見出し画像

グリーン成長戦略にまつわるモヤモヤを考える。


 2020年12月25日、経済産業省によって取りまとめられた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」に基づき各メディアが解説記事を出しています。
 2020年12月26日の朝日新聞記事によると、エネルギー産業、家庭・オフィス関連、輸送・製造業に関わる14分野への支援を充実させるとし、特に水素をキーテクノロジとすると報じされています。

 水素というと、一般的には燃料電池が想像されますが、記事によると水素を燃料とした発電をメインに言及していました。
 これは水素を火力発電の燃料として利用し、従来の化石燃料を使用した火力発電よりも二酸化炭素の排出量を低減させるというもので、実際に2018年に三菱パワー社などにより、水素と天然ガスの混合による燃料による火力発電用のタービンが開発されていると書かれています。
 また、太陽光発電や風力発電で作られた電気を利用して水を電気分解することで水素を製造し、安定的な供給が難しい再生エネルギーの活用、エネルギーの保存、運搬についても併せて言及されています。
 この水素やアンモニアのエネルギーキャリアや保存の手段として活用するアイデアは、過去に関係者から直接話に聞いた事があり、この記事は非常に興味深かったです。(私はどちらかというと安定していて危険性も少ないと思われるアンモニアに期待をしている立場ではあるのですが)

 発電を含めた全体的なカーボンニュートラルに対するアプローチということで思い出されるのは、少し遡ること2020年12月17日、自動車工業会・豊田章男会長の記者会見でしょうか。
 この会見で豊田章男会長は自動車の電動化をEV(特にバッテリによるバッテリー電気自動車、いわゆるBEV)化と限定して報じる姿勢に異を唱えていたことと、自動車だけではなく発電を含めてのカーボンニュートラルを主張していたことが印象に残っています。

 そもそも、この発言はさらに遡ること2020年10月26日、菅義偉首相による所信表明演説で「グリーン社会の実現」「2050年までにカーボンニュートラルの実現」を掲げ、後日各紙による「2030年代半ばまでにガソリン車の販売禁止」の報道、それに対応するように「2030年代に自動車はEV化される、日本の自動車業界はハイブリッドばかりに力を入れていて世界から取り残されている」という政府方針に関連したメディアの報じ方に異議を唱えたものと考えます。

 なぜ、このようなことになってしまったのか?そして、自動車の電動化の未来のシナリオが間違っているのでしょうか?少し自分なりに考えてみることにしました。

画像3

ハイブリッドばかりやってたらダメなのか?

 ハイブリッド車(以降HEV)にも色々な種類が存在しますが、一部の簡易的なものを除き一定の条件下でモーター単体で走行できるものです。
 特にプラグインハイブリッド車(PHV、PHEVなど色々な呼び方が存在する)では充電も可能となっており、数十Kmレベルでの電気のみでの走行も可能です。
 技術的な構成要素としてはBEVとの大差はなく、エネルギーマネジメントの部分で違いは存在するものの、ベースとなる技術やノウハウはBEVとHEV/PHVで大きな障害は少ないのではないか?と私は考えています。

 電気自動車の最大の懸念点は、移動中の補給…つまり充電時間の短縮であると私は思います。関連業界団体では高速充電の導入は検討されていますが、現在の電池技術では高速充電はそのまま高電力による給電というアプローチを取るものと思われます。
 この場合、高電圧を取り扱うための安全性や充電ケーブルの取り回しなどによる使い勝手に課題にあるため簡単ではありません。ブレイクスルーとなるキーテクノロジとして期待される次世代電池の登場はもう少し先だと思いますし、それが実用化されて一般市場に出回るのは更に後の話です。
 モーターショウなどではそういったテクノロジを織り込んだコンセプトモデルが出てはいるものの「ではいつ出るものなのか?」と言うところではブース内のカジュアルな会話では聞けない回答の一つとなってしまっているのが現状です。
(数年前にリチウムセラミック充電池といったもの試作などが展示会などで見かけましたが、それらは小容量であり大容量となると簡単にはいかないような印象を受けました)

画像1

どうせ、EVになる。というか、ならざるを得ない。ただ…

 私もHEVのままで良いとは思っていません。そして各自動車メーカー似たような考えなのではないかと思います。
 今後、電池技術と充電施設が進歩していけば、自然と切り替わるのでないかと考えています。今は電池を筆頭に電気を取り扱う技術が足りなすぎる。そして高価すぎる。
 事実、種類は少ないですがBEVであったり、FCEV(燃料電池自動車)も販売さていたりします。でも販売数は多くありません。地方自治体が試験的に電気自動車の導入をすることが精々で、業務用自動車が電動車に入れ替えるような計画も聞こえてきません。
 「日本は電動化が立ち遅れている」という主張は確かに理解できます。ただ、2020年末において、日本には思った程TeslaもLeafもMIRAIもiMiEVもInsightも走っていません。
 そして、テレビやネットメディアで散々前述のような「遅れている」という主張がされる割に、そういう人やメディアが率先して購入して啓蒙しているか?というと必ずしもそうではないようです。

 ただでさえ電池は重くて高価なのに、安心安全を考えるとその対策も含めどうしてもさらに重く高価になる。
 更に電気はガソリンに比べてエネルギー密度が低い電池で保存するため、バッテリの搭載数がガソリンタンクよりも占有する容量が増えて大きく重くなる。結果的に構造を強化せざるを得なくなり、値段は高くなる。
 中国には超低価格な電気自動車があります。でも代理店業を行うという人は現れません。そんなに単純・簡単に売れるものではないからです。

 私は近い将来、各自動車メーカーはEV化せざるを得ない時期がくると思っています。そして、おそらくそのための準備は進めているのでしょう。
 ただ、そのターゲットは日本ではなく、海外…特に中国の市場によって動くと思っています。なぜなら乗用車の市場規模を考えたら日本を優先することのメリットが全くといってないからです。
 今後…というか既に市場規模の大きい中国や北米市場の意向に合わせて投入されていくと言うのがもはや常識とも言えます。そしてそれは市場による要求よりも、国家の意向や規制によって切り替わるのではないかと考えています。

 そういう意味で中国における電気自動車へのシフトは早いと予測します。
 そもそも中国ではエンジン開発で諸外国で遅れをとっており、現代の日本では考えにくいとは思いますが、日本を含めた他国メーカーのエンジンを購入して搭載するような自動車が存在しています。
 だから、むしろエンジンを早々に諦めて国家主導で一気に電気自動車に切り替えたとしても何の疑問もありません。
 ただ、中国は国家主導の側面が強く、やるといえば一斉にその方向を向きますが、その決断は方針転換でも同様です。流れにホイホイと追従してあっさり翻意にされ振り回される可能性が無きにしも非ずなのが大きな懸念点です。
 各メーカはそこに立ち遅れないように準備をすれば良いと考えているのではないかと私は感じています。

 実際、各自動車メーカーは北米、欧州に限らず、インド、中国向けを中心にアジア諸国向けといった専用モデルを設定し、現地生産など行っています。
 その国の規制や今後の方針に合わせて、その国のニーズに合わせる段取りは着々となされているわけですから、タイミングを見て適切な製品を投入していくのが自然の流れではないでしょうか…と私は考えています。

画像4

燃料電池自動車(FCEV)は水素をキーテクノロジにする日本の武器になる?

 あまり評判の良くないFCEVですが、グリーン成長戦略とセットで考えると存在意義が見えてきます。
 水素発電に関しては日本は一歩先に行っているようですし、水素発電のコストが下げられれば生き残る道筋も見えてくるのではないかと考えています。
 FCEVもトヨタ、ホンダが1車種づつですが市販化されていますし、試作・開発モデルベースでは他国メーカーのFCEVも存在しています。

 …ただ、その割には武器するようなアピールが弱いのが気になります。
 FCEVの車両価格も高いですし、インフラの整備もハードルが高すぎる気がします。BEVやPHVであれば充電施設を自宅に設置したい場合、既に10万円程度の工事費で導入できますが、水素の場合は流石にそうもいきません。
 私のFCEVに関しての意見は、どちらかというと乗用車向けというよりもバス・トラックといった業務用に活路を見出すのではないかと推測します。
 例えば、港湾部付近の風力や太陽光といった発電施設で発電した電気の一部を水素で保存したり、工場やバス・トラック(配送業社)のヤードに水素供給のスタンドを設置したりして決められたコースを通り、決められたスケジュールで補給するといったアプローチです。補給施設の稼働率の確保と無駄な施設を作らないという観点ではこれが一番しっくりくると考えています。
 まぁ、FCEVに関しては水素が金属に対する攻撃性などから車両にどの位の寿命が期待出来るのか?と言うところで課題はあるのかもしれませんが。

画像2

「カーボンニュートラル」というと再エネと自動車に目を向けがちだけど…

 再生エネルギーは安定供給に難があることは明らかです。
 しかし、だからと言って、再生エネルギーの利用を完全否定するのではなく、それを利用した社会の姿を考えることが大事だと思います。
 それは、再生エネルギーを活用して水素やアンモニアの製造し、エネルギーキャリア、あるいは保存するといったアプローチです、

 人々は化石燃料の話になると、どうしても自動車をイメージしてしまいます。
 しかし、化石燃料を大量に使うのは発電だったり産業(これも発電の一種?)だったりするわけです。そこを無視して人々の目に触れやすい自動車を槍玉に上げるのはあまりフェアではないと思うのです。
 なんとなく政治パフォーマンスくささを感じてしまうのは私だけでしょうか?

 問題・課題を俯瞰して全体像を見ること、あらゆる角度から見る、あえて極端な考え方をして、反論を受けてみる、あるいは自らツッコミを入れてみるというのも大事かな?などと思いながら、この記事は終わりたいと思います。

<おまけ1>
 2021年2月9日にVolksWagen社が48Vハイブリッドシステムを使ったGolfを発表しました。
 …って、48Vのハイブリッドシステムを久しぶりに聞いて「今かよ?」って思ってしまいました。
 数年前…おそらくディーゼルエンジンの未来が絶たれた頃だと記憶していますが「日本のHEVは複雑すぎてコストばっかりかかって非効率。48Vならあっという間にできます」って言ってたものがコレなので、ハイブリッド車の時代はもう少し続きそうな気がします…。

<おまけ2>
 ちなみに…さらに遡ること2020年3月31日に経済産業省が示した「乗用車の2030年度燃費基準」では走行だけではなく、製造工程を含めた総合的な…いわゆる"Well-to-Wheel"の考え方に基づいた評価を使用することとともに電動車には従来のハイブリッド車も含めるとのことでした。
 まぁそれが遅いのかどうなのかは多分国の中心となっている方々が一生懸命考えてやることではないと思ってます。しかし、政府方針と経産省方針と経済界がまるで足並み揃ってないように見えるのがモヤモヤしてしまいます。
 正直な話、経済界…特に大企業に関していえば、もはや日本ばかりに目を向けられない状況だと思います。だからこそ、せめて政治の世界は…とは思います。ただ段取りが良くないように見えてしまうのが一体なんなのか…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?