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真珠湾攻撃がルーズベルト大統領の挑発にも責任があることを、公文書に基づいて実証しようとした本

外観(Appearances)と実態(Realities)

「日本と平和状態にあり、それも完全に友好関係にある。」という記者会見におけるルーズベルト大統領の発言があります。これは日本が真珠湾攻撃を行う5日前の発言です。そのとき既にルーズベルト政権は日本に対して厳しい制裁を加えていましたので、日米は「平和状態」とも「友好」ともほど遠い関係だったことは明らかです。

・在米日本資産の凍結
・全面禁輸
・近衛文麿首相からの太平洋会談提案の拒否
・対日要求の覚書(通称 ハル・ノート)

こうしたルーズベルト政権の外観(言っていることと)と実態(やっていること)が大きく異なることから、ビーアド(Beard)は、真珠湾攻撃に関する膨大な公的資料に基づいて日米開戦に至るルーズベルト外交を調査・考察しました。そうして、「ルーズベルト大統領は、アメリカが参戦するために日本に先に発砲させるため、秘密裏に日本を挑発する工作をしていた。そして、日本の真珠湾攻撃を事前に知っていたが敢えて何もせず日本に攻撃をさせた可能性が高い。」ことを実証しようとしました。

この本の上梓は終戦から3年後の1948年。まだ日本はアメリカ占領下にあった頃です。

ルーズベルト大統領は事前に真珠湾攻撃を知っていたか

ビーアドは実証しようとした説を、結論として、断言しているわけではありませんでした。状況証拠からそのように推論しただけでした。

一方、当時のアメリカの圧倒的多数はビーアドの説に反対の意見を持っていました。「日本は世界征服を企み、アジア各国を侵略していった。ルーズベルト大統領はそれに対抗して世界平和のために聖戦を指導した」とする東京裁判史観に立つ人たちです。現在でもまだアメリカでは「日本への原爆投下は戦争を早く終わらせるために適切だった」と同じくらい、真珠湾攻撃に対してもこちらの意見のほうが常識なのかもしれません。

真珠湾攻撃に関する数々の記録はアメリカにおいて国家安全保障上の機密扱いを受けていて、長年、開示されないものがあったそうですが、現在の状況はどうなのでしょうか。もう全部情報公開されているのでしょうか。それとも、いまだに開示が許されていない機密情報があるのでしょうか。あるとすれば、真珠湾問題の真実はまだ明らかにされていないと言えます。
しかし、アメリカでは昨今、ビーアドが執筆した1948年当時は調査することが出来なかったような傍受電報などの機密情報が少しづつ開示されて歴史研究が進み、歴史見直しがされているようです。
個人的には、ルーズベルト大統領は日本を罠にかける工作を行っていて、真珠湾攻撃を事前に知っていたということはほぼ間違いないと思っています。

ルーズベルト大統領は先にドイツに罠をしかけて失敗したので、ターゲットを日本に変えた? ヴェノナ文書との整合性

日米開戦資料ではありませんが、ヴェノナ文書という機密文書があります。1995年に公開された機密文書で、アメリカで活動していたソ連の工作員の通信をアメリカ陸軍情報部が傍受して解読したという文書です。
ヴェノナ文書で明らかになったのは、ルーズベルト大統領の周りには多数のソ連の工作員がいて、アメリカに参戦させるようにルーズベルト大統領とその側近達へ「影響力工作」をしかけていたということです。日本への最後通牒であるハル・ノートの草稿者ハリー・ホワイトもソ連の工作員でした。

ソ連とルーズベルト大統領にとって、アメリカが参戦する相手はドイツでも日本でもどちらでもよかったようです。実際、最初にドイツを罠にかけて、アメリカがドイツに参戦する大義名分を作ろうとしましたが、ドイツへの挑発工作は失敗しました。そこで、ターゲットを日本に変え、日本への挑発工作を始めたようです。結果、日本は挑発に乗って真珠湾攻撃をしました。

もしもビーアドが生きているときにヴェノナ文書が公開されていたら、もっと深く日米開戦の真実を実証してくれたでしょう。そうすれば、私達も子供の頃からたくさんの「嘘」を教え込まれずにすんだかもしれません。残念です。

ヴェノナ文書

脇道にそれてしまうのですが、ここでヴェノナ文書について少し触れたいと思います。

ヴェノナ作戦という暗号傍受作戦がありました。アメリカ国内で活動していたソ連の工作員達が本国ソ連とやりとりした通信を傍受し解読するオペレーションです。ヴェノナ作戦は、ソ連に警戒心を抱いたアメリカ陸軍情報局のカーター・クラーク大佐という人が1943年2月に指示した作戦です。しかし、1944年にはホワイトハウスから中止を命じられたそうです。ルーズベルト大統領周辺に多数のソ連工作員がいた事実を考えると、作戦中止命令は腑に落ちます。しかし大佐は中止命令の後も、密かに作戦を続行していました。ヴェノナ作戦はイギリスの協力も得て1980年までの37年間続けられたそうです。

このヴェノナ文書によって、ソ連によるルーズベルト大統領と側近達への「影響力工作」と言われる背後からその国を操る秘密工作が明らかになりました。工作員の中には、チャーチル首相やルーズベルト大統領と個人的に会えるほどの高位の者や、軍高官、外交官がいたそうです。

ここでつい、「現在の日本ではどうなのだろう?」と考えてしまいますね。
日本の総理大臣と個人的に会えるような上級国民(高位の者)、霞ヶ関官僚や自衛隊高官や外交官にも、あの国や、あそこの国や、あっちの国の工作員がいるのかしら?

さて、ソ連の工作員達はアメリカをドイツまたは日本と戦争をさせるために暗躍していました。当時のソ連は、ドイツと日本に挟み撃ちにされるのを警戒していたそうです。だから、ドイツまたは日本の戦力を同時にソ連に向けさせないようにするため、どちらか一方をアメリカと戦争をさせようとしたのでしょう。
日本より先にターゲットになったドイツは挑発に乗らずドイツ・アメリカ開戦に至りませんでした。
1941年3月にアメリカの武器貸与法が成立してから、ルーズベルト大統領は独断で密かにアメリカからの支援物資をイギリスに運ぶ際、アメリカ海軍艦艇を護衛隊として活用しました。米軍艦は大西洋でドイツ潜水艦を追い回して爆雷攻撃を加えドイツを挑発し、ドイツに反撃させました。しかし、ドイツはアメリカが先にドイツ潜水艦に攻撃してきたと証拠を示して反論し、アメリカ国内でもその事実が露呈したためアメリカ国民を「ドイツに報復しろ」と煽って開戦気分を盛り上げることに失敗しました。

そこで次に目をつけたのが日本でした。日本を経済制裁で締め上げ、過酷な対日要望(ハル・ノート)を突きつけて、「日本に先に一撃をうたせる」。これによって、「卑怯な日本へ報復しろ」というアメリカ国民の戦意を煽り、アメリカが参戦する大義名分を得ようとする戦略です。その戦略は真珠湾攻撃という形で見事に成功しました。

ちなみに、ヴェノナ文書によれば、日本の降伏を遅らせたのもソ連の工作員だそうです。
日本もアメリカ軍幹部も早期終戦を望んでいたにもかかわらず終戦が遅れたのは、ソ連がアメリカにいる工作員を使って早期終戦を妨害したからだということです。ソ連はドイツとの血みどろの戦争が片付く前に日本に終戦されてしまっては対日参戦ができなくなってしまいます。だから、ドイツが降伏してから日ソ中立条約を一方的に破棄して、8月8日に慌てて満州や北方領土に攻め込んできた事実と照らし合わせると、納得がいきます。

著者チャール・A・ビーアドと「ルーズベルトの責任」

ビーアドは歴史学の第一人者で権威とみなされていました。
1874年 アメリカ インディアナ州生れ
1915年 コロンビア大学教授就任したが、すぐにコロンビア大学を辞める
    その後、米国政治学会会長、米国歴史教会会長を歴任。
1948年 「ルーズベルトの責任」上梓、死去、74歳

 アメリカ共和国は、その歴史において、いま、合衆国大統領が公に事実を曲げておきながら、密かに外交政策を遂行し、戦争を開始する制約のない権力を有する、という理論に到達した。
 アメリカ合衆国憲法の父、ジェームズ・マディソンは百年以上前、アメリカの政治は1930年ころに試練の時を迎えるだろう、と予言した。
 マディソンが予見した状況そのものではないものの、試練はまさに到来したーそして我々の共和国をシーザーから守ってくれる神はいないのである。

「ルーズベルトの責任」下巻、p779

ビーアドはアメリカの将来をこのように危惧してこの本を書いたのだと思います。
この本を書くことによって、非常に高かった人気は失われ、旧友たちは離れていき、祖国に対する背信行為だと責められることもあり、こうした敵意や反感はビーアドが突然死するまで続いたそうです。ビーアドはこれに深く傷ついたそうですが、そういう状況になることは書く前から想像していたことでしょう。それでも「実態」を追求し、書き続けました。
「学者魂」を感じます。

ビーアドが利用した主な公的資料は次のようなものです。「ルーズベルトの責任」には議会証言や調査報告書などの資料が引用されており、それらの難解な文章を読むのは大変です。分量も多く、原著は約600ページ、邦訳本は注など含めると800ページ以上あり、読み解くのに大変なエネルギーが要りました。

・大統領真珠湾委員会の報告書:真珠湾攻撃直後に発足
・陸海軍査問委員会報告書
・連邦議会合同調査委員会報告書:戦後
・政府と軍首脳の議会証言
・スティムソン日記
・新聞各紙、雑誌など

次回から読書ノートを掲載しますが、何回で終わるのか、いつ終わるのか予想ができていません。長くかかると思います。でも、この読書ノートに関しては、言葉を惜しんで書くと内容が伝わらないと思っています。たとえ時間がかかっても、丁寧に進めて行くつもりです。