拳法無頼ジンノー「絶殺の拳士と不死の姫君 の2」
「私を殺していただきたいのです」
最初に彼女が――シャオファが何を言ったのか、ジンノーにはよくわからなかった。それはジンノーが予想していた言葉とは大きく違った。
悪漢の兵士に追われる、顔立ち卑しく無き見目麗しい少女……。結果的にではあるがその窮地を救ったとなれば、次の言葉は「私を守ってください」とそんなところがくるものであると思うのが普通だ。
だが、シャオファの言葉はその真逆。自分を殺せと言ってきたのだ。
これにはさしものジンノーも面食らう。
「な、なんだぁ!? 自分を殺せだと? テメエ、いかれか?」
「……筋の通らぬ、おかしなことを言っているという自覚はあります。ですが私は真剣です! 類稀なる拳の技をお持ちであられる貴方様に、どうか私の命を奪っていただきたいのです!」
言葉のとおり少女の表情は真剣だ。頑な、と言ってもいい。どうあってもジンノーの手で自らの命を奪わせんとする意思を感じる。
だがいくら真剣だといってもいきなり自分を殺せと言われ、よし心得た! と応じられるわけはない。
「なんで儂がそんなことをせにゃあならん! たしかに儂の技あらば小娘の|素っ首一つごとき、叩き落すのに訳はないわい。しかしだな、儂とて神の法に学びし僧士の端くれよ。天地神明に憚ることなき、正たる理由も無しに殺しを行うほど血に飢えてはおらん! そのような頼みごとなど聞けるわけがなかろうが!」
怒鳴るようにして断固として拒否をする。実際怒りが無いでもないからだ。
ジンノーとて己が粗暴な男であるとの自覚はあるし、現につい今しがた数名の男を無残にも叩きのめしたばかりだ。かくのごとき暴虐の技を持つ者が人を殺めることもあると、穏和に生きる者であれば恐れることも承知である。
しかしジンノーはその技にこそ誇りを持っているのだ。たとえ粗暴な輩と万人に恐れられ、無残の男と蔑まれようとも、その技を振るう時にはけして己の誇りに恥じぬよう心している。
それを知らぬとはいえ、よりにもよって自死の手段に借り受けようというのであればこれは言語道断、ひどい侮辱だ。とてもではないが受け入れられるものではない。
「どうしても殺されたいというのであればせめて理由の一つでも述べてからにするのだな! もしそれがくだらぬ理由であれば首を落とすどころではない、尻を百は叩いてやるぞ!」
怒りにまかせ、手を振り上げて張り手の手つきを作ってそう脅しかける。尻を叩くとは言い過ぎにしても、頬を張るくらいのことはしてやるつもりだ。たとえ相手が道理のわからぬ小娘であっても言っていいことと悪いことはある。
「――理由ですか」
ポツリと、そうシャオファは言った。どこか沈痛な、なにかを覚悟をした顔だった。
言葉の後シャオファは自身の懐に手を入れ、ある物を取り出した。それは装飾を施された細長い棒状の物で、シャオファその両端を手に掴む。
(懐剣か?)
そうジンノーは推測した。
懐剣とは貴人が護身用等に持つ、携帯ナイフのことだ。護身用とはいっても短く華奢な刃は最低限の攻撃能力しかなく、気休めかお守り程度のものでしかない。彼女の懐剣もその鞘には小さな宝石や金細工が施されており、おそらくは緊急時の身分証明に使う程度の物だろう。兵士に取り囲まれた時にも使おうとしなかったのは、戦いの役には立たないからだろう。
しかし、そんなものを取り出してシャオファはどうするつもりなのか?
「理由は……これです!」
その答えはすぐに知れた。懐剣を抜き放ったシャオファは、やにわに己の喉もとに刃を突き立てたのだ!
「なっ……!」
これには無論ジンノーも驚いた。
たしかに懐剣は護身用とするには心許ない武器であるが、懐剣の使い道はそれだけではない。
懐剣のもうひとつの使い道、それは――
(自決だとッ!?)
華奢な刀身であれど女の柔肌を裂くくらいはなんでもない。気道、血管、神経が集中して通り、それでいて硬い骨は背の側にある喉もとは生物の急所中の急所だ。そこを鋭い刃で一突きもすれば誰であろうと死は免れえない。
「馬鹿者ッ! 何をしておるかッ!」
ジンノーは慌てて彼女に駆け寄り、弾き飛ばすようにして懐剣を打ち払った。鮮血にまみれた豪奢な小剣は乾いた音を立てて土の上に落ちた。
「ええい、傷を見せてみろ! 儂が急がばこの程度の傷など――」
傷を受けたショックからか脱力しぐったりとした少女の身体を抱き、血の滴る喉もとを素手で拭ってその傷を診ようとする。
「こ、これは……!」
再びジンノーは驚愕した。傷口の凄惨さにではない、刃が抉ったはずの傷口が治りかけているのだ。
「これ、が……理由、です……」
急激な失血による一時的な意識混濁のせいか、絶え絶えになりながら少女は言う。
「私の身にかけられた、おぞましき呪い……!」
「呪い、だと……?」
シャオファの言葉にジンノーは訝いぶかしむ。このような傷を治す術というのがこの世に皆無というわけではない。簡単な誰でも使える初歩の『傷止めの魔術』から、魔術の深遠の大秘術とも言われる『時返しの魔術』まで、形は様々であるが傷を治すという事象を為し得る魔術は多彩に存在している。
だがこの少女の傷口を治癒せしめた術というのはそのいずれでも無い。戦場で多様な魔術の行使を見聞きし、自身もまた僧侶として卓越した治癒の術を使ってきたジンノーはそう判断する。
(ただの治癒術とは明らかに違う……魔力の流れが妙だ)
「お気づきになられましたか?」
ジンノーの表情が変わったことを見て、シャオファは問う。
「魔術と魔術が絡み合っておる、のか……」
「さすが、ご賢察であらせられます」
彼の見立てに、シャオファは苦笑しながら肯定する。
「…………っ」
冷や汗がジンノーを額をつたった。歴戦の兵たる彼がこれほどまでに戦慄するとは、これは尋常のことではない。
さもありなん。通常、人間が一度に行使できる魔術というのは一つ限り。幾万の魔術を身に刻み修めた大魔術師であれど、一度に言の葉に上らせられる魔術の数は唯一つにすぎない。これは魔術師の力量や才覚に関係ない、人間という種族の限界がそう設定されているからだ。どれほど強力を極めても、己の襟首をつかんで宙に浮くことなどできないのと同じほどの自明の理である。
だが今シャオファの身に起きたことはその理を覆すものだ。
懐剣が穿った喉の傷を癒したのは、ありきたりな治癒の魔術だった。それは間違いないのだが……それだけではなかった。治癒の魔術(おそらく彼女の体内にあらかじめ仕込まれていた自動発動のものだろう)が働いたその瞬間、同時に別の魔術が発動していた。
確認できただけでも『周辺の大気から魔力を得る吸魔の魔術』『刃を押しとどめ傷口を広げさせないようにした反発の魔術』『失われた血液を補う増血の魔術』の3つだ。ジンノーよりも魔術の知識に明るいものであれば、さらに多くの魔術行使の痕跡を発見できたことであろう。さらにいえば、
(まだ奥がある。そんな感触もあった)
確認未確認に関わらず、今発動したもの以外にもさらに多くの魔術を自動同時発動させうるポテンシャルを、ジンノーの戦士としての勘は感じ取っていた。それはおそらく刺傷以外の死因を覆すべく用意された別種の魔術であろうか。ありとあらゆる魔術を全て生存のために使う、『完全生存複合魔術群』とでも言うべきものがシャオファの体内には仕込まれていた。
「だが有り得ん! 複合させた魔術を一人の人間の体内に仕込むなど、一歩間違えば生存どころか身体がバラバラに四散しかねんぞ……!」
なんたる精緻。なんたる巧妙。なんたる……おぞましさ。この術式を編み出した者がいるとすれば、悪魔的な存在であると言わざるを得ない。
ジンノーの言葉にシャオファは目を伏せる。その顔つきにはもうすでに生気が戻りつつあった。
「そう、ですね……。私の以前にはそうした例がほとんどだったと聞きます」
「以前、だと? ではまさか――」
ジンノーの口中に苦い物が広がる。彼女の言葉にある可能性が頭をよぎったせいだ。
彼女を責めたつもりはないが、シャオファは残酷な事実をつきつけられたかのような悲痛な面持ちで告白した
「……はい。この複合魔術式を完成させるために多くの人間が――私の知る限りでは300は下らないほどの数の人たちが――犠牲となっています」
「――」
絶句する……と同時に納得もする。300以上とは言うまでも無く少なくない数の尊き人命であるが、これほどの魔術式を完成させる代償であるならば安い物と考える外道も世にはいるだろう。
「……どこの腐れ外道だ。おまえの身体にそんなもんを仕込んだのは」
ふつふつと心中に沸きあがる吐き気をもよおす感情を抑えながらジンノーは問う。
これは正義感からの怒り……などと口幅ったいことが言えるほど、ジンノーは清廉な男ではない。人が塵芥のように死んでいった魔族大戦を駆け抜け、平和とは名ばかりの苦界のごとき戦後の大陸に身を置く無頼の徒。とてもではないが軽々しく正義などと口にできるほどの恥知らずではない。
だがそれでも許せることと許せないことというのはある。無頼が外道に怒りを抱いてはいけないなどという法はない。義憤ならずとも道理に悖る輩への怒りは拳を握るに相応しい理由だ。
燃えるようなジンノーの怒りの眼差しを正面から受け止め、しかしなお静謐たる瞳のままシャオファは答える。
「――その者の名はカジン。カジン・リュラン、今は亡き私の父にございます」
「父、だと……?」
こくりと頷き、シャオファは再度請願する。
「私を、どうぞ私を殺してくださいませジンノー様。私にはこの――父の遺した『おぞましき呪い』をこの世から根絶せねばならないのです!」
「成程……おまえの事情はあいわかった。くだらぬ理由かなどと言うたことは許せ」
悲壮なる少女の告白を受け、ジンノーは素直にそう謝罪した。
「それでは……!」
死を希うことを認める言葉を得て、シャオファは期待に腰を浮かせかけるがジンノーは手でそれを制した。
「待て待て。自ら命を捨てたいと、そう思うに値する事情はたしかに把握したが――だが儂はおまえを殺さん」
そう、きっぱりとあらためて拒否の念を押す。これにはさすがにシャオファも気色ばむ。
「何故ですか!? この身に宿る呪法のおぞましさと、そしてこの呪いが悪しき者――ええ、さきほどの悪漢どももその類でありましょう――に手に渡ることの危険性。それをわからぬとはおっしゃらないでしょう!」
恐れ、怒り、焦り、そして苦悩。それらの感情の混じった瞳で、なじるかのように彼女は詰め寄る。その様子には鬼気迫るものがあった。
しかしジンノーは眉を寄せ、じっと彼女を見返して言う。
「……理由はいくつかある」
指を一つ立てる。
「まず一つは今おまえを殺すことが単純に不可能だからだ」
「――!」
シャオファは目を見開く。その可能性を彼女自身が意識していなかったということはないはずだ。しかし一抹の希望がそれを覆い隠していたのだろう。
この僧拳士ジンノーであれば自分を殺せるのではないか、と。
それを他ならぬ本人から否定された彼女の落胆は計り知れない……。だがジンノーはそれでも彼女に滔々と言い聞かせる。
「儂の技を持っておまえの首を落とすこと、それ自体は簡単なことよ。しかし、それだけではいかんということはわかろうな?」
「……それがどんなに重くても、ただの傷ではこの身の呪いにより治癒してしまう」
彼女の答えにジンノーはうなずく。これもまた他ならぬ彼女自身が重々と承知していることだろう。
「左様。単純な武術でおまえの身を害すのであれば、先刻おまえが懐剣で自らの喉を突いたのと同じこと。技の冴えなどは無関係なことよ。儂がおまえの肉体をどう破壊しようが、おまえの身に宿るその複雑怪奇なる呪法はたちどころに治癒させよう。これでは徒に痛苦を与えるのみばかり……それはおまえとて望むまい?」
「それは、そうですが……」
「おまえにかけられた呪いの根はそれほどに深い。拳僧士の術の中には呪いの類を断ち切るものもあるが……おそらくそれとて対策はされておるだろうな」
解呪の聖術(僧が魔術を自ら使う場合はこう呼ぶ)というものがある。通常は魔術によってかけられた害ある呪いを解除する術であるが、これを応用すれば魔術式をキャンセルして彼女を殺傷せしめることも可能であるはずだ。……ただの魔術式であればだが。
この呪いのおぞましき周到さを鑑みれば、おそらくは解呪そのものを逆に無効化してくる魔術式が組み込まれていることは想像に難くない。
ゆえに、今のジンノーではシャオファを殺すのは不可能であるという理屈だ。
「それにくわえて第二の理由は……儂が僧の端くれだということよ。僧たる儂のこの拳でおまえを害することはできん」
ぐ、と拳を握る。鍛え上げ、擦り切れ、節の目立つ荒くゴツゴツとした岩塊のごとき拳骨がある。
ジンノーは己の拳を見つめた。シャオファもまたジンノーの拳を見つめた。
これは僧の拳である。悪しき者を打ち、罪あるものを貫くためのものだ。
しかしジンノーはそれを振るわないと言い切った。
「僧であるジンノー様は、私の罪深き呪いの根本……私の命を断つことはしないと、そう仰せられるのですか」
「そうだ。僧の拳は天の道に背きし悪逆たるモノを討つためにある」
「であるならば、数多の罪無き命を喰らい成り立つこの呪いは僧たる貴方さまの敵ではないですか!」
詰め寄るシャオファにジンノーはなおも冷厳として答える。
「……たしかにその呪いは無道なる罪の産物といえる。その手立てさえあらば儂とて即座にそれを滅していることだろう……。しかし、だ。真に罪深きはその呪いであっておまえではない。であればおまえが死なねばならぬ道理はあるまい」
「そんな」
それは彼女にとっては詭弁にも等しい理屈であろう。不死の力は彼女にとっても望んで得た呪いでは勿論無い。しかしだからといって現実的な問題として、彼女と呪いを分かつ方法など存在しない。
彼女と呪いが不可分であれば、呪いの持つ罪……それは彼女の罪にも等しいはずだ。
しかしそれを償うことをこの僧は許そうとしない。死による救いを否定し、苦しんで生きることを強いてくる。厳しく生きることを説くのが僧たるものの務めであるのだとしても、これはあまりにも無残か。
だがジンノーは言葉を弛ませない。厳しい瞳のまま少女に向き合う。
「いま一つ、最後に加えるべき言葉もある。色々と言ったがそうさな、これが一番の理由であろう。……おまえを殺さぬ理由だ」
まず最初に彼女を殺すことは事実上無理であるという理屈を告げた。
次には僧たる者としての道理をもって死を与えることを否定した。
最後になるのは――
「死にたい、とおまえは言ったな? ――儂はそれが気に入らん」
感情だ。まったくもって個人的な、理屈でも道理でもないただの感情だ。
「ああ、気に入らんとも。言うに事欠いてよくもまあ儂に向かって死にたいなどと言えたものよ。腹にすえかねるとはこの事だ。小娘め、どうしてくれるものかと儂のほうが言いたいくらいぞ」
「……!」
ジンノーの矢継ぎ早の言葉に、シャオファの頬に朱が差す。カっと頭に血が上ったのだ。
なんともはや、これはあまりにも無神経な言葉だろう。
不死の呪いが成立するまでに奪われた多くの人命、それがもたらす罪を一身に受けてしまった少女が死を願うことのはたして何が罪であろうか。
これにはさしもの心根穏やかな少女も、食ってかからぬわけにはいかない。
「……いけないことなのですか」
およそ相手を憎むなどということに慣れていないからであろう、眉間を不自然な形で歪ませて、青の瞳には精一杯の怒気をこめてシャオファはジンノーを睨みつける。
「この、生命の宿痾から逃れたいと! そう願うことはいけないことなんですか!」
宿痾。それは治らぬ病。
少女の身体と魂に宿った汚泥とでも言うべきか。おぞましき呪いは彼女の身体を蝕み、汚し続けている。それから逃れたいと、そう思う気持ちを誰が責めることができるものか。
「……死ですべてを帳消しにしようなどというのは、たしかに虫のいい、身勝手なことかもしれません。ですがそれでも私は生きていることが辛いのです……」
激した言葉は一瞬だけだった。すぐに目を伏して少女は躊躇いがちになる。
彼女もまたわかっている。自死することで罪を放棄するということの愚かさを。たとえそれが望まずに得た罪であっても、真に為すべきは罰を受けることではなく、罪を贖うことであると。
だがまだそれを受け止められるほど彼女の心は強くはない。20にも満たぬ、ただの小娘であればそれも当然のことだ。
「このような弱く情けない……惰弱な気持ちは、ジンノー様のごとき強きお方にはわからないと思いますが……」
心弱き少女の前に立っているのは猛々しくも巌のごとき剛拳を振るいし無頼の拳僧士。かのごとき強き男に、薄弱として生きる意志を失いつつある少女の心をどうして推し量ることができようか?
ましてそれが人外の業によって、死ぬこともできず苦しき生を強いられるなどという異常の事態を前提としているのであればなおさらに。
だが、ジンノーの答えは違った。
「わかるさ」
「えっ――」
シャオファは目を見張った。ジンノーの言葉に、ではない。その表情にだ。
『悲哀』
まさにその表情がジンノーの顔に張り付いていた。
(どうしてこのような……辛い顔をなさるのでしょうか?)
シャオファは戸惑い、そして不思議に思った。
それは同情の念ではなかった。少女の、かくも苦しき呪いの生を思い量ってただ一方的に得た感情ではない。ジンノーの表情には、たしかな『理解』があった。シャオファの抱く怒り、憎しみ、無念、恐怖、悔恨――そして悲哀。その全てをありありと共感することによって溢れた感情がその顔には現れていた。
「わかるとも」
ジンノーはそう繰り返す。
シャオファに、己に言い聞かすかのように言葉を紡いだ。
「わかるからこそ、儂はおまえにこう言うより他無いのだ。――手放すな」
「……っ」
その『何』を手放すなとは告げず。突き放すかのようなその言葉とともにジンノーからは即座に悲哀の貌は消え、厳しき戦士の目がシャオファを射竦めた。
「ジンノー様、あなたは一体――」
彼の表情の意味がわからず、問いかけようとするもジンノーは踵を返してシャオファに背を向けた。肩越しに投げる、表情無き言葉でシャオファを遮る。
「せめてもの手向けだ、このまま近くの大きな街までは送ってやろう。そこで、かなり難しくはあろうが……解呪の術を探すも良し。あるいは……初志の通り死する術を探すのも良かろう。好きにするがよい」
返事も待たずに歩き出した彼の背を見つめながら、シャオファは思う。
(ジンノー様、もしやあなた様もこの『生命の宿痾』――あるいはそれに類するモノをその御身にお持ちなのですか?)