見出し画像

まんがじゃあるまい

一歩外に出ると、かたくてさみしげな空気がクリスマスの気配を運んでくる。

メンバーとはじめて顔合わせしたあの日のことはほんの数日前のことのように思い出せるのに、気付けばデビューからもう2週間が経過していたらしい。

デビューするまで正直なところ、実感は一切なかった。というよりも私は疑っていた。現実を。


考えてもみてほしい。私はいままでずっとひとりでまんがを描いて生きてきたのだ。外界には滅多に現れない幻の座敷童のような女が、才能あふれる4人の仲間とバンドを組んでデビューするなんて、そんな都合の良いことが現実に起こりうるのか?まんがじゃあるまいし。

表舞台でかがやく女の子のえがおを、暗い自室のPCモニター越しに覗きながらまんがを描く生活に浸かりすぎたせいで、夢と現実の区別がつかなくなっているのかもしれない。

別世界で生きていた私がバールのようなもので頭部に強いダメージを受けた結果、自分でも気づかないうちにこのチート世界線へ転生してしまったのかもしれない。


私は疑った。この世界を。


しかし実際にデビュー日を迎えたその途端、現実がおおきな波となって私に押し寄せてきた。人前に立つということは、大勢の人間からなにかしらの反応を受けることである。私の外にある現実世界では、私の想定内のことから想定外のことまで発生し、その流れは渦となって私を取り巻いていく。

もう二週間。まだ二週間。私たちが向かう未来は、まだ霞んでいてよく見えない。ここからどうなるのか。どうしていけるのか。どうすればいいのか。いまは期待と不安が混在した胸の鼓動をただ感じることしかできない。

だが確実に言えることがある。ここは夢ではなく現実世界で、もうすでに私の人生は始まっているのだ。そしてこれから未来を切り開いていくために、私は座敷童を辞める勇気を持たなければならない。

そうだ。私は、自分を変えるためにこの世界にやってきたのだから。


この記事が参加している募集

振り返りnote

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?