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孫子の兵法によれば、敵に攻められない抑止力とは「敵より強いこと」。

孫子四篇から十二篇は、具体的な軍の態勢や行軍や地形や火攻めなどの戦術について述べていますので、まとめてご紹介します。

さすがに2000年以上昔の戦術なので、最新兵器を使い高度にシステム化された現代の戦争には当てはまらない内容が多いだろうと想像されるかもしれません。でも、連日のようにテレビで見るロシアvsウクライナ戦の解説では孫子の戦術が結構出てきます。
高台は有利、敵を攻める形、泥濘など自然条件の見極め、陽動作戦、偽旗作戦などなど。特に現代戦では「詭道」がすごく重要になっているようです。いかに上手に敵を欺き騙し裏をかいて攻めるか。それには情報操作も含まれます。テレビやインターネットに流れ、私達が見せられている戦争の情報には、いったいどれくらいの真実が混じっているのでしょうか。

孫子の兵法における一貫した考え方3つ

1.戦争を始める前によくよく考えろ
敵と身方の力の強さや準備状況、地形や自然条件などの有利不利。これらを数値化して比較検討し、身方が有利なときだけ戦うこと。敵のほうが強く有利なときは戦争をしてはならない。

孫子の世界では、攻められないための抑止力は「敵より強いこと」です。

また、火攻篇の最後に総括のような締めくくりが載せられています。戦争はよくよく考えろという文章をそのまま引用して紹介しておきます。

聡明な君主は良く思慮し、立派な将軍はよく修め整えて、有利でなければ行動を起こさず、利得がなければ軍を用いず、危険がせまらなければ戦わない。君主は怒りにまかせて軍を興すべきでなく、将軍も憤激にまかせて合戦をはじめるべきでない。
有利な状況であれば行動をおこし、有利な状況でなければやめるのである。
怒りは解けてまた喜ぶようになれるし、憤激もほぐれてまた愉快になれるが、戦争をしてもし失敗したとなると、亡んだ国はもう一度たてなおしはできず、死んだ者は生きかえることはできない。
だから、聡明な君主は戦争について慎重にし、立派な将軍はいましめる。
これが、国家を安泰にし軍隊を保全するための方法である。

「孫子」、岩波文庫、pp.172-173

逆に、聡明でないトップと立派でない将軍がいる国は軽率に戦争行動をおこすので、近隣国にとっては危険だ。そういうことですね。

2.戦争は詭道なり
戦争のすべての段階において、戦うとは、うまく敵を欺き騙し裏をかくことである。

3.変化する状況に対して臨機応変に対処せよ

次に各篇を簡単に紹介します。

四 形篇

形は(静的な)態勢という意味です。
形をどんぶり勘定で作ってはならないといっています。
戦場の距離と広さ、必要な物量と兵士の数、能力。それらをきちんと計って量って数えて数値化して、敵と身方の結果を比べて、それらのデータをもとにして勝てる形を考えよ。

なんだか、会社の上司から言われているような内容ですね。

五 勢篇

勢いは(動的な)戦う態勢です。
・旗や鳴り物を使って大勢の兵士を指令通りに整然と動かす。
・定石どおりの正法と、状況変化に応じた奇法をうまく使い分け・組み合わせ、敵の出方に臨機応変に対処する。
・敵に餌を見せて敵を誘い出し、裏をかいて攻撃する。
・兵士を適材適所に配置する。 

六 虚實篇

虚實とは何か分かりにくかったのですが、虚はすきのある所、實は備えが充実している所、のようです。

敵情を知るために、わざと少しの兵を動かしてみて敵の行動の基準を知り、敵軍の態勢を把握して、地勢を知り、敵軍と小競り合いをしてみて優勢な所と手薄な所を知る。

これは「陽動作戦」と言われる戦術だと思いますが、まさにウクライナvsロシア戦争のテレビの解説で何度も見ました。

七 軍爭篇

「機先を制す」という慣用句の素となっているようですが、「機先を制す」よりも、武田信玄の「風林火山」と言ったほうが「動かざること山のごとし」のことね、と理解していただけると思います。

自然条件を有利に使って行動し、分散や集合で変化の形をとる。

のように迅速に進み、
のように息をひそめて待機し、
の燃えるように侵奪し、
暗闇のように分かりにくくし、
のようにどっしりと落ち着き、
雷鳴のようにはげしく動き、
村里をかすめ取って兵糧を集めるときは兵士を手分けし、
土地を奪って広げるときはその要点を分守させ、
万事についてよく見積りはかったうえで行動する。

八 九変篇

「変態」という意味だそうです。なお、あの変態ではありません。形態を変えることです。事変に臨んで臨機応変にとるべき九通りの常法とは変わった処置のことです。

高い丘にいる敵を攻めてはならず、
丘を背にして敵を迎え撃ってはならず、
険しい地勢にいる敵には長く対してはならず、
偽りの誘いの退却は追いかけてはならず、
鋭い気勢の敵兵には攻めかけてはならず、
こちらを釣りにくる餌の兵士に食いついてはならず、
母国に帰る敵軍を引き止めてはならず、
包囲した敵軍には必ず逃げ口をあけておき、
進退きわまった敵をあまり追いつめてはならない。

この篇でも「敵に備える」「敵が攻撃できなような態勢がある」ことは戦争の原則といっています。

戦争の原則として、敵のやってこないことをあてにするのでなく、いつやって来てもよいような備えがこちらにあることを頼りとする。
敵の攻撃してこないことをあてにするのではなく、攻撃できないような態勢がこちらにあることを頼みとするのである。

「孫子」、岩波文庫、p.108

最後に、以下のように将軍の非情さを説いている部分がありますが、5つの危険項目のうちどれも該当しないような人が実際にいるのかどうか。
この記事を書いていて頭に浮かんだのはテレビの時代劇で見た「黒田官兵衛」ですが、黒田官兵衛は将軍ではなく軍師だから違いますね。他には思い浮かびません。

次の5つは将軍としての過失であり、戦争をするうえで害になる。
軍隊を滅亡させて将軍を戦死させるのは、必ずこの5つの危険のどれかであるから、十分に注意をしなければならない。
・駆け引きを知らないで決死の覚悟でいるのは殺される
・生きることばかり考えて勇気にかけているのは捕虜にされる
・短気で怒りっぽいのは侮られて計略におちいる
・利欲がなくて清廉なのは恥ずかしめられて計略におちいる
・兵士を愛するのは兵士の世話で苦労をさせられる

九 行軍篇

地形や食糧や休息、軍隊の規律、敵陣の視察など、行軍の注意事項です。

この篇はいろいろ細かすぎて読む気がおきなかった内容でした。でも一つだけご紹介。

「始めは処女の如く後は脱兎の如し」という慣用句をご存じの方は多いと思います。この教えは戦争の行軍において、「最初は処女のようにしていると敵国は油断してすきを見せるので、その後、脱走する兎のようにするどく攻撃すると、敵は防ぎきれない。」という教えです。

現代でも、この戦術は応用範囲が広そうです(のでご注意を)。

十 地形篇

戦いに有利な地形と避けるべき地形を知り、さらに敵情を知って、身方の事情も知って、土地のことも自然界のめぐりのことも知っておれば勝てる。

と、述べています。でも、「それはそうでしょうが、そんな神様みたいなことできるか?・・・」とつい反論したくなりました。

十一 九地編

土地の形勢とそれに応じた対処に述べていますが、興味がわかず、読み込んでいません。

十二 火攻篇

火攻めは水攻めより効果的だそうです。

火人(兵営の兵士を焼き撃ちする)
火積(兵糧の貯蔵所を焼く)
火輜(武器や軍装の運搬中に火をかける)
火庫(財貨器物の倉庫を焼く)
火墜(橋などの行路に火をかける)

乾燥しているとか風が強いとか風向きが変わるとか、自然条件をよく考えて行うこと。
(注:良い子の皆さんはマネをしないように。)