鬼滅の刃

わたしは炭治郎になりたい。

優しい雨にうたれているような感覚
少しも痛くない
苦しくもない
ただ、あたたかい……
こんなにも穏やかな死がくるなんて

これは、アニメ『鬼滅の刃』16話で、主人公の敵である鬼のうちの一人が、死に際に残したセリフである。わたしはこのセリフを聞いて確信した。『鬼滅の刃』がこれほどまで世の中に受け入れられている理由、それは、主人公である竈門炭治郎が、あまりにも優しすぎるからなのだ。

炭治郎はとにかく優しい。聖人と言っても差し支えないと思う。とにかく慈悲深いのだ。

まず、家族に優しい。妹の禰豆子をめちゃくちゃ褒める。禰豆子が初めて籠に入れた時の炭治郎のセリフはこうだ。

えらいえらい
いい子だ
禰豆子
凄いぞ

籠に入れただけでべた褒めである。こんな兄と一緒にいられたら、禰豆子はきっと自己肯定感の高い女性に育つに違いない。

そして、仲間にも優しい。炭治郎には善逸と伊之助という二人の仲間がいる。当然二人ともに優しいのだが、炭治郎の優しさが顕著なのが伊之助だ。伊之助は山で猪に育てられたため、これまで人間の優しさに触れることがなかった。炭治郎のことも、仲間というよりライバルだと思っていて、どちらかというと敵視している。そんな伊之助が、優しさが服を着て歩いているような聖人、炭治郎に関わるとどうなるのか。

ほわほわするのである

鬼との戦いの途中、炭治郎が伊之助にお礼を言うシーンがある。

ありがとう
伊之助も一緒に来ると言ってくれて心強かった
山の中からきた捩れたような……
禍々しい匂いに俺は少し体が竦んだんだ
ありがとう

自分の気持ちを隠すことなくストレートに表現する炭治郎。これほど優しい言葉をかけられたことがなかった伊之助は、人に感謝され心が温かくなる気持ちを理解できず、それを「ほわほわ」と表現するのだ。さらにその後、炭治郎にこんな言葉をかけられる。

伊之助!!一緒に戦おう
一緒に考えよう
この鬼を倒すために
力を合わせよう

この一言で伊之助は、炭治郎が自分にできた初めての仲間であることに気付く。その時の伊之助のセリフはこうだ。

てめェェ!!
これ以上俺をホワホワさすんじゃねぇ!!

炭治郎の優しさがどれほど大きなものであるかがよくわかるセリフである。

炭治郎が優しいのは家族や仲間だけではない。自分にも優しいのだ。ある鬼と骨折した状態で戦い、苦戦する炭治郎は、こんなセリフで自分を鼓舞する。

頑張れ
炭治郎頑張れ!!
俺は今までよくやってきた!!俺はできる奴だ!!
そして今日も!!これからも!!折れていても!!
俺が挫けることは絶対に無い!!

ピンチになった時に、「俺は今までよくやってきた!俺はできる奴だ!」と自分を肯定する炭治郎。周りの人を愛するように、自分のことも愛しているのだ。モーニング娘。の楽曲に「I WISH」という傑作があるが、歌詞に次のような一節がある。

誰よりも私が 私を知ってるから
誰よりも信じてあげなくちゃ!

これこそまさに、炭治郎そのものである。自分にも優しい炭治郎は、誰よりも炭治郎のことを信じているのだ。

家族にも仲間にも自分にも、そして冒頭のセリフのように敵である鬼にも優しい炭治郎は、当然あらゆる人に愛される。女の子は当たり前のように全員炭治郎にメロメロだし(鈍感な炭治郎はだいたい気付いていないが)、女の子だけでなく出会う人みんな炭治郎の虜になってしまう。

わたしは炭治郎から人に優しくすることの大切さを学び、炭治郎のように誰からも愛される人間になりたいと思ったのだった。

炭治郎のセリフの中で、わたしがいちばん好きなのがこれだ。

俺は長男だから我慢できたけど、次男だったら我慢できなかった。

骨折の痛みに耐えられたのは自分が長男だから、という謎理論を突然展開する炭治郎に思わず笑ってしまったのだけど、このセリフを聞いて、わたしも炭治郎みたいになれるかもしれない、と思った。

だってわたしも長男だから。

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