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携えず外に出よう

「書を捨てよ、街へ出よう」とは寺山修司である。
大学が入校禁止になって、春休みの終わりから夏の間私はずっと富山の実家で暮らしていた。
実家では赤ちゃんみたいなおじいちゃん猫も一緒なので、彼のご飯に合わせて朝は決まって日が登り出す時間に起きていた。
帰った頃はまだ冬が残る季節で、分厚いトレーナーを新しく買うほどに寒かった。そんなときは太陽ももちろんゆっくりと顔をみせるので余計にベッドから出るのが困難である。
だけど、季節が進むと太陽もだんだん早い時間に街を明るくしてくれ、夏は5時になる前の10分間が私の大好きな時間だった。

富山での暮らしはコロナの影響もあって買い物以外に外出することはほとんどなかったけれど、家族と過ごす時間が楽しくてしあわせだったと今でも思う。
なにより、海と山の距離が近い土地だからこそ、近くの日本海にただ散歩しに行ったり夕陽が落ちるのを見に行ったり、朝は立山連峰から登る太陽を浴びながら空気を吸うだけで本当に気持ちが良かった。
大好きな時間だった。

東京に戻ってからは急に堕落した生活を送ってしまい、1日家から出ないことが何度もあった。
だけど、たまに何も考えずに外へ出て近所を1時間ほど歩いてまわることで、知らない場所に巡り合い土地の風を感じるのが心地よいことを思い出した。

太陽が照らし出す光を、木陰で感じることも大好きだ。そうやって緑の中を歩くのは本当に心地が良い。
だから、涼しい風が混じり出したこの季節に写真を撮りたくなるiPhoneも携えずそのままで外に出かけようと思った。

2020年秋

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