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インドカレーを、するということ

関東も、梅雨が明けました。明けたら明けたでとても暑い日が続いています。夏本番、ビールが美味しい時期になりました。そして、辛いものも美味しい時期になりました。

休日のランチは近所でゆっくりビールを飲みながら食べることが多く、信州そばを出す店で昼過ぎに、おたぐりとか、蕎麦味噌とかをアテにして一番搾りの中瓶を空けつつ、ざる蕎麦を食べ、帰宅して昼寝する、というのが至福だったわけですが、最近はインドカレーを食べに行くこともハマっています。

インドカレー。欧風のカレーよりも圧倒的に好きです。まず、スパイスが好き。身体の深いところからじわ、っと温まってくる感じ。鼻腔いっぱいに広がる複雑な香り。ゴロゴロと具材が転がってる訳ではないのに、素材の旨味がつまってる感じ。

そして何よりもテンションが上がること。それはこっそりと店の隅っこで「インド式」でカレーを食べること。

5年前くらい、僕はバックパッカーでアジアとオーストラリアをうろちょろ1年くらいしていた訳ですが、その中でも最も大好きだったのが、インドでした。

インドで食べるもの、とにかくカレーでした。カレー、カレー、カレー。毎日カレーで飽きないのか、と思われるかもしれませんが、全く飽きません。インドのカレーは本当に種類が豊富なんです。ほうれん草のカレー、豆のカレー、きのこのカレー、チキンカレー、マトンカレー…

たいして所持金を持っていない貧乏旅だったので、食事はもっぱらローカルの人が通う食堂でした。もはや食堂でもなんでもない、道端の地面の上で火を炊いて、そこで作られたカレーとチャパティで食事を済ますこともしばしばありました。1食30円くらいです。

そんなインドの旅の中で、心に決めていたこと、それは右手だけでカレーを食べること。ヒンディー教では左手は「不浄の手」とされ、右手で食事をして、左手で排泄物の処理をします。なるべく現地の人と同じ食事をしたかった僕は、そのとおり右手で食事をし、左手で排泄物の処理をしました。インドのトイレは基本的にトイレットペーパーは存在しません。あるのは水が出る蛇口と手桶だけ。手桶に水をためて、しゃがんでいる自分の左側に手桶を置いて、左手でクイッ、クイッと綺麗にするわけです。アナログ式のウォッシュレットですね。もちろん綺麗にしたあと拭く手段が無いので、濡れたままパンツを履きます。ただ、乾燥しているので5分くらいで乾きます。

そんなわけで僕は毎日左手でクイッ、クイッ、としていたので、食事の時は当たり前に右手のみで食事をするようになりました。ナンも右手だけでちぎります。皿の上のナンを親指で押さえつけて、それを人差し指と中指で広げるようにして、ちぎるのがポイント。そのちぎったナンを、カレーに浸すくらいの勢いでぶっこみます。熱いけれど、ナンの先っちょにチョイとカレーを付けるくらいでは、ペース配分が崩れるからです。絶対に最後、カレーが余る。

そんな勢いで約4ヶ月、僕はカレーを食べ続けました。永遠に、ほぼ毎日。インドの旅を終えて、タイ・バンコクにある日本式のスーパー銭湯に行ってサウナに入ったとき、サウナ中スパイスの香りが広がったのは印象的でした。こんなに身体にスパイスが染み付いていたとは…そしてそのサウナ中のスパイスの香りを感じながら、僕は思ったわけです。「カレー食いたい」と。完全に中毒です。

そんな日々を過ごしていたので、インドカレーを食べに行くときは、気持ちが高ぶります。それはもはや、「インドカレーを食べに行く」では収まらず、「インドに行く」気持ちで行くわけです。そして僕はあまり目立たないお店の隅の方の席にひっそりと座り、ビールを飲み、運ばれてきたナンとカレーをこっそりと右手だけで食べるのです。その高揚感はとてつもないものです。

今日も先ほどランチでインドカレーしてきた訳ですが、ナンのお代わりをそろそろ頼もうか、と思っていた時に丁度店員さんが聞いてきてくれました。「ナンかご飯のお代わりは宜しいですか?」と。「(…そうか、ご飯でも良いのか…)」僕はご飯のお代わりを注文し、運ばれてきたご飯をスプーンを使わず、またこっそりと手で食べてみたわけです。

ナンの右手縛りプレイは今まで何度も取り組んできましたが、ご飯の右手縛りプレイは今日が実は初だったのです。開店間もない時間だったので、店内には僕一人。ご飯を右手の指先でまとめて、それをカレーに浸して、口へ運ぶ。うーむ。スプーンで食べるよりも美味しいのは何故なのでしょうか。

そういえば手で食べる食事ってなんか良いですよね、おにぎり、お寿司、餅、サンドウィッチ…箸やフォークを使うよりも、なんだか良い。これはきっと、味覚、嗅覚、視覚に「触覚」も加わるからなのかもしれません。指先でも味わう。きっとそうだ。

食後のチャイを持ってきてもらった時、スプーンが無い状態で平らげられた空いた皿を下げつつ、インド人の店員さんがニヤリ、としていきました。ちょっと恥ずかしかったけど、同時になんだか嬉しかったです。

インドカレーは美味しい。けれど、それと同じくらいにインドカレーを食べることは楽しいのです。だからきっと、僕の中では「インドカレーを食べに行く」ではなく「インドカレーしにいく」って感じになるのかもしれません。

あー。今日もインドカレー出来て幸せだった。今度はいつインドカレーしにいこうか。右手の指先が、スパイスの香りでいっぱいです。

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