推しが運営に推されてなくて助かった話
デジモンアドベンチャーとはどういった話なのか
1997年6月に発売された携帯ゲーム『デジタルモンスター』、その後1999年3月に公開された映画『デジモンアドベンチャー』を皮切りに、同年同月に開始されたTVアニメ『デジモンアドベンチャー』は、全54話が放映されその後も小説、漫画、ゲームと幅広くメディアミックスされ、人気を博したコンテンツだ。
2000年3月には映画『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』が公開され、『サマーウォーズ』や『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』などをのちに生み出す、細田守氏がこの映画の監督を務めたことはあまりにも有名である。
2015年にはTVアニメ『デジモンアドベンチャー』のメインキャラクターたちの6年後を描く、映画『デジモンアドベンチャーtri.』が全6章の構成で公開され、当時デジモンに熱くはまった子どもたちを再熱させた。
今年2月からは映画『デジモンアドベンチャーtri.』の続編である、映画『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』が公開中となっている。この作品はtri.からさらに6年ほど経った世界で、1999年に公開されていたTVアニメ『デジモンアドベンチャー』からは、なんと10年以上が経っている。これだけでデジモンというコンテンツが、非常に長い間愛され、展開してきたことがわかるだろう。
ただ、2015年から公開されていた映画『デジモンアドベンチャーtri.』はひどかった。ぐだぐだのストーリー、キャラクターの思い切った改変、進化のインフレ等、目も当てられない展開が続いた。本当にキャラクターが大江戸温泉物語に行く必要はあったのか……? 筆者の自問自答は続いた。だが特に問題だったのは、1999年のTVアニメ『デジモンアドベンチャー』の続編である、2000年公開のTVアニメ『デジモンアドベンチャー02』の最終回と整合性が取れない部分にある。
2000年公開のTVアニメ『デジモンアドベンチャー02』は、1999年公開のTVアニメ『デジモンアドベンチャー』から3年が経った世界を描く作品で、『デジモンアドベンチャー』のメインキャラクターである八神太一たちと、主人公が交代し、新たな選ばれし子どもである本宮大輔らを中心にストーリーが展開する。
非常に有名だが、『デジモンアドベンチャー02』の最終回は、大人になったキャラクターたちのその後が描かれている。世界は全人類にパートナーデジモンがいる世界となり、太一はパートナーデジモンのアグモンとともに外交官となり、ヤマトはパートナーのガブモンとともに宇宙飛行士に。02の主人公である大輔はパートナーデジモンのブイモンとともに、アメリカで屋台ひとつでラーメン屋をはじめ、実業家として成功する。そのほかの選ばれし子どもたちも、それぞれの夢をかなえ、家族を作り、その子どもたちにもまた、パートナーデジモンが存在する。そんな世界で幕を閉じる。
まず、tri.の整合性が取れない部分はここにあり、02の最終回の時点で全世界は全人類にパートナーデジモンが存在する世界になっているはずなのに、いつの間にかデジタルワールドへのゲートが閉じ、太一たちはパートナーデジモンと離れ離れになっている。これには困惑した。及川悠紀夫さんの健闘は……?
さらに、もう一つ問題があった。そう、tri.には『デジモンアドベンチャー02』のキャラクターが誰一人出てこないのである。いや、誰一人出てこないというと、語弊がある。彼らはシルエットのみ描かれているのだ。
シルエット出演という斬新な方法で映画に出演を果たした02メンバーたち。メンバー最年少である火田伊織はtri.時には唯一の小学生だったのに、シルエットでしか出演していないので、彼がどのように成長しているのかを、我々は知るよしもなかった。確かに『デジモンアドベンチャー』(いわゆる無印)と『デジモンアドベンチャー02』では、圧倒的に無印のほうが人気があるのかもしれない。しかしデジモンアドベンチャーの続編ということで映画の話を進めるならば、正式続編作の02をどう考えても避けて通れないはずなのに、なぜかシルエット出演だったのである。多くは望まないので、せめて02主人公の大輔だけでも出演してほしかったものだ。tri.の酷評は少し検索すると出てくるので、詳細に読みたい方はググってほしい。
『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』には02メンバーが出る!
そんな苦い思い出の多かった映画『デジモンアドベンチャーtri.』だが、その続編である『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』には、待望の02メンバーの出演が発表された。これには感涙した。時を超えて推しの成長した姿が見られる……。ファンにとってこれほど贅沢なことはないだろう。神様、多くは望みません。声もつかなくていいです。ただ成長した、元気な火田伊織を見せてください。京ちゃんの後ろで静かにほほ笑む火田伊織を見せてください。筆者は祈った。
祈りが通じた。
02メンバーは、しっかりとキャラクターデザインが発表され、無印メンバー同様、選ばれし子どもたちはキャストが一新、パートナーデジモンは続投となった。これには歓喜した。神様ありがとう。田口智久監督、あなたが神か。最推し火田伊織の声が一新するにあたり、もともとパートナーデジモンであるアルマジモンの声を担当している浦和めぐみさんが、火田伊織の声も担当していたので、アルマジモンを続投するなら火田伊織の声も続投してほしいと500回近くつぶやいてしまったが、もうそんなことはちっぽけな話だった。一人デュエット見たかった、そんなことは本当にちっぽけだ。
実際に観た感想。(※ネタバレあります※)
期待に胸をときめかせ、デジモン友だちであるみーさんを映画に誘った。みーさんは筆者よりデジモン愛が深く、tri.はほぼみーさんと観に行った。みーさんはtri.の改変に誰よりもショックを受け、よく劇場で男泣きしていた。声を出さずに涙だけ流し、かといって目を背けることはしない、デジモンをこよなく愛する人間の一人だ。ただ、tri.で傷つきすぎたのか、誘った当初は難色を示していた。「もう傷つきたくない」そう小さくつぶやいていた。ただ、「デジモンファンとして、行くか」と最後はそう言ってくれた。みーさんは太一ガチ恋勢なので、太一から主人公の座を奪った大輔を恨んでいる節があり、大輔の成長した姿を見たときは「私、甚平着る男って嫌いなんだよね」と言っていた。非常にクールだ。筆者は笑った。
結論から言うと、『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』は面白かった。tri.で頭がおかしくなっていたのかもしれない。正直、「大人になったらデジモンと一緒にいられなくなる」というテーマには困惑したし、納得できない部分も多いが、tri.よりはずっと映画として完成されていた。今回の映画もtri.に引き続き、無印メンバーが主な登場人物で、02メンバーはサブキャラとして出演していた。ただ、これが本記事のタイトル通り、功を奏した。キャラのおかしな改変が無かったのだ。我々は救われたのだ。
『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』はデジモンの戦闘シーンがメインというわけではなく、あくまで太一たちの成長をテーマにした物語だ。だから、進化バンクもアグモンとガブモン以外ほぼ無かった。これは少し残念な部分でもあり、プリキュアオールスターズばりの進化バンクを観に来た節もあったので、少々物足りなさを感じた。テイルモンが一度猫(?)から子犬をはさんでテイルモンになるのにな、と寂しかった。ほかにも映画の感想として、光子郎はんのウーロン茶推し……これは過去の映画版もそうかワハハ、とか、「うかつだぞ太一!!」というヤマトのクソデカボイスで思わず笑ってしまったり、とか、太一の大学の友だちェ……とか、太一のバイト先がパチンコ屋で「時給いいからなぁ」と思わず思ってしまったり、オメガモンにほいほい進化するのがデジモン映画っぽいな、とか、そんなことを思っていた時、突然最推しが現れた。火田伊織(高2)だ。
かわいい……かわいいわあの子……。
大輔と賢ちゃんと火田伊織の3人組が愛しかった。ずっと仲良しでいてくれた空気を感じた。賢ちゃんのミノモンの持ち方に思わず笑ったし、動物のアルマジロは30キロ近くするので、いつもアニメで、小学生で小柄な火田伊織がアルマジモンを軽々抱っこしている姿に「アルマジモンって発泡スチロールでできてんの?」と思っていたが、今回もめちゃくちゃ軽々抱っこしてたし、京ちゃんは賢くかわいく美しく成長してるし、賢ちゃんは一も二もなく「京さん!」って叫ぶし、最高だった。
火田伊織はずっと火田伊織だった。正直ずっと声が変わることが不安だった。小さいころ会ったっきりの親戚の男子小学生が、高校生になって久しぶりにあったら、もう全然小さいころの面影なんかなくて、声変わりとかしちゃって、なんかよそよそしい態度で、おばちゃんは一抹の寂しさを覚えるだろうと覚悟していったが、火田伊織は本当にそのまままっすぐ大きくなってくれていた。伊織のおじいさんありがとう。そのくらい声優陣の演技は素晴らしかった。全員まったく違和感がなかった。大輔に至っては、「え?ずっと大輔役ですよね?」というくらい素晴らしかった。賢ちゃんは想像通りちょっと気持ち悪く(褒め言葉)成長していて、これにも感激した。京ちゃんも本当にそのままで、はきはきと知的でビンゴという感じだった。全員好きなままだった。
デジモン陣も最高に大好きだった。チビモンはとてつもなくかわいいし、アルマジモンはとにかく愛しいし、ホークモンに至っては本当に時を超えていた。ワームモンは相変わらず「賢ちゃんの言うとおりだ!」と賢ちゃん全肯定だし、このまま京ちゃんと賢ちゃんが結婚するのだが、新婚生活で京ちゃんに小姑的嫌味を言いそうだなと思った。
ワームモン「京、ごみの分別間違ってるよ(ダミ声)」
京「じゃあワームモンがやればいいでしょ!」
賢ちゃん「京さん!僕がやるよ!」
ホークモン「わたしも手伝います!」
ワームモン「賢ちゃんはやらなくていいよ!(ダミ声)」
でもワームモンに負けない感じが京ちゃんにはあって、やはり二人はお似合いの夫婦だなと思った(このあたりは読まなくても大丈夫です)。
運営に推されていないことが功を奏した
アイドルや俳優が運営や事務所に推されず、前にも出られないし、出演作も増えない(一概に事務所や運営のせいとも言えないが)ことは往々にして存在する。ただ、今回はそれが珍しく功を奏した結果となった。推されなかった結果、サブキャラに留まり、キャラ改変がほぼ行われなかったのだ。もっと登場シーンを増やしてほしい、もっとセリフが欲しいという感想を抱かれた02ファンもいるかもしれないが、筆者はこれで十分だ。前回はシルエット出演だったのが、今回は声までついて……もう多くは望まない。十分に満ち足りた気持ちだ。本当は公式ホームページを見たときに、火田伊織の説明文の「メンバー唯一の高校生」が、tri.に出ていたら「メンバー唯一の小学生」だったのにな、とは思った。少しだけ。でもそんなことはちっぽけな話だ。
他にも、新デジモンのモルフォモンは顔がテリアモン系でかわいいな、とか、光子郎はんは烏龍茶推しなのに部屋にウォーターサーバーもあって、しかもストックの水が4つ近くあって、社長室なのに物置なの?と疑問がわいたり、奪った意識の中に申し訳程度に望月さんがいたり、パタモンのエアーショットがかわいかったり、たくさんのデジモンのなかにユキダルモンとかバクモンがいてなんとなく懐かしかったり、終盤太一の動きを止めるのが光子郎はんで、やはり太一を追ってサッカー部に入った男は違うなと思ったり、アグモンの目の位置が横すぎて、肉食獣じゃなくて草食獣の目の付き方では?恐竜てこんな感じなん?と思ったりなどした。DVD買います。
4月から新作アニメーションも始まり、目が離せない展開が続くデジモンシリーズに、今後も一喜一憂させられながら生きていくと思うが、心を強く持ち楽しんで視聴していきたい。火田伊織よ永遠なれ。
2020年4月5日放送開始『デジモンアドベンチャー:』
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