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カフェ・シェケラートとグラニータ入りビール

イタリアの夏は、いきなりやってくる

昨日まで寒くてセーターやらダウンやら着て冬みたいだったのに、太陽が顔を出したかと思うと、いきなり真夏のような暑さで半袖短パンになりたくなる。イタリアの春から夏は、そんなふうに移行していく。日本のように三寒四温とか、梅が咲いて、桃が咲いて、そして桜が、みたいに徐々に春を感じていくような、そういう情緒はなくて、一気に暖かく(暑く)なるから花たちも一気にドバーッと咲く。情緒はないけれどにぎやかで華やかで元気がいい。

旱魃が続いた去年の春と夏

去年は冬からずっと雨(雪も)が降らなくて、5月の時点で暑くて暑くて、そして夏じゅう異常に暑い、南イタリアやスペインでは50度近い温度を記録したりした夏だった。雨が全く降らないから、トリノのセーヌとも言われるポー河の底が見えてしまうような深刻な旱魃に襲われた。

ポー河というのは、トリノがあるピエモンテ州にあるアルプス山脈から生まれ、東の方へ流れながら、リゾットになるお米の大産地ノヴァーラというところや、日本でもお馴染みのパルマの生ハムやらチーズが生まれるエミリア・ロマーニャ州を横切って、ヴェネツィアの海へ注ぐイタリア最大の河。

一方雨続きで大災害も起きている2023の今



大旱魃だった去年よりも、もっと暑いかも、という恐ろしい予報に反して、今年は今、もう6月の顔がそこに見えているというのに、毎日毎日雨続きでとても寒い。5月にこんなに雨が降るのは30年ぶりだというニュースもあったり。旱魃が続いていたから、雨はウエルカムではあるんだけれど。

ところが数日前に雨が止んで太陽が顔を出した途端、例のごとくいきなり夏になった。衣装ケースの中でまだシワシワのまま眠っていたTシャツを着て、グレースと近所のポー河沿いの公園に行ったら、川が轟々とすごい音を立てて溢れそうになっていてびっくり!

後ちょっとで溢れそうになっていたポー河。
ゴウゴウと音をたてて水量も流れの速さもすごくて恐い。

暑くなったら飲みたくなるシェケラート


さて「今日のおいしかった」マガジンなのに、雨の話が長くなってすみません! こんなふうにいきなり暑くなった今日、何がおいしかったかというと「カフェ・シェケラート」。

公園に行った後に約束していた友達とバールに入って、「今日は暑いねえ、冷たいもの飲みたいねえ」と2人で言いながら、実は2人とも心の中ではすぐにカフェ・シェケラートと決めていた、そんなカフェ・シェケラートとは?

こんな感じでカクテルグラスで
サービスされるカフェ・シェケラート

カフェ、とはご存じ、イタリアのエスプレッソ・コーヒーのこと。濃く淹れたそのエスプレッソコーヒーを、シェーカーに氷と一緒に入れてシェイクするから「シェケラート」。イタリア人の好みは、甘いリキュールと甘いシロップをたっぷり入れて甘く甘く仕上げるから、アイスコーヒーのスッキリしたイメージで行きたい日本人としては、「リキュールも、砂糖も、全部なしでね。センツァ・ニエンテ(without nothing)と2回ぐらい繰り返して注文する。しつこく言わないと、甘いのが当たり前と思っているイタリア人バールマンが、うっかり甘くしてしまうかもしれないからだ。

イケメンバールマンがシェケラートを作ってくれているところ、
実は2015年ごろトリノの老舗カフェ「ムラッサーノ」で
撮影したもの。今もまだいるかしら??

甘いのがやたらと好きなイタリア人たち

甘くないカフェ・シェケラートは、苦いエスプレッソとシェイクした泡がふんわりの混ざり合って、冷たくてスッキリして、お代わりしたくなるおいしさだ(なにせエスプレッソをシェイクしているので、量はそんなに多くない)。甘くないシェケラートが日本人好みと言っても、シロップとリキュールをほんの少しだけ入れてもらって、少し甘いシェケラートもそれはまたスタバの元祖みたいでなかなかおいしい。

ちなみにイタリアには、日本のように清涼飲料水やらジュースやらの種類はあまりないしコンビニもないから、一般的にどこでも飲めるのはコーラにスプライト、シュウェップスぐらいのもの。だからなのか知らないけれど、コーヒー、紅茶はもちろん、日本茶を入れてあげてもイタリア人たちはすぐに砂糖を入れようとする(!)し、バールなどで新鮮なオレンジをその場で絞ってくれるオレンジジュースにも砂糖が添えられて出てくる。せっかく健康によさげな搾りたての生ジュースにも砂糖を入れてしまう甘い甘いイタリアなのだ。

そしてグラニータ入りビール!

甘くないシェケラートを飲んでひんやりしてたら、数年前の夏、シチリアの田舎町のバールで飲んだ、あのビールの味をふと思い出した。旅行の途中、通過地点としてたまたま立ち寄った小さな町の地味なバールで、友人たち一同でビールを頼んだら、「入れるかい?」と言っておじさんが出してきたのが、レモンのグラニータだった。

おすすめしてくれたバールのおじさん、ありがとう!

グラニータとはご存じ、イタリア版シャーベットのようなもので、暑い夏には乳脂肪砂糖たっぷりのジェラートよりも、ジュースやシロップを凍らせたものをぐるぐるかき混ぜて少しゆるくして、ストローで飲めるようにしたグラニータの方が好きという人は多い。シチリアレモンやミント、アーモンドミルク、その他フルーツ味のものが一般的。そうそう、シチリアでは暑い暑い夏の朝ごはんには、甘めのパンにこのグラニータを挟んで食べる。

さて、そのグラニータが登場したのを見て、え? ビールに甘いグラニータあ??と思った私が周りを見回すと、バールにいた常連客みたいなおじさんたちがみんな「そりゃ入れるだろ」という顔をして、うなずいている。
そんなわけで、イタリアの、メーカーは忘れてしまったけど、普通の、特に特徴のないビールにレモンのグラニータを入れてもらって飲んだ。

これがおいしかったこと!

ちょっとぬるめのビールが、氷(グラニータ)が入ったせいでキリッとキレがよくなり、そしてほんのり甘酸っぱい味が加わって。夏の暑い午後にぐいぐい飲むのにはぴったりのおいしさ、気持ちよさだった。

そういえばメキシコのコロナビールにはレモンを入れて飲むし、 ベルギービールの流行の影響か、最近はイタリアでもフルーツ風味のビールがあちこちで売られているから、グラニータ入りビールは全然アリといえばアリなのかもしれない。でもあの、シチリアの田舎町の、場末感漂うバールのおじさんがガシャっとグラニータを落としてくれたあのビールの、金色の泡を今も時々思い出す。

そんなことを考えていたら、今日はまた雨で寒い。大雨のせいで、洪水の被害もイタリア各地で出ている。これ以上被害が増えないことを祈るばかりです。

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