社寺建築における観点〜本当に長持ちする住宅を神社仏閣の応用知識で作る
今回の記事は自称宮大工らしく社寺建築についてに書いて行きたいと思う。
そこで最初は社寺のみを描こうかと思ったが、ただ読んで
へぇ〜、なるほど。
では嫌なので皆さんの身近にある住宅と比較して書いて行きたい。
何も住宅を和風や無垢材にしなさいと言うわけではなく社寺のつくりを元に住宅のどの部分に予算を掛ければ長くノーメンテナンスで過ごせるかを実施できるポイントとして抑えて行きます。
さて、タイトルにもある様に本当に長持ちする建物とは何が違うのか?
要所要所においては一般住宅建築とも共通する事を柱として書いていきます。
ではまず話しに入りやすい様、社寺と住宅では形以外に何が違うのかをお話しさせて下さい。
その一
柱を初めとした部材のサイズが住宅よりひと回りもしくは二倍ほど大きい。
昔の建物を想像して下さい、柱が内外に剥き出しになっており壁が塗られている。古来より柱が一寸(約3センチ)大きくなると材種にもよりますが十何年〜数十年寿命が伸びると言われいる。
現在の住宅の柱は3.5寸角(105㍉)か4寸角(120㍉)が主流である、100年を目指すのであれば予算に優先して4寸を選んで下さい、後述するがこの15ミリがお金は掛かるが長持ちの基盤となります。
(※社寺は基本6寸角から、お寺の本堂であれば7寸角が基準で予算や仕様により前後、7寸角と言うのは3.5寸角『4本分』の大きさである)
その二
昔の柱が露出している真壁造(しんかべづくり)では柱の下の方は常に雨がかかり易い為腐ったり劣化しやすかった。(厳密言えば材木は雨に打たれただけでも表面が減っていく材料です。)
古来、大陸(中国)より伝来した社寺建築は当時雨の少ない中国だったので軒の出が短く外壁や柱に雨がかかり易かったと言われてる
※軒の出=外壁より外側に屋根が出ている部分です。
ところが日本は雨降り大国、軒が出ていない大陸の作りでは雨による建物のトラブルがあったそうです。
それらの問題を解決する為に軒の出をなるべく多く出せるようにと考え出されたのが現在の社寺建築となるのです。
現在の住宅はデザインや予算の都合で軒が少ない、軒が無い『軒ゼロ』も増えてきた、軒ゼロは既存の木造らしからぬデザインの良さはあるが実は全ての工程に置いて完璧な仕事をしないとこれが雨漏りの原因となる、実際に瑕疵担保保険(新築住宅の保険)の何年か前の修理要因大半は雨漏りだと言うデータもある。
どうしても嫌で無ければ少しでも軒はあった方が良い、少しでも軒が出ていれば雨漏りのリスクは格段に減る
(※瑕疵保険の雨漏りの原因は軒ゼロの屋根と外壁の取り合い部分が特に多い、この部位は軒があるかないかで施工方法が変わるが気づかない・知識不足で同様に施工してしまう場合が多い)
その三
建物としてのサイクルが長めに設計されている
皆さんもご存知の通り古来は現在より神仏を崇めていましたその大切な像を祀るには丈夫で長持ちする建物が必要でした。
その為に大きな部材を使い丈夫な構造となっている訳ですが、これには全て理由があります。
①瓦の重さに耐えられる構造
現在の瓦より一枚一枚が大きく重く、また瓦を葺くのに大量の土を使用した為屋根の重量は現在より遥かに重い物でした。
※現在一般に使用されてる瓦は社寺では『簡略葺き』とまで言われ改良されて簡単な技術で施工できるように改良された瓦である。
その重量で屋根が下がらない様に大きな材料が必要でした。
また現在では空間を広く取るための大スパン技術もトラス・鉄骨と様々な選択肢がありますがそれらは西洋の技術で日本に入ってきたのは明治時代以降(一般論的には)、木造しか技術の無い時代に部屋の空間を広く取り材料が下がらず(垂れず)かつ屋根の重量に耐えうる条件をクリアするには物凄く大径木が必要でした。
また柱で話した様に材料が1寸程度から大きいと芯まで風化して朽ちるのに物凄く時間が時間が掛かるようになりますので意匠というよりも建物の寿命を第一に考えているのです。
↑これが柱を4寸に薦める理由です、現在の大壁の見えない柱でも長期にある予想外のリスク、雨漏り、蟻害・虫害、腐食等に耐え得る為です、見えないかはこそ対策しておく必要があります。
②床の高さと天井の高さには理由がある。
聞けば納得する床の高さの理由について。
床が高い理由は神社仏閣を見上げる為では無く地面からの湿気で床や柱の足元を守る為
また床が高ければ床下の空間としての換気スペースも大きく確保が出来るので湿気の排出にも有効であるからです
さて、天井の高さについてだが天井があれほど高いのは幾つか理由があるが構造の理由とは異なるので略して描かせてもらう
・天井の高さは昔のステータス、格が高い建物は和風洋風を問わず天井が高い
・天井が高いと夏場に涼しく感じられる、その分冬場は寒いが高温多湿でエアコンが無い頃の知恵と工夫とも思われる
・声や太鼓が良く響く様になる、祝詞・お経・太鼓・木魚等に有利、音響設備が無い頃の工夫と思われる
今で言う所の開放感を主体として格の高さを表現しているのだがエアコン類の空調設備には不利である、余談だが猛暑で参拝者を気遣いエアコンを導入する寺社は増えてるが今後は天井高に有効な『床吹き出し空調』等も建物の予算に組み込んで行く事も課題である。
③腐りにくい材料を使用している
・屋根 瓦
・柱、桁、見え掛材 欅、桧(雨に濡れる場所)
・構造材 松、杉
屋根の瓦は『瓦千年、手入れ年々』と言われている、これは瓦は相当年数持つがズレ直し等の手入れをしないと雨漏りし、下地が腐り屋根として持たないと言う事
昔の瓦は今の瓦と違って屋根下地に練った土を置きその上に固定する『土居葺き』が主流であった、置いてあるだけなので泥との密着が緩くなって来るとズレが生じる、現在の工法は防災型となり一枚ずつ固定したりする。
瓦は今でこそあまり使われなくなって来たが、耐久性、断熱性、寿命のランニングコストに置いて最も優れた材料である事は違いない
ではなぜ瓦が使われなくなって来たかと言うと、アスファルトシングル材の方が安価だからである
総合的に建築費用を安くする為にシングル屋根を採用するがシングル材は30年程度の寿命とされている、その後は塗装をして寿命を伸ばすか上から下地を簡易に施工しその上に屋根材を葺く『かぶせ工法』をするかの選択となる。
瓦は阪神淡路の震災以降は防災のガイドラインが定められ工法も一新され、東日本大震災で更にまた工法に改良がされ全数釘留が通常施工の基本となった、また下地によるズレない『ロック工法』等もあり瓦が地震に弱いと言うのは過去に施工されたものだけである
話の途中だが瓦=和風とお考えの方はコレを見て改めて頂きたい
在来から平板瓦と言う物があるが近年では上記のシングルと遜色ないこの様な平板瓦もある、それでかつ瓦のメリットを持っている
欠点があると言えば重量が挙げられる、構造計算を行った上であれば地震に対しても安全である事は証明されているが構造材の部材が大きくなってしまう
それらは建てる方の選択ではあるが材料が大きくなると言う事は総合的に丈夫になる、建物の骨である木材の寿命が伸びるというメリットもある、また柱を4寸にと勧めたが『15ミリ』の差が寿命と荷重に対しても有利だからです。
屋根を塗装したり葺き替えるには下地処理(塗装だとケレン等の清掃作業、葺き替えには除去、カバーには専用の下地)の他、材料代・施工費が必要です。
最初の選択と少しお金を掛ければ上記のリフォーム工事を行うよりは総額が確実に安価になる
社寺の技術を応用して長持ちして途中でなるべく修繕コストの掛からない住宅を作る知識を広める事が私目の目的であります。
屋根に対する記事が長くなりましたが建物において屋根が1番重要、雨漏りさせなければ建物はいつまでも持ちます、逆に雨漏りをさせ続けるとどんな良い材料でもダメになってしまう
(※雨漏りさせると、木材=腐る、鉄骨=錆びる、コンクリート=防水処理してない部分は浸透して割れる・鉄筋が錆びて更に割れる)
長くなるので今回はここまで、次回は残りの項目について語らせて頂きたく思う
次回もまた是非見てください。
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