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宝塚歌劇の雪組の『CITY HUNTER』の新人公演

 作品と演出家と劇団には書きたいことがたくさんあるけど、ちょっと後回し。新人公演のレビューです。

 新公チーム全員が本当に楽しそうに演じていて、舞台上はキラッキラ。本役さんにとらわれることなく自由に表現している子が多くて、それが気持ちよかった。芝居を深めることより、段取りやキャラ作りなどに奔走することが多そうなので、新公ではやりやすかったのかもしれない。

 キャスティングがドンピシャ。役が多いのに、上手いこと割り振っていて、それを見ているだけでも楽しく、新たな面を見つけたり、デキる下級生も大勢見つけたり、実り多き新人公演だった。

 特筆すべきは、主要キャスト三人が輝いていたことだ。

 縣千さんはスターだった。
 彩海せらさんは天才的役者だった。
 音彩唯(ねいろゆい)さんはアイドルだった。

   三人それぞれの個性の打ち出し方、輝きが眩しかった。この公演では初めて新人公演の配信が行われたけど、この三人が揃ってしまっては、劇団が「お見せしちゃいましょう」と、新たな展開に動くのも分かる。

冴羽獠を演じた縣千

 この役で一番大変なのは身のこなしだと思う。イキイキのびのびカッコよく演じられたのは縣さんだから。スタアを感じさせる大物新公役者はいても、ここまで力を抜いて演じられるのはまれ。役が縣さんの良さを引き出した面があるのかもしれない。
 冴羽獠は、自分自身の思いをほぼ語らない「昭和の男」。ほかのキャラクターのセリフでしか語られないから、人によっては苦戦したかもしれない。そこを縣さんは得意の身体的演技で「あっかるい獠ちゃん」を楽しそうに表現していた。陰影はないけれど、本人が「タカラヅカニュース」で話していたように、好きだからこそ香を拒絶したり、王女には気のある素振りをしないところはわかりやすく表現していて、あがたさんの「獠ちゃん」のカラーがよく出ていたと思う。
 立ち回りは文句なし。本当にカッコよい。
 歌は、今回は練習する時間もあまりなかったのかな。感情とメロディーラインがリンクしていないから難しかったかな。
 なんといってもこれは新人公演。役の理解力はしっかりしているから、きっとそこに追いついてくると思う。がんばりましょう。

香 音彩唯(ねいろゆい)

 娘役歴が短いからこそのリアリティのある香。女性のポジションにいることを居心地悪く感じているようなところが自然に出ていてチャーミング。表情に力があって、本当にアイドルみたいだった。
 どこにいても目立つし、あがたさんと並ぶと絵になることこの上ない。

ミック・エンジェル 彩海せら

 雪組ファンならずとも、すでにその名は轟いていると思うけど、本当に芝居がうまい。
 うまいのにゴリゴリ押してくる感じもなくて、全体のバランスを見ながらコントロールできているのもすごい。そして、役によってどんな人物にもなりきってしまう。そら恐ろしい。
 ミックでも新人公演ということを忘れて存分に楽しませてもらった。齋藤作品に出てくるカタコト日本語を話す外国人が個人的にはどうしても好きになれないのだけど、彩海せらさんは、きわめてナチュラルに演じてストレスを感じさせなかった。
 ミックの見せ場では深度のある大人の色気を放ってきて、不意打ちすぎて、くらっと来た。ラスト近くで香に渡したチケットも、それこそフェイクだったんじゃないかなと思わせる、とんだ曲者スナイパーだった。
 学年が上がるとともに、これからさらにいろんな役に出会うのだと思うと楽しみしかない。雪組が誇る天才的役者。

槇村 眞ノ宮るい

 クセの強い役をやらせると本当にハマる。コミカルでわかりやすいアプローチになっていておもしろかった。
 わたしはいつも「全ツの女王」と呼んでいるのだけど、ここでもそんな個性を発揮。終演後の感想会で、またも友人が「眞ノ宮さんをもっと使え」と叫んでいた。同感。

野上 冴子 希良々うみ

 自然なセクシーさに見とれてしまった。眞ノ宮さんの槇村がわかりやすい見せ方をすれば、希良々さんはリアルな役作り。これ、狙ってるのかなあ。補完し合っているような、たまたまのような。
 希良々さんの冴子は本公演の槇村と似合いそうだし、眞ノ宮さんの槇村は本公演の冴子と似合うような気がする。

葉子と政

 夢白あやさんの葉子にも恐れ入った。
 え? 誰? うまい! かわいい! おもしろい! わたし好み! の四拍子揃っているのは?
 夢白さんか。うまいはずだわ。コメディーセンスもあると見た。
 政の聖海由侑さんも、人の良さがにじみ出ていて、コンビプレーもバッチリ。楽しませてもらいました。

あの人この人

 ジェネラル【将軍】は星加梨杏さん。美形なのに、いや、美形すぎるからか、役に恵まれているとはいえないけれど、この役はよかった。

 豊は華世京(カセキョー)。もっともエモーショナルな役ともいえるのだけど、きっちり役割を果たしていてさすが。安心して見ていられる。

 アルマ・ダヤンの華純沙那さん。海原神の一禾あおさん、海坊主の壮はるまさん、美樹の有栖妃華さん、北尾裕貴の蒼波黎也(あおはれいや)さんも好演した。

 この公演で新人公演を卒業する希良々うみさん、縣千さんのあいさつがよかった。
 縣さんが、「真っ赤な客席ではなく、お客さまがいらっしゃることが本当にうれしい」と涙ぐんでいたけど、そうか、彼女くらいの年代ともなると、パンデミック以外で真っ赤な客席を見たことはないんだなと思った。どうか、安心して公演できる日々が続きますように。


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