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「経済は統計から学べ!」の発行について、著者が思うところを述べてみた

1.印象で語る人たち

以前Twitterのアンケート機能を利用して、「地熱発電割合が世界で最も高い国は?」というアンケートツイートしたところ、他を引き離し燦然と輝く最多得票を獲得したのは、「アイスランド」でした。

ありがたいことに346人の方に投票していただきましたので、認識調査としてはそれなりに信憑性があろうかと思います。

では、どこの国が世界で最も高い地熱発電割合を示しているのかというと、実はケニアです。ケニアの投票率はアンケートでは、最も低いものでした。

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確かに、以前はアイスランドが最も高い地熱発電割合を示していましたが、2014年以降、ケニアが世界で最も高い割合を示しています。今回のアンケートを見て、やはり「印象で物事を語る人」や「認識が数年前で止まっている人」が実はすごく多いのではないかと邪推できます。

わたしは、代々木ゼミナールにて東京大学を志望する受験生に地理を教えるクラスを担当しています(「東大地理テスト演習」という授業)。そこで、受講者に尋ねたことがあります。

「ブラジルの合計特殊出生率っていくつだと思う?」

「合計特殊出生率」とは、出産可能とされる15~49歳の女性の出生数を表した指標です。人口置換水準(人口が増えも減りもしない水準)は2.1程度とされています。受講生の多くが、「2.5!」とか「4.8!」などと答えます。つまり、ブラジルが「子だくさん」であり、依然として途上国であると考えているわけです。

しかし、実際のブラジルの合計特出生率は1.72(2019年)となっています。さらに、2.1を下回ったのは2004年のこと、今から17年も前の話です。ブラジルは近年の経済成長によって出生率が低下傾向にあるわけで、人口ピラミッドで表すと、釣り鐘型に突入し始めていると考えても過言ではありません。

ブラジル合計特殊出生率

東大を志望するような受験生ですら、こういった印象で世の中を捉えているわけです。

2.統計を知ることで、「経済の真実」に近づく

2021年6月30日(水)、わたくしは一冊の書籍を発行しました。

書籍の名称は『経済は統計から学べ!』、出版社はダイヤモンド社、わたくしの12冊目の単著です。前作、『経済は地理から学べ!』(ダイヤモンド社)の発行から4年4か月、ようやく新著を世に出すことができました。

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経済は地理から学べ!(ダイヤモンド社)
https://amazon.co.jp/dp/4478068682/
経済は統計から学べ!(ダイヤモンド社)
https://amazon.co.jp/dp/4478104328/

今回のテーマは、

「83の数字」が示す新しい世界!印象に騙されないための「データと視点」

です。

印象で物事を語る人」や「認識が数年前で止まっている人」に向けて、少しでも考え方の材料を手にして欲しくて書き下ろしました。

書籍の冒頭には、5つの問いかけを用意しました。

質問1
 日本の貿易額は世界第何位?(2019年)
質問2
 世界で最も現産出量が多い国は?(2019年)
質問3
 世界で最も多く自動車を生産している国は?(2020年)
質問4
 世界で最も多く米を輸出している国は?(2019年)
質問5
 世界で「高齢社会」に突入している国の数は?(2019年)

これを読んでくださっているみなさまは、上記の質問、確実に正解を言い当てられるでしょうか?

本書では、「人口」「資源」「工業」「農林水産業」「環境」の6つの切り口から、統計データを用いて、「経済の真実」に迫ることを目的としています。

現代世界は、自分の生活や社会、国を幸せにするために鼻息の荒い人たちが日々努力をする社会の集合体です。そしてその結果こそが、統計データであるといえます。そんな統計データの背後に見え隠れする、彼らの経済活動を詳細に追いかけました。

07. 人口から読み解く「これから伸びる国」
14. 世界最強の労働生産性を誇る国は?
17. 少子高齢化を逃れる産油国のしたたかな戦略
21. 「原油はあと30年で枯渇する」論は本当か?
27. 植物油の争奪戦が始まっている
40. 技術貿易で儲ける国、損する国の違い
45. シリコンヴァレーが発展した「合理的」な背景
51. 海洋国家の駆け引きー船舶ビジネスの基本戦略
59. インドが世界一の米輸出国になれた理由
62. カボチャが教えてくれる「経済と気候」
67. ロシアが穀物輸出国になるまでの険しい道のり
71. バラに学ぶオランダとアフリカ諸国とのつながり
74. エルニーニョ現象が招く経済危機とは?
83.二酸化炭素からこれからの経済成長を読み解く

83の項目のうち、ざっといくつかを紹介しました。なかなか面白そうなテーマが並んでいます。地理を学ぶことで、これらのテーマにどのような解を見いだすことができるのか、ぜひともお手にとってお読みいただきたいです!

3.地理って、実に面白い!

地理という科目を勉強していると、どうしても統計データを扱う機会が多くなります。しかし、「テストに出るから!」という理由で、「世界の米の生産量第2位!」や「トウモロコシの輸入量世界最大の国!」などといった統計データを丸暗記させる、そんな地理教育が、今もにほんのどこかで展開されているのが現実です。

特に中学地理においてはそれが顕著です。中学校で地理の面白さを体験できなかった生徒たちは、高校へ進学してももちろん地理は選択しません。中学校の地理教育は「地理好きを増やす」ことではなく、「地理嫌いを増やさない」ことが大変重要です。

本来は、学びによって得た知識が連鎖して、一つの物語が作り出され、そして現代世界の真実が見えてきます。これこそが、「地理とは『地球上の理』である」と思うゆえんです。

高校時代の地理の恩師がいつも仰っていました。

一見関係なさそうな知識が繋がって、一つの物語ができあがる。知識が増えれば増えるほど、それらが繋がってどんどん面白くなる

地理とは「現代世界そのものを学ぶ科目」です。学ぶ過程において、「なぜ、そうなったのか!?」と歴史を紐解き、我々の行く末である未来を読むことこそが本来の学びのあるべき姿です。

地理教育とは、生徒たちが自ら「正解を見つけられる」ようにするための存在でなければなりません。そして教える者たちは、長年使い続け、ほこりにまみれたレジュメを破り捨て教授法を構築していかなければならないのです。

地理って面白い!

今回、『経済は統計から学べ!』を執筆して、改めてそう思いました。

わたくしは大学で地理学を修めた、いわば地理学プロパーです。18歳の時に選択した「地理学への道」は、今でも正解だったと思います。地理を学び、地理学を修め、そして今は地理を教え、地理教育の重要性を説いています。これを正解と言わずになんといいましょうか。

正解は誰かに与えられるものではありません。自分で決めることです。

教えた生徒たちが、「自分で正解を決められる人」になって欲しいと強く願っています。そして、大人になっても絶えず知識をアップデートし、印象ではなく事実で世の中を俯瞰する、そして真実に迫る、そういう思考法を身につけて欲しいと思います。

そのためにも、今作のような統計データに関する書籍を執筆する機会を恵まれたことを大変感謝しています。ぜひとも多くの人たちに手に取っていただき、印象ではなく事実(統計データ)によって「経済の真実」に迫って欲しいと強く願っています。

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