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中岳中腹探勝路のミヤマキリシマ

ミヤマキリシマ(Kyushu Azalea)は、九州各地の火山地域にのみ自生するツツジのなかまで、5月中旬から6月上旬にかけてピンク色の鮮やかな花を咲かせます。1909年に植物学者の牧野富太郎博士が霧島山を訪れた際にその名前が付けられたミヤマキリシマ。その霧島山ならではのストーリーを追ってみたいと思います。

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ミヤマキリシマは火山活動で撹乱された山地に最初に出現する植物(パイオニア植物)のひとつで、最盛期には山全体がピンク色に見える程の密度で山肌を独占します(上の写真: 御鉢火山の山肌, 2014年5月撮影)。最近も噴火を繰り返している霧島山には、ミヤマキリシマの観察にうってつけの場所がいくつかあります。そのひとつが中岳中腹探勝路です。

中岳中腹探勝路

登山口の高千穂河原から森の中を歩き進めると、足元に砂利のような小石が登山道をびっしりと埋めているのに気づきます(上の写真: 2013年5月撮影)。これらの小石は2011年1月の新燃岳噴火で積もった軽石です(高千穂河原周辺で30cm以上の厚さ)。その噴火の影響で中岳中腹探勝路に元々生えていたミヤマキリシマをはじめ、多くの植物がいったんは葉を落としました。

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しかし、一度は枯れてしまった(ように見えた)ミヤマキリシマは再び成長を始めました。上の写真を見ると、噴火で枯れた部分の根元から新しい樹幹が成長して花を咲かせている様子が分かります(2014年5月撮影)。このような噴火からのミヤマキリシマの再生は、噴火によって追加された霧島山の新たな魅力となりました。

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そして、新燃岳2011年噴火から10年が経過した現在の中岳中腹探勝路が上の写真です(2021年5月23日撮影)。ミヤマキリシマが立派に成長した一方で、それ以上の速度で大きくなったのがコバノクロヅル等の樹木でした。誰も予想しなかった変化だと言えるでしょう。四季のサイクルとは別な時間変化を今後も見せてくれるであろう中岳中腹探勝路の風景から今後も目が離せません。

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噴火から時が経ち植生の遷移が進んで森林化が進むと、ミヤマキリシマは優先種ではいられなくなり、やがて目立たなくなっていきます(上の写真: えびの高原池めぐり探勝路, 2014年6月撮影)。霧島山には、噴火から間もない新燃岳のような火山から、最後の噴火から数万年が経過して十分に植生遷移が進んだ火山(大浪池、六観音御池等)までバリエーションがあるので、それらの植生から今後の中岳中腹探勝路の姿を予想することもできます。そのような見方で霧島山を歩いてみるのもいかがでしょうか?


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