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透析クリニックにて①

「あなた、血を見るの大丈夫?」

開口一番そう言われた。

心のなかで、は?と思いつつ

「子育てしましたから血も見ましたし、別に得意ではないですけど大丈夫だと思います」と私。


ここはクリニックの一室。

今、面接中。


資格がいらないと書いてあったのでここでの看護助手に応募したのだ。


「透析って知ってる?」

「いえ、知らないです。」

「まあ、大抵の人は知らないよね〜」

私と話しているのは、ここの実質的な責任者である看護師長。

見たところ40代かなぁ。

やけに地味な身なりの、キリッとしたキャリアウーマンって感じの人。


いきなり「血を見て大丈夫か?」なんて聞かれてびっくりしたけど、後々、なんでこんな質問をされたのかがわかってくる。


簡単な面接が終わって、この日はこのまま帰り、数日後採用の連絡をもらった。


駅前にあるこのクリニックは、数年前に新しくできたもの。以前からここにあるのは知っていたけど、何のクリニックかは知らなかった。

南国風で、なんだかトロビカルな感じの建物。とても医療機関とは思えない陽気な雰囲気。近くを通るたびに何なんだ、ここは?と思っていた。

面接の時、ロビーがまるでホテルみたいなのにも驚いた。豪華なフラワーアレンジメントが飾ってあってキレイだった。

採用になって、今度は裏口から入る。従業員用だから、キレイだけれど殺風景な廊下を通って患者さんのいる部屋へ。


最初に目に入ったのは、ベッドがズラッと並ぶ大きな部屋。ベッドは30床、奥の方にはマッサージチェアーが10台ほど。


各々にアームで固定されたTVが付いていて、透析中に見れるようになっている。


ベッドの横には何やら機械があって、そこから出ているチューブの中を赤黒い液体が循環しているのが見える。


血液だ。


看護師長に面接の時に言われた言葉が頭の中で響いた。確かに、血を見るのがダメな人には勤まらない職場。こういうことね、と納得。


枕元のテーブルには、それぞれの患者さん専用の備品が用意されている。主にこの備品の補充と、患者さんが帰られたあとの清掃が私達のお仕事。


患者さんによって使う針も違うし、かぶれやすい人にはそれ用のテープを用意するので、それを把握してきちんと準備をしておかなければいけない。


ここで食事を取る人も数名おられるので、その提供もする。時間が人によってまちまちだから結構めんどくさい。


初日なので、制服を渡されてロッカールームで着替える。抽象画のような明るい花柄の半そでシャツとブルーのズボンとエプロンが看護助手用のもので、他の人たちと色違いになっている。


最初に覚えることは、物の名前。


医療機関で勤めるのなんて初めてだから、ここで使うものの名前がさっぱりわからない。なのでまずはここからというわけ。


鉗子(かんし)。見た目はハサミ。先端が刃じゃなくて、ホントに挟むためのもの。普段の生活ではこんなの使わないけど、ここではこれがないと仕事にならないくらいよく使うもの。


テープや綿棒や色々細々した備品の名前を覚えていく。患者さんによって使うものが異なるため、間違わないように最新の注意が必要だ。


この年になって新しいことを、それも結構な量を覚えなくてはならず、そのことが思ったよりも大変だった。先輩が根気強く何度も教えてくれたのでなんとかなったって感じ。


そんなこんなであっという間に初日の仕事は終わり、頭の中パンパンで

グッタリしながら帰宅した。


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