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e-bikeのすすめ

先日、巷で話題の「e-bike(スポーツバイクに電動アシストユニットを取り付けたもの)」を初めて体験してきました。霧島周辺でも各地で導入されていることは知っていましたが、なかなか時間がとれず、今回ようやく実現。乗ってみた感想や今後の可能性について簡単にまとめました。

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まずは「アウトドアステーションえびの」へ

今回、e-bikeをレンタルしたのは道の駅えびのの横にあるアウトドアステーションえびの。アウトドア情報やグッズなどが並ぶおしゃれな空間です。カフェでもあり、フリースペースとしての利用もできます。e-bikeの料金は¥2,500/4時間(保険料込み)。事前に予約しておけば手続きがスムーズに進みます。スタッフの方から諸々の説明を受けて、ヘルメットを装着すれば、いよいよスタートです。

しかしながら、自転車の運転自体が久しぶりの私(高校卒業以来約20年ぶり…)は、e-bikeにうまく乗れるかどうか当初は不安でしたが、いざ乗ってみるとスイスイ~。普通の自転車と大きくは変わりません。今回は初めてなので、比較的上り坂が少ない「真幸駅」へ向かうことにしました。

今回のルート:アウトドアステーションえびの(標高228m)=真幸駅(標高386m)=吉田温泉(標高250m)=京町温泉(標高221m)=金松法然(268m)=アウトドアステーションえびの

川内川を渡り、グリーンパークえびのを通り過ぎると、景色がぱっと開けて左手(南側)に広大な田んぼが現れます。戦国時代はこの米どころ・真幸院(えびの市~小林市一帯は当時「真幸院」と呼ばれていました)をめぐって何度も戦が繰り広げられました。その当時を偲ばせる山城の跡がこのあたりにはいくつか残っています。のどかな田園風景が広がる現在の様子からは想像もつきません。

神官型(えびの市)

中内竪地区の田の神さあの前を通り過ぎると、いよいよ真幸駅へ向けての上り坂に入ります。上りに入るとだんだんと足に乳酸がたまってきますが、そんなときは軽めのギアに変えると負担が軽減されます。普通の自転車だとこのままではなかなか前に進まないのですが、そこはe-bike。電動アシストが確実に後押ししてくれます。電動アシストは「エコ」「スタンダード」「ハイ」「エクストラパワー」等のモードがあるので、必要に応じて切り変えると便利です。スタートから1時間弱で最初の目的地・真幸駅に到着しました。ここでお昼ご飯。

真幸駅2

真幸駅でひと息

真幸駅はJR肥薩線の駅のひとつで、スイッチバックが見られることで有名です。スイッチバックとは、険しい斜面を電車が登るためにジグザグに敷かれた線路のことで、そこを走る列車は進行方向を反転させながら進むことになります。この真幸駅から次の矢岳駅までの間は、加久藤カルデラの切り立った壁を一気に上るルートで、そこから見える景色は「日本三大車窓」のひとつに数えられています。残念ながら2021年2月現在、前年7月の豪雨災害の影響で吉松~八代間が普通となっており、電車の往来を見ることはかないません。

山津波記念碑2

その真幸駅のホームには「山津波記念石」があります。これは1972年の集中豪雨に伴って駅の裏山が崩れた際にここまで流されてきた重さ8トンの岩で、住宅28戸が流され4名が亡くなった災害の教訓を後世に伝えるために現在も保存されています。もう半世紀近く前の出来事ですが、水害や土砂災害と常に隣り合わせにある私たちに重要なメッセージを伝えてくれています。

加久藤盆地の田園風景が語るもの

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真幸駅を後にして今度は逆に坂を一気に下ります。下りはそこそこのスピードが出るので、左ブレーキをうまく使ってこまめに減速すると良いです。それにしても、前方に見える霧島山の景色の見事なこと。この日は少しもやがかかっていましたが、それでもこの雄大な景色を横目に自転車で駆け抜けることができる幸せ。こういう開放感と爽快感を味わえるのもe-bikeの大きな魅力です。ただし、景色に見とれすぎると危ないので、運転中は前方をしっかり確認することが大事です。

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京町温泉を抜けて加久藤盆地の中を東に進んでいくと、左手(北側)に広がる田園風景とその奥に連なる山々が見えてきます。そもそも加久藤盆地とは、この場所で起きた約34万年前の巨大噴火で陥没してできた地形(加久藤カルデラ)です。その噴火に伴って、いま見えている山並みのてっぺんのあたりから少なくともこの田んぼが広がる高さまで地面が一気に陥没したのです。そこに水や土砂がたまり、やがて水が抜けて現在のような盆地になり、その地形や霧島山麓の湧水などをうまく使って人が暮らしてきたということになります。こう考えると、何気なく見える風景の奥にある地球の壮大な物語とその恵みというものを実感します。

そんな大地と人のストーリーに感動していると、上空を1羽のオオタカが爽やかに舞ってくれました。オオタカは冬になると山から里に下りてくる猛禽類のなかまで、春になると里に下りて豊作をもたらす田の神さあとちょうど入れ替わるようで面白いです。山と里は切り離された存在ではなく、密接につながっていることを私たちに教えてくれているようです。

お供え物は焼酎

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残り時間が少なくなってきたところで、最終目的地に選んだのは「金松法然(かなまつほうぜん)」。ここは江戸時代に栗下地区に住み着いた焼酎好きのお坊さんを祀る神社で、焼酎を供えて1つだけ願をかけるとかなうそうです(2つはNGとのこと)。お供え物のシステムもユニークで、神前には漏斗を付けた一升瓶がずらりと並べられており、参拝者はそこに持参した焼酎を注ぐのです。供える焼酎はもちろん明石酒造の「明月(めいげつ)」。ベースは芋焼酎ですが、米焼酎がブレンドされているところが大きな特徴です(米はえびの市産のヒノヒカリ)。焼酎の甘い香りが漂う神社って何だか素敵ですね。

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まとめ

最終的にアクシデントもなく無事アウトドアステーションに帰り着くことができました。総移動距離は29.5km、時間にして3時間30分。とても良い運動になりましたし、ぽかぽかした陽気の下でえびのの魅力をじっくりと再確認できました。

驚きだったのは、これだけ走ってもバッテリーが20%しか減らなかったこと。これは上り坂が少ないコースを選んだからかもしれませんが、意外とバッテリーは持つ印象を持ちました。e-bikeの貸出時間は限られているので、あらかじめ無理のないコース設定をしておくと良いでしょう。アウトドアステーションでモデルコースの地図をもらえるので、それも参考になります。

e-bikeの可能性

今回体験してみて感じたのは、e-bikeは自動車と徒歩の観光の間を埋める存在になりうるということです。確かに車は移動に便利ですが、点をたどる観光になりがちで、その間にあるものに気づかず終い、ということがよくあります。その逆に、徒歩での観光は自分のペースでまちの細部までをじっくり見ることができますが、移動範囲がどうしても限定されてしまいます。e-bikeはこの両者の間を埋めてくれる優れたツールだと言えます。電動アシストがありますから、高低差や距離があるコースでもまったく問題ありません。

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また、こうやって自転車でまちのあちこちを走ってみて気づくのは、何気ない風景の中に垣間見える人の暮らしです。生活感あふれる多様な風景はそのまちの魅力や文化についてときに主要な観光地以上に多くを語ってくれます。観光ガイドブックに載っているものだけが旅行者にとっての見どころではないことをつよく実感します。

人との出会いが生まれることもe-bikeの魅力ですね。今回も、道中で何人かの地元の方に話しかけられることがあり(「いいのに乗ってるね~、どこから来たの?」みたいな)、そこでいろんなお話を伺うことができました。そのときそこでしか生まれることがない出会いとコミュニケーションは、旅行者にとって忘れられない思い出になるはずです。

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さらに、持続可能な観光(Sustainable tourism)の観点からもe-bikeには利点があります。例えば、e-bikeは自動車と違って排気ガスを出すことは一切ありません。気候危機が叫ばれている地球において温室効果ガスの排出をできるだけ抑えるのはとても重要なことです。今後e-bikeは、自然環境にできるだけ負荷をかけない持続可能な観光の推進のための重要なツールになっていくのではないでしょうか。

今回、初めて体験したe-bike。霧島ジオパークにおける持続可能な観光を盛り上げていくために、この強力なツールをどう効果的に使っていくか、これからじっくりと頭をひねる必要があります。そんな前向きな気持ちが生まれた楽しい1日になりました。さて、次はどこに出かけようかな~🚴

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