は第一次世界大戦中に対華21か条の要求を出し、中国大陸への強引な姿勢を明らかにした。これに対して中国は日本の要求の撤回を求めたが、大戦中に地中海にまで軍艦を派遣した日本を評価してイギリス、フランスなどは中国の主張を斥けた。対華21か条の要求の背景には膨張する資本主義の市場を求めて中国に進出したいという経済界の意向もあった。

マルタ島「旧日本海軍慰霊碑」 https://note.com/zenpaku/n/nddbaa83cd645


 日本海軍は地中海のマルタ島を基地にして、連合国側の兵員70万人を輸送した。ドイツのUボートと35回交戦し、駆逐艦「榊」が魚雷攻撃を受けて大破し、艦長ら59人が死亡するなどの犠牲が出たこともある。「集団的自衛権」の第一次世界大戦版である。

 大戦以前は貿易赤字に悩んでいた日本は連合国側に軍需品を供給し、輸出が大幅に増えて景気がよくなった。「大戦景気」と呼ばれ、アジア諸国からヨーロッパ製品が著しく減少して、そこに日本の商品が入り込んで日本経済は大いに潤った。世界的に船舶が不足したことから「船成金」と呼ばれる大金持ちも現われた。工場労働者は大戦が始まった1914年には85万人であったが、1919年には147万人となるなど産業規模が拡大する一方で、労働運動が成長することになった。

https://yamatake19.exblog.jp/23920512/


 日本と同じように第一次世界大戦で戦場にならなかったアメリカも520億ドルの戦費のうちその3分の1が企業家たちの利益となり、21000人以上の億万長者を生むことになった。アメリカでは「休戦記念日(Armistice Day)」では善意と相互理解を通じて平和を永続化する」精神が1926年に議会の決議として成立したが、「復員軍人の日」になっていつの間にかその精神は薄れ、戦争による金儲けが露骨になり、その構図はイスラエルのガザ攻撃に武器・弾薬を供給し利益を上げる現在のアメリカの軍需産業にも見られる。

 第一世界大戦は、戦争経済で日本を潤し、日本に植民地主義的野心をもたらし、海外派兵までも行った。戦争で拡大した経済を支えるために、日本は国外の植民地にいっそう関心をもつようになり、日本の破滅をもたらしたアジア・太平洋戦争に至る道を開くことにもなった。なぜ戦争が発生するのか、日本の政治家たちはそのからくりを第一次世界大戦からも真摯に学ぶべきだろう。外交・安全保障は票にはならないが、国民の生命に関わる重大な問題だ。


1918~20年、シベリア出兵(日本のみ1922年まで) 資本主義の国(英・仏・米・日)が、社会主義の台頭を恐れ、ロシア革命への干渉やその抑圧に出兵したこと 1920年、日本人捕虜が虐殺された尼港に シベリア出兵 *最右:日本 https://chitonitose.com/jh/jh_lessons138.html

表紙の画像はボスニア・サラエボ
https://www.arabnews.com/node/1492846/lifestyle

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