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拒否をするなら金をくれ!(理事会活動協力金)2

前回のまとめ・あらすじ

理事会活動協力金は、理事会役員を拒否する区分所有者から金銭を徴収する制度であり、理事会の負担を公平に分担し、役員を引き受ける動機付けとするものです。導入には公平性の確保、役員報酬・手当の財源確保などのメリットがありますが、区分所有者の反発や法的リスクなどの課題も存在します。
今回のコラムでは、これらのリスクや課題を上手に解決する導入のポイントについて解説します。

理事会活動協力金制度を作る際の重要なポイント

  1. 透明な説明と合意形成:

    • 理事会活動協力金制度を設けるためには総会での承認が必要です。この制度の目的や必要性(前回コラム参照)を丁寧に説明し、区分所有者の理解と合意を得るように務めることは言うまでもありません。

  2. 適切な徴収金額の設定:

    1. 徴収金額を適切な範囲に設定します。
      では、この「協力金の適切な額はいくら?」ですが、2つの決め方(考え方)を紹介します。
      なお、協力金の支払い期間は「本来役員を受任したら満了するまでの期間」つまり、役員の任期が1年なら1年とします。

      ①月額2,500円(年30,000円)とする
      日本人らしい「前例にならう提案には反対が少ない」を利用するなら、この金額です。「月額2,500円」は、理事会活動協力金の額が最高裁で争われ合憲とされた(最終的に和解)金額です。

      この判例をかいつまんで解説すると、平成の時代に大阪市の分譲団地(昭和40年代・870戸)において当初、居住していない区分所有者に月額5,000円の協力金を徴収する管理規約改正が可決されたものの、一部の外部区分所有者が支払いを拒否し訴訟に発展。高裁では協力金を減額する和解が成立しましたが、最高裁では最終的に協力金の合理性と必要性が認められた事案です。

      この判決が出て以降、マンション管理業界(管理会社)では「役員を拒否する区分所有者から月額2,500円なら徴収できる有力な根拠ができた!」と管理組合へ提案し始めます。判決は一つのケースに対しての結論ではあるものの「最高裁で月額2,500円」がお墨付きのように広まったのは間違いありません。

      ②実際の効果を想定して決める
      仮に①の「月額2,500円」は、区分所有者に対する説明材料としては十分ですが、仮に郊外の年金生活者ばかりが居住するマンションや団地で「月額2,500円」だと「年金生活者いじめの(高額な)徴収額だ」と反発が広がる可能性が考えられます。一方で都心のタワーマンションで「月額2,500円」だと「お金払って理事を辞退できるなら喜んで払う」となり、むしろ役員のなり手不足を誘引する可能性すら出てきます。
      そこで、僕が顧客へ提案するのは「そのマンションの区分所有者間における金銭感覚で『安すぎず高すぎず』の金額を導き出す」です。

      この制度を検討するメンバー間で「月額1,000円ならとっとと支払って辞退するけど、月額10,000円だと年12万!それならイヤイヤでも役員を引き受けざるを得ない」みたいな会話を繰り広げていくうちに、良い塩梅の金額が導き出されます。(マンション管理士や管理会社フロント担当者によるファシリテーションで意見誘発があるとなお良いですね)

      ドライに言えば、不動産としての価格が高いマンション=区分所有者の収入が高いと考えて間違えないでしょうから、協力金の設定額を高くすべき、となります。都心のタワマンで月1万円の協力金徴収でも、富裕層には痛くも痒くもないし、金銭的には管理組合活動というボランティアよりも自己のビジネスに時間をかけたほうが1000%トクですし、経営者は経費で落とすこともできるでしょうから全く問題ないのです。

  3. 役員を拒否する(辞退する)理由は一切考慮しない:

    • 例えばマンションが東京にあって、北海道に居住し部屋を賃貸に出している「外部区分所有者」にとって、定期的な理事会の会合へのリアル出席は難しいでしょうが、オンラインでの出席なら可能なはずです。現地出席ができないだけで「理事会活動協力金の支払い対象者」と決めつけられるようなルール設定は、必ず外部区分所有者の反発を招きます。特に外部区分所有者比率の高いマンションでは、総会で理事会活動協力金制度のルール制定に票が集まらない可能性も高いでしょう。そこで「理事会や総会へのオンライン参加や代理人による参加」を認めるなど、柔軟な参加方法を提示して物理的距離をなくし、それでも役員を拒否するなら協力金を支払うようなルールにすることが重要です。

    • また特に、マンションに居住する区分所有者に対して、役員を辞退・拒否する際「体調が悪い」「高齢で務まらない」「仕事・子育て・介護に忙しい」「なんとなくやりたくない」など様々な理由がつけられると思いますが、僕は「理由は一切問わず、役員を引き受けないなら協力金を支払ってもらう」つまり「理事会活動協力金の支払いに関する免除を一切認めない」ルール設定を提案しています。

      免除を認めない方が良い理由は大きく2つあります。
      ①免除を認めるための例外条件を考えるときりがなく、免除に値する理由に該当するかを調べるのに無駄な労力と時間がかかるためです。例えば「私は病気です」と言われたら、その証拠として「診断書」を取り寄せますか?「仕事が忙しい」と言われ、勤務先から残業時間を証明してもらいますか?

      ②免除を認める・認めないの判断に、人間関係による忖度が生まれる可能性が高く、不公平感が埋まらないからです。
      役員辞退希望者の人柄や態度、辞退の希望を受ける側との人間関係などによって、同じような状況の人でも「この人は辞退を認めてあげよう」「この人の辞退理由は言い訳でしかないから認めない」と判断に差が生まれるのです。
      そもそも僕が考える「理事会活動協力金」とは、「すべての区分所有者に役員を引き受ける義務がある、という前提において、理事会役員として管理組合運営に貢献できない人が、その代替としてお金で貢献してもらうもの」という考え方です。「役員を引き受けない、お金も払わないはNG」という考え方をしっかり持てば、免除の規定はありえません。フェアネスの精神はとても大切です。

    • さらに「役員を受任したが理事会の会合に出席しない区分所有者」には、実質的に管理組合の運営に協力していないことになりますから、後追いで理事会活動協力金を徴収するようなルールを設定し、ルールに穴のないように(フェアネスが保てるように)配慮する必要があります。

  4. 理事会活動協力金制度は「ポジティブでフェアなルール」だと伝える
    ほとんどの区分所有者やマンション管理士・管理会社フロント担当者が、理事会活動協力金制度を「役員を辞退する区分所有者に対するペナルティ」と位置づけますが、これは僕の発想では間違っています。
    管理組合活動への貢献を「役員として理事会の会合に出席して、時間を使って貢献したいのか」「お金(協力金)で貢献したいのか」の二択を提示する、という考え方なのです。役員を引き受けるのとお金で辞退するのとには優劣なないのです。

  5. 必ず総会で承認を得る:

    • 理事会活動協力金制度(区分所有者からの金銭徴収ルールの制定)は、総会の決議が必要です。
      具体的には、
      ①管理規約に必要な条文を盛り込む場合、特別決議となり3/4以上の賛成が必要、とハードルが非常に高い反面、一度可決されると、これを覆すのもハードルが高いため、ルールが長く維持されやすい、というメリットがあります。
      ②細則に必要な条文を盛り込むか、新たに専用の細則を制定する場合は、総会出席者(委任状や議決権行使など、書面での意思表示者の票も含みます!)の議決権数(多くの場合、一部屋当たり1票)の過半数(50%超)の賛成で可決と、ハードルは非常に低いので、議案に出せば可決可能性が極めて高い反面、このルールを覆すのも同様に容易であるため、将来においてこの制度に不満を持つ区分所有者が役員になると消滅する可能性が高くなります。

    • 総会の議案に書くべきことは、前回コラムと上述の「理事会活動協力金制度を作る際の重要なポイント」に書いてあることをまとめれば十分でしょう。管理会社フロント担当者やマンション管理士に素案を作ってもらいましょう。

以上です。次回のコラムでは、「理事会活動協力金ルールの効果(事例)」と「ルール導入後における究極の選択」について書こうと思います。

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