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デザート・ファルコン

 グシャリ、と万華鏡が潰された。
 未来の為に、先人が託してくれていた希望。あの万華鏡を手に入れる為に、どれだけの人間が犠牲になったか。
 そんなことなどお構いなく、あの少年は万華鏡を握り潰したのだ。

「これでお前たちの野望も終わりだ!」

 少年は叫んだ。ゾロゾロと、私の部下が彼を取り囲んでいることなど、恐怖にも値しないと吐き捨てるかのように。

「キサマは分かっていない。あの万華鏡は、未来だ! 人類の次なる進化の為に、何千年と継承されて来たモノだ! それをキサマは! キサマは!」
「その未来とやらの為に、お前達はどれだけの人間を犠牲にした!」
「必要だった! 彼らは未来の礎になった! そのことを喜び寿ぎこそすれ、恨まれる筋合いはない!」

 この少年も、彼の父親も、何度も何度も何度も我々の邪魔立てをした。
 世界の救済よりも、個人の命の方が大事だと青臭いことを言って。

 愚かだ。そんな戯言は、ヒーロー映画の中だけで成り立つ。この世界がどれだけの犠牲の上に成り立っているのか、考えたこともない幸せな人間の戯言だ。
 きっと奴らは考えたことなどないに違いない。
 今も貧民街で男共の欲望の捌け口にされている少女のことを。先進国のエゴの為、安価で奴隷の如くに働かされる家族のことを。生まれついての障害の為、満足に生きる術すら奪われ命を刈り取られていく赤児のことを。その他の全ての不幸! それがあの万華鏡さえあれば消えて無くなっていたというのに!

「言っても判らぬ馬鹿には、力で示すしかないか」

 私は怒りに肩を震わせた。彼らのような、偽物の正義に燃えている者共が最も厄介だ。
 私は部下に命じ、アンプル剤の入ったアタッシュケースを自身の元に運ばせる。

 デザート・ファルコン。

 あの万華鏡と同様に、十字軍遠征の頃に発掘された、古代の超技術を元に作られた筋肉強化剤を、私は自身に打ち込んだ。

「この世界の!! 未来の為に!!」


 続。

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