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見に行くつもりじゃなかった

■ピッチには魔物がいる

12月8日から一週間たったというのに、まだあの試合から離れられない。

東京ヴェルディとの「J1参入プレーオフ決定戦」。

見に行くつもりのなかった試合だった。

いや、だって。いくらなんでも、ジュビロが最終節で16位に下がってプレーオフの試合が発生するとは思っていなかったから(笑)。12月2日のJリーグ最終節。川崎フロンターレ戦の、残り30秒までは。

プレーオフの試合が終わった12月8日の夜は、ちょうどNHKスペシャル 『ロストフの14秒 日本vs.ベルギー 知られざる物語』が放送されていて、少し苦い思いで見た。川崎フロンターレ戦のラスト30秒も、ベルギーの超絶カウンターをくらった14秒と同じ、ピッチの魔物に遭遇した時間だったのだ。

よく「決定的瞬間」と言われるけれど、ああいう時間って、本当に目の前で起こっていることはスローモーションになる。「時間を止めてほしい」という気持ちがそうさせるんだろうか。思考は停止し、見ている自分も選手たちと一緒に「ゾーン」に入ってしまったような不思議な感覚になる。

望み通りに行くか、望まないほうに行ってしまうか。結果は、家長(いつもやなことばかり仕掛けてくる。つまりいい選手。好きだけど(笑))にまんまとやられてしまい(うう…)、なおかつ(!)名古屋グランパスと湘南ベルマーレが引き分けたので、ジュビロは得失点差で16位に転落。J2の6位からプレーオフの権利を勝ち取ったヴェルディと「J1参入」をかけて対戦することになった。

「行こう!」「行くしかない!」

気持ちはすぐに固まった。ホーム・ゲームは春と夏に年2回行ければいいほう、アウェイ観戦が基本のゆるサポの私なのに、決定的敗戦となったフロンターレ戦に行けなかったこともあって(チケット取れなかったの。優秀チームのホーム最終節ですもんね)不完全燃焼な気持ちを引きずっていたし、こんな大事なときに行かない理由はない。今度はチケットも奇跡的に取れた。

ジュビロの試合をずっと一緒に見てきている友人(名波ファン)も「やっぱり行きたい!」ということになり、「行こう!」「どんな結果が待っているとしても、自分の目で確かめよう」「応援しよう」と、気合を入れまくってヤマハスタジアムへ向かったのだ。

結果は、もう皆さんご存知の通り。2-0で勝ち、ジュビロ磐田は来シーズンもJ1リーグで戦えることになった。試合終了のホイッスルを聞いたときは、ただただホッとした。

■ヴェルディとのプレーオフ

「いいね」「今日はめちゃくちゃ気合入ってる」「ミスが少ないし、ガツガツ取りに行ってる」「今シーズンは、こういう試合、なかったよねえ」「こういう試合ができていたらねえ」…。

試合中に、何度も友人とこんな会話をした。最後の2つは、今は言っちゃいけないことだったと反省したけど、多くの人がそう感じていたんじゃないだろうか。

試合の入り方がとてもよかった。俊輔と川俣は調子を崩して出られなかったけど、ヤマハスタジアムでアダイウトンを見られたのがうれしかった。みんないい感じに集中していて、一つ一つのパスには意志が感じられた。田口や大久保のパスなんか、濃い色がついているのかと思うくらい、スタンドから見ていても気力が伝わってきた。

前半に小川航基がいい抜け出しをしてPKから1点(よし!)。後半に田口が狙いすましたフリーキックで1点を追加(っしゃあ!)。ピンチは何度かあったけれど、シュートはカミンスキーがガツンとブロックしてくれたし、相手チームをしっかり研究した感もあって、少しも怖さを感じなかった。ピンチにも落ち着いて対応し、最後まで(!)守りきった。快勝と言っていい、美しいホームゲームになった。

「今年一番」といっていいかもしれない美しい勝利は、苦い勝利でもあった。リーグ戦が終了した後に行われたこの試合は「エクストラ」。何点取っても、選手やチームの記録に加算されることはない(でも、負けたらアウト)。名波監督がいうように「戦わなくてもよかった」試合だった。

ただ、来シーズンもJ1で闘うためには絶対必要な勝利ではあったし、「川崎戦のラスト30秒」―「地獄の一週間」―「ヴェルディとのプレーオフ」と続いたデスロード体験は、チームが一つになり、次のシーズンでシフトチェンジするためのいいきっかけになってくれたと思う。いや、そうしなくては。

ヴェルディと対戦したこの90分間には、今シーズンのジュビロに足りなかったものと、来シーズンを勝ち上がるためのヒントがあったと思う。

この時期に公開された、大久保、俊輔、ドゥンガのウェブインタビューにも、同じく、来シーズンへのヒントが語られていた。

 大久保嘉人「選手の技術は高い。自信がないだけ。ずる賢さと判断力さえ身につけば、強くなる。それを植え付けるために(自分が)いろいろやるし、そうなれば来年は面白い」。名門復活が懸かる来季を見据えた。
中村俊輔「個の力や自由さ、楽しさを追求するのも大事だけど、たとえばビルドアップの部分などでも、緻密な戦術といったものが個を引き出し、助ける形にいまはなっている。来年は外国人(外国籍選手枠)が5人になるんだっけ? Jリーグがガラッと変わっちゃってどうなるかわからないけど、クラブもスタッフも選手もそういうスピードについていかないと、今年みたいな結果を招いちゃう。一歩先を進みながらプラス、ジュビロらしさみたいなものがあれば。今年苦しんだことは、来年はね上がるいい材料になる」

名プレーヤーたちの言葉はずしりと来る。うなずけることばかりだ。

■いくらなんでも

思い返せば、今シーズンのジュビロは、「いくらなんでも」なことの連続だった。

アダイウトン、ムサエフ、新里と、チームの要の選手が試合中に大けがをして長期離脱。ギレルメがマリノスの選手に暴力をふるい、解雇になった。

これはリーグ全体に対してのことだけれど、ワールドカップの影響で、長い中断期間と夏場の15連戦を含む変則的なスケジュールになったのも痛かった。リーグが混戦になったのも、このスケジュールが影響していると思うし、ジュビロでいえば、川又の調子が不安定だったのも、ワールドカップへの思いが強すぎたことも一因なのでは? と個人的には思っている。原因はともかくとして、長いスパンで考えればこんなときもある。仕方のないことだ。

そうこうしているうちに、得点はできないわ、浦和レッズ、名古屋グランパス、清水エスパルスに大敗するわで、得失点差を13まで積み上げてしまい、最終的には16位になってしまった。イニエスタに初ゴールを決められたりもしたし、結果的に、多くの選手とチームの調子を上げるきっかけを与える役割をしてしまっていた。最後の最後にしても、川崎戦アディショナルタイムでは失点し、自力残留ができなかった。

これは後から知った話だけど、ジュビロが練習を非公開としていた期間に、川又がけがをし、俊輔が足をねんざ、名波までもが足をケガして松葉杖状態だったとか。

もし、いつものように練習を公開していたらと思うと、ぞっとする。ただでさえ、ヴェルディの「下剋上」を期待する空気があったところに、スポーツメディアとネットに格好のネタを提供することになっていたはず…。こわ…。

もう「呪い」とか「災厄」という言葉でしか説明できないような状態だったと思う(笑)。

占星術とかスピリチュアル系の話には興味がなくて、気にしたことはなかったのだけど、《12月7日で「水星逆行」が終わる(期間中は、コミュニケーション・通信・連絡・知性・旅行・輸送の流れや接続がうまくいかなくなるらしい)》と知ったときには、「それだ!」と思ってしまったくらいの災難だらけのシーズンだった(笑)。

ただ、これだけ選手のけがが続いたのは、トレーニングやケアの方法に問題があるかもしれないので、そこはきっちりと検証し、見直すべきところは改善してほしいと思う。

■「こいつらとサッカーをしたい」

そんなこんなで、水星逆行の終わりとともにジュビロは這い上がり、名波監督が来シーズンも指揮を執ることに。プレーオフ前後のことと詳しいいきさつについては、プレーオフ後に出演した静岡のTV番組「たっぷり静岡」で(ネットで見た)とても正直に語ってくれて、本当にうれしかったし、名波らしいなと思った。

・川崎戦後の一週間は地獄だった。試合後の2日間はオフ。リビングにふとんを持ち込んで、リビングとトイレを往復するだけだった。
・プレーオフ前には、結果がどうであれ辞めると決めていて、前日にはご家族を一列に並ばせて「明日はやめるぞ」と話したら、ちびちゃんまで、全員大号泣だった(名波家 全員大号泣の巻)。
・試合後の会見でもそう言うつもりだった。思いとどまったのは、木村社長と服部強化部長の説得と、木村社長がストッパー要員として奥さんを記者会見の会場入口に配置していたことなどがあり、最後の決め手になったのは、試合に出なかった選手たちのお風呂場での馬鹿話(笑)。「男気とかプライドとかじゃなくて」、「また、こいつらとサッカーをしたい」と思った。

選手たちよりも「一番引きずってたのはオレ」とも言っていたと思う(笑)。ここまではき出してくれたら、サポーターとしては「おかえり」と言うしかない。こういうところが「人たらし」と恐れられるゆえんだろう。

木村社長、服部強化部長、ありがとう。名波浩引き留めの戦略はカンペキでした。木村社長のプレーオフ後のメッセージに「来シーズンも引き続き5位以内を目指します」というくだりがあり、名波へのメッセージだなと思いました。

「たっぷり静岡」の最後には、来シーズンの話になった。名波監督は、去年はいろいろ言ってあんなことになっちゃったからと、選手が「みんな楽しく健康に過ごせればいい」と。

はい。そう言いたくなる気持ち、少しわかります(笑)。

俊輔、大久保、ドゥンガの言葉が重いと書いたけれど、名波浩の言葉もとても重く、とびきり面白い。いつも、試合はもちろんのこと、試合前とハーフタイムのコメント、試合後の総括がとても楽しみで、印象に残った言葉は日記に書きとめていた。

最高だったのは、広島に3-2で逆転した、ホームでの第31節かな。前半は0-1で負けていて、そのハーフタイムに名波がホワイトボードに書いたという「我々は死んでいないし、もう生き返った」という言葉。あれにはシビれた。このときは、その言葉どおり、後半に0-2にまでなったのを、川又のヘッドに始まり、櫻内、小川航基と決めて逆転したのだ。

「ことだま」のいわれのように、名波は言葉に気持ちを載せて引っ張っていける人だと思っているけれど、今シーズンはそれが逆に働いてしまったこともあったのかもしれない。

わたしの気のせいならよいのだけど、「とても重要な試合」と位置づけると、その試合を落としてしまうことが多かった(笑)。名波の言葉の力が強すぎるのかもと何度も思った。選手たちが言葉を強く刻みすぎて、「逆ことだま」的に「呪い」に変わってしまうような…。最悪の事態を提示されると、そこから逃げようとして逆走してしまう呪いにかかったような…。

まあ、どれだけメンタル弱いんだという話だうけど(笑)。追い込まれがちな選手たちに向かって、「もう考えるのはやめて、練習休んでみんなでいい温泉に浸かって!」「サッカーを楽しんで!」と、テレビの前から何度訴えたことか。最後の方には名波監督にも。

しかし、これからは違う。今シーズン最後の地獄の体験はチームを強くしたはずだし、ターニングポイントになってくれるはずだ。だって、あれ以上の地獄なんて、そうそうないでしょ(笑)。もうこれからは何にもビビることなんてない。ヴェルディとのプレーオフは、厄落とし戦でもあったのだ。

■おっさんと若手が融合するドリームチーム

とはいえ、来シーズンは苦しむことになることは覚悟している。外国人枠が増え、イニエスタの加入で海外からも注目が集まるようになったのか、資金力のあるチームはさらに高額な選手を招き入れるようになり、すでにJリーグはちょっとした外国人監督ラッシュになっている。

ローカルで商圏も小さいジュビロのようなチームに同じことはできないから、そこを逆手に取って、ニッチなチームづくりをしていくのも面白いんじゃないかなあと思う。ヤマハスタジアム周辺には、首都圏の大きなチームにはない魅力があるもの。ふるさと納税じゃないけど、ふるさとを持つような感覚で応援していくのもアリだと思う。

それにジュビロには名波浩がいる。中村俊輔がいる(契約を更新してくれるかどうかはわからないけど)。大久保嘉人がいる。これってやっぱりすごいことだ。どのチームも大型補強をしてベテラン選手を切っていく中で、個人的にはこういうチーム・スタイルがあってもいいと思う。時代に逆らってる? 上等じゃないの! クリント・イーストウッドの『スペース・カウボーイ』みたいな大逆転劇を見せてやろう! おっさんと若手が融合するドリームチームで!

――というのは、わたし個人のドリームだけれど(笑)、名波ジュビロが夢を見せてくれるチームであることは確か。名波は「持っていない」部分もあるのかもしれないけど、面白さは「持っている」。名波のいるところにドラマが生まれる。ときには、16位に転落してプレーオフにまで行っちゃうこともあるけど(笑)、「とにかく面白いから、見てて」とは言える。こんなチーム、ほかにないから。

しかし、今シーズンの鹿島アントラーズの躍進は見事だった。鹿島戦では、アウェイ、ホーム、ともに引き分けたけど(大岩と名波のバトルにはゾクゾクした)、そこからタイトルを取りながら大きくなっていった。半年かそこらの期間でこうも変わるのか。すごいなあ。

ジュビロの黄金期に熱狂した一人としては、つい今のチーム状態と較べてしまうのだけど、半年だってこんなに変われるというのは希望になる。

ドゥンガも言っていたように、日本サッカーのレベルは格段に上がっている。ジュビロも名波監督も、今シーズンの結果とリーグの変化を受け止めて、今のジュビロのサッカーを新しくつくっていかないといけないと思う。

各チームで移籍情報が飛び交うなか、ジュビロからのお知らせは、いまのところ、社長が小野勝さんに替わることと、2019年シーズンソングアーティストに足立佳奈ちゃんが就任したことくらいというのが、のんびりしていてほほえましい(サックスブルーのユニフォームがよく似合う)。

来シーズンの開幕戦のピッチに立っているのはどんな選手なんだろう。

■気持ちを新たに

「戦わなくてもよかった」ヴェルディとのプレーオフだったけれど、サポーターの気持ちを強いものにするという副産物をもたらしてくれたのではないだろうか。

例えば自分のことで書くと、プレーオフが決まってからの一週間は、本当に何をしてもフロンターレ戦や、8日の試合のことが頭から離れなかった。試合ももちろん忘れられないものになったし、終わってからも、まだこうやって振り返ったり、選手の移籍情報を気にしたりしている。

プレーオフを体験するまでは、自分がこれほどジュビロと名波のことが好きだとは思わなかった(笑)。いちばん熱狂していた頃に近いかもしれなくて、自分でも驚いています。

気づかせてくれてありがとう。来シーズンは、もっとホーム観戦をしたいと思う。






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