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【戯曲】花屋(2022ver.)

ここは花屋

店員が作業中
カランコロン、と鐘の鳴る音
そこに入ってくる客

店員「いらっしゃいませ」

店員をちらりとみて、ぺこりとする客
客は店内を一瞥

店員「なにかございましたらお声がけください」

コクリと頷く客
そのまま、物色しながら、ぐるりと一周
店員の前を通り過ぎるが、立ち止まり、振り返る

客「あの・・・」

店員「はい、なにかございましたか?」

客「あったから声かけたんですが」

店員「え?」

客「なにかあったら声かけろ、と言われたから声かけたんですけど」

店員「はい」

客「それで“なにかございましたか?”って、なにもないなら話しかけないんだからなにかあるに決まってるじゃないですか。そんなムダな質問、必要ありますか?」

店員「…失礼しました」

客「どうぞ」

店員「え?」

客「もういちど。どうぞ」

店員「…あの、私はなんといえば?」

客「それ、こちらに聞きますか?」

店員「えーっと、申し訳ありません、勉強不足で、こういうときどういう風にすればいいか」

客「笑えばいいと思うよ」

店員「え?」

客「冗談です」

店員「もしよろしければ、ご教授いただけますでしょうか?」

客「わかりません、僕、花屋したことないので」

店員「そう…ですか」

客「ただ、一つだけ言えることがあるのは、じぶんを信じて」

店員「はあ」

客「花屋というのは、花を売るということで人々の生活に花を添え、それによって心を華やかにする、その感情を売る仕事なのです。贈り物として買った花束であれば、贈りたいのはなんですか?花ですか?いや、違う、気持ちでしょう!そんな尊い仕事をしているあなたの言葉であれば、きっとお客様に届くはずです!」

店員「ホントに花屋じゃないんですか?」
客「なぜ?」

店員「そのー、語ってらしたから」

客「あ、語っちゃいました、すみません、ついくせで語っちゃうんですよー、ごめんなさいね、あ、それで、贈り物にしたいんですけど」

店員「あ、はい、いいですねー、あ、じゃあ、どんなお気持ちを贈られるんですか?」

客「それは言えません」

店員「…そう、ですか。では、どなたへのプレゼントでしょうか?」

客「それも言えません」

店員「はぁ」

客「当ててください」

店員「・・・え?」

客「誰に送るか」

店員「えっと・・・なぜ」

客「もちろん、ヒント出します」

店員「(ボソっと)いや聞けよ」

客「ヒント1。季節のものをおくりたい」

店員「んー、そうですねぇ。この時期だと、バラやユリなんていかがでしょうか?暑くなってきて、色鮮やかで香りの強いものが増えてきたんです。お相手の方はお花お好きなんですか?」

客「そちらからの質問はいっさい受けつけません」

店員「・・・」

客「ちなみに、花言葉は?」

店員「ユリだと『純潔、無垢』といった意味を持っています。バラは全体的には、『愛』だとか『美』という意味がありますね。色によってもいろいろあるのですけど・・・」

客「じゃあ、赤は?」

店員「えー(メモ帳を出して見て)赤は『愛情、情熱、貞節』などなど」

客「などなどとは?」

店員「花言葉って、たくさんあったりしますから」

客「まあ、いいでしょう。他にはどんな色が?」

店員「バラの花言葉って、とってもおもしろいんですよ。ピンクだと『上品、しとやか』、オレンジだと『無邪気』や『さわやか』。白だと『尊敬』や『私はあなたにふさわしい』という意味があります。高飛車な感じでしょう?それに対して、黄色だと『嫉妬、不貞』」

客「えーこわっ」

店員「そうですねよ、間違えてプレゼントしたら勘違いさせちゃうかも」

客「違います、なんでこちらの質問に対して準備を、あ、もしかしてそれ、予言書?」

店員「なんですか、それ、予言で花言葉調べる必要ないでしょう。よく聞かれるんですよ、特にバラはプレゼントで多いですから」

客「そんなこと気にするやつもいるんだな」

店員「はあ。あ、それと、珍しいのだと、青いバラは『奇跡、夢かなう』。紫は『誇り』、黒は『憎しみ、恨み、貴女はあくまで私のモノ』なんていうちょっと怖いかんじでして。あ、赤にもいろいろあって、緋色だと『情事、陰謀』、紅色だと『死ぬほど恋い焦がれます』。濃い紅色は『恥ずかしさ、内気』。帯紅は『あたしを射止めて』。黒っぽい赤だと『化けて出ますよ~』なんて、ホント、いろいろです」

客「そんな危ないバラも取り扱ってるのか?ここは闇の花屋か?」

店員「(無視して)実はバラには、枝葉にも花言葉がありまして」

客「無視か」

店員「無視です」

客「ああ、そうか、じゃあ仕方ない」

店員「枝葉の花言葉って、それもう、花言葉じゃないですよね、枝言葉、葉言葉ですかね。あ!葉言葉って、上から読んでも葉言葉、下から読んでも葉言葉じゃないですか?」

客「ばとこは、じゃない?」

店員「や、やだなー、漢字ですよ」

客「わかってます、余計なこと喋ってないではやく続きを教えてください」

店員「めっちゃくいついてくるじゃないですか」

客「好きなんです、こういうの」

店員「おー、よかった。えっと、バラの葉は『希望あり、頑張れ!』、枝は『あなたの不快さが私を悩ませる』、トゲは『不幸中の幸い』。蕾は『愛の告白』です。さらにさらに、赤と白のバラを組み合わせると、『温かい心』、花2つに蕾1つで『あのことは当分秘密』。蕾3つに花1つで『あのことは永遠の秘密』です!」

客「(拍手)」

店員「さぁ、どのバラにしましょうか?」

客「ヒマワリがほしいんだけど」

店員「かしこまりました、こんちくしょう!(ヒマワリを取り、カウンターへ移り、ラッピングし、客に渡す)お待たせいたしました」

客「あと、バラひとつ。何色でもいいけど、じゃあ、あれで」

店員「はあ(バラを一輪取り、客に渡す)」

客「(受け取り、花を取り、枝だけ店員に差し出す)じゃあ、これで。釣りはいりません」

客がでていく

店員「(メモ帳をめくって)“あなたの不快さが私を悩ませる”…こっちの台詞じゃ!(と袖に向かって枝を投げる)…、で、結局、誰に贈るんだろ、ヒマワリ」

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