見出し画像

平等院逍遥

~平等院逍遥~

 「平等院、行こにさ!」
 年末の同窓会で誰かがお国言葉でそう誘う。
 小学校の遠足で行った鳳凰堂を40年ぶりにみんなで再訪しようという話になった。

 ひとつき前に取っていたのぞみの指定券も手放し、故郷の同級生に混ざって男女4名づつ8名で京都宇治へ向かった。
 
 宇治駅から歩き出すと間もなく鳳凰堂が町並みの狭間に垣間見え始める。
 歩みを進めると不思議な力に包み込まれて行く気がする。

 無風の正月四日だった。
 幸運にも阿字池に映る鳳凰堂に遭遇する。
 かつて人々は池の面に西方極楽浄土の阿弥陀仏の宮殿を見たと言う。

 中堂、左右の翼廊、尾廊が羽を広げた伝説の不死鳥「鳳凰」に似ていることから名付けられた鳳凰堂。
 その中には神々しく絢爛豪華な阿弥陀如来座像とまばゆいばかりの黄金の天蓋、52体の雲中供養菩薩像。
 宇治川で隔てられ表現された彼岸と此岸。

 平安時代、ここは現世に再生された西方極楽浄土そのものであり、極楽往生の疑似体験の場だったのだ。

 そんな思いに浸っていると、ふと肩の荷物が軽くなる。

 「ミヤタクン、ず~っと重たい荷物持って大変やん。気い付かへんとゴメン。」
 女子が荷物を持ってくれるという。一旦は断るが戸惑いながら荷物を委ねた。

 夕刻JR宇治駅で友と別れる。
 ぼくは新幹線に乗るべく京都駅へ。同級生は地元に帰るべく奈良方面へ。

 京都行きのホームに皆が並んで見送ってくれた。
 電車が動き始めるとまさかの万歳三唱。
 名残雪こそなかったがこういうのは弱い。
 皆に手を振って、半ベソをかかないよう照れ隠しで後ろを振り向く。
 ぼくよりもっと泣きべそだからと反対側の奈良行きホームに残ったN君を見つけ、さらに大きく手を振った。
 N君もニッコリ笑い大きく手を振った。

 52歳。宇治の新春の静かな時間だった。

#平等院 #なごり雪 #京都

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?