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「野球好きタレント」の頂点に立つ‟元メジャーリーガー”?:『日本生命 presents 石橋貴明のGATE7』


 野茂英雄のMLB(大リーグ)挑戦の前年の1994年に公開された、クリーブランド・インディアンズ(22年からガーディアンズ)を題材にしたコメディ映画、『メジャーリーグ2』にはこんなシーンがある。首脳陣が補強について話し合う。

「ジャイアンツから新しい選手を獲得した」
「サンフランシスコ(・ジャイアンツ)にいい選手いたか?」
「いや、トーキョーのジャイアンツなんだ……」

 かくしてとんねるず石橋貴明演じるタカ・タナカはメジャーリーガーの一員となった。当時はギャグだったであろう“日本から外野手を獲得する”というシーンも、イチローや大谷翔平が大活躍したあとに見返すと隔世の感がある。

 

 最近では稲村亜美や上田まりえといった女性の「野球好きタレント」も珍しくないくらいだが、そうした「野球好きタレント」というジャンルの頂点に立っているのやはり石橋貴明だろう。
 TBSラジオ『日本生命 presents 石橋貴明のGATE7』でも、その野球愛は存分に発揮されている。毎週日曜午前7時からの1時間番組だが、基本的には1時間まるまる野球の話だけを喋り倒す。それも「野球選手が出したレコード」や「元明治大学野球部監督・島岡吉郎御大」、「かつてのアマ球界における、オリンピック野球日本代表の位置づけ」といったかなりマニアックなトピックスまで深掘りしていく。野球ネタ限定の『タモリ倶楽部』を毎週やっているような状態でなのである。

 石橋のアツすぎる野球への愛情と、その愛情に裏打ちされた野球の知識量にリスナーのみならず、球界関係者すら舌を巻く場面も少なくない。「ドジャー・スタジアムのエレベーターの遅さ」まで語る姿に、MLB評論の重鎮AKI猪瀬さえも大いに驚いていた。また知識の深さに加え、村田真一や星野伸之などの選手との交流した際の逸話なども他では聞けない話だろう。
 もはや「野球好きタレント」という枠を超え、本当に「元メジャーリーガー」というような風格さえ感じる。この番組でも話していたが、MLB選手からも「あのインディアンズの映画に出てた俳優でしょ」と声をかけられるほどの知名度があるという。日米双方で「野球好きタレント」として認知されている存在なのである。


 しかしながら、石橋貴明という「バラエティタレント」について書くことはすこし難しい。あの秋元康的な過剰な“ギョーカイっぽさ”が激しい毀誉褒貶を生んだのは周知のとおりである。
 これを書いてる私自身も『細かすぎて…』での石橋の“食いつき方”に大笑いする一方で、同じ番組の他のコーナーでのやや過剰なまでにガサツに振る舞うことでその場を引っ張ろうとする姿勢に、「わかっていても」、好きになれない部分が多々あった。

 しかし『GATE7』で球界関係者との野球トークで盛り上がる石橋には、そうした”ギョーカイっぽさ”はほとんど見かけない。『みなおか』で番彼と正反対とまでいかないが、出来る限りゲストの聞き手に徹し、しゃべりのプロではない球界関係者を「アシスト」する側にまわっている感すらある。テレビのイメージが強いリスナーには、この番組での石橋の姿をかなり意外に感じるかもしれない。「やっぱタカさんは野球大好きなんだな~」という感想に加えて「タカさんってラジオだとこうなんだ~」というような、意外な発見があるはずだ。


 ナイツの塙宣之(塙も巨人ファンを代表してこの番組に出演したことがある)が著書のなかで『アメトーーク!』について、「あの番組の肝は実は内容ではなく、好きなことに夢中になっている芸人の姿がおもしろい」、「じぶんが好きなジャンルを熱く語るだけでボケになる」という趣旨のことを書いていたが、まさに『GATE7』での石橋は、これに当てはまるだろう。そして日曜の朝からマニアックな野球バラエティ番組を成立させられるオンリーワンの芸能人だと思う。

 今年の1月にマンガ家の水島新司が亡くなった。「漫画の神様」が手塚治虫などほかのマンガ家だとしても、「野球漫画の神様」は間違いなく水島新司というような、そんな大きな存在だった。
 令和4年の今、まだ「二代目水島新司」と呼ぶべき野球漫画家は現れていないように思うが、「野球の伝道師」という意味であれば石橋が「二代目水島新司」でも全く異論はない。

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