ヒプノシストラップ・オブ・ザ・エイリアン

 母は僕の手をがっしりと掴み、僕を睨みつけると頬を引っ叩いた。

「本当に馬鹿な子」

 母は蛇のような眼差しで僕を見下ろす。
 違う。母ではないのだ。

「遂に本性を表したな、ヒポポロスペロ星人め」

 母の皮を被っただけのケダモノ。それが僕の目の前にいる者の正体なのだ。
 僕は涙を流した。ポロポロと、小粒の滴が床に落ちていく。
 確かに口うるさいところもあった。僕が宿題を全くやらかいからと言って、喧嘩の末に漫画本を全部捨てられた時は、お母さんなんていなくなればいいのにと思ったことだってある。

 けど、本当にいなくなってほしくなんてなかった!

 母の姿をしたヒポポロスペロ星人は、僕の腹を蹴り上げた。

 ウッと僕はうめき声をあげて、壁に激突した。感傷は後だ。今は、目の前にいるヒポポロスペロ星人をなんとかするんだ。

 僕は涙を拭った。泣いてばかりはいられない。こうなることは、覚悟していたことなんだ。

 僕はグッと腹に力を入れて、立ち上がった。
 僕のために、ピロクラッピーが編んでくれたヒーローコスチュームが僕に力をくれていた。
 腹を蹴り上げられて宙を浮いたというのに、痛みなんてない。

 むしろ、目の前の敵をブチ殺さなければという勇気が湧いてくる。

 殺すのだ。僕が、こいつを殺すのだ。

 僕は長く長く息を吐き出しながら、どうしてこんなことになったのだったか、色々なことを思い出していた。

 始まりは、三週間前に遡る。
 僕と親友のスティーヴの二人は、いつもみたいにお互いの親の悪口を言い合っていて、あることに気づいた。
 どちらの親ともが、急に香水をつけるようになり、家でも手袋を外さないことが増えた。今まで手袋なんてほとんどしてなかったってのに。

 それはヒポポロスペロ星人の特徴だよ、と教えてくれた宇宙人の女の子ピロクラッピーと出会ったことで、僕らの運命は決定づけられた。

【続く】

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