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終活ことはじめ

 「ねえ、おばあちゃん。おばあちゃんは何才ぐらい迄生きたいと思っているの。」「えっー、何才迄生きるかって?」突然の質問にびっくりして後が続かない。何度かのオンラインでの集まりに馴れてきた家族の新年会の時のことであった。 

 コロナ禍で県境越えは遠慮するようにとのことで子供達の家族総揃えで13人、それでも4台のパソコンで繋がっていた。

 夫はどうしても5人の孫に一人ずつお年玉を渡して新年の抱負を聞く儀式を希望していた。暮れのうちにクリスマスギフトと一緒に送っておいた。いずれにせよ、祖父母はものいりじゃ、と岡山弁で話す舅の笑顔と声を思い出しながらの正月準備であった。

 いよいよ新年会当日、パソコン前に座り新年の挨拶の後、おとそやジュースで乾杯、今年もよろしく、健康でねと言葉を交わした。 

 その後おもむろに祝儀袋を手渡す格好をすると孫達は順に手元に届いているお年玉袋を両手で持って「ありがとうございます。」と頭を下げた。

 おじいちゃんを喜ばすために各々上手なタレントになって笑いを誘い穏やかな会の始まりであった。その後、質問タイムに入ってから孫のみいちゃんの質問が何才まで生きるの?だった。

 「うーん、そうね。岡山から来たパパのおばあちゃんは一緒に暮らして十二年、93才で亡くなられたね。皆よく訪ねてくれたり一緒に出かけたり楽しい老後だったみたいね。だから私も多分そのくらいかな。」と返事をした。みいちゃんは「ふーん」とにこにこ顔で頷き、その後はコロナ禍の学校生活や部活動ができないこと、負けずに元気でね、来年のお正月は本当に集まって新年会をしたいねと言葉を交わしてスイッチを切った。
 
 さて92才までの人生を描いてみよう。できないことが増えているが衣食住全体にあまり質を落とさないで快適な暮らしを続けたい。

 「衣」に関しては少しずつ処分するものを分けて寄付する先や中古店に、最後は「捨て布」箱に入れるなど、自分の力で自宅でできそうである。SDGsで役に立つ場合もある昨今である。

 「住」は何度か馴染みの工務店に入ってもらったので古いが二人で暮らすには丁度よい。但し階段で二階へ上がる回数は減らしたい。そんなことを考えている時に娘がキャンプで使うロープを張って庭に干し場を作ってくれた。食堂の横で作業も楽になった。庭木にの手入れは夫の楽しみだが、伸びすぎた木は息子が伐ったり落したりしてくれた。暫くは大丈夫だろう。工事を伴うものは工務店の若店主が電話をかけると必ず訪れて施工をお願いできるのも大きな助けである。

 「食」は健康と結びつく大きな課題であり、又大きな楽しみでもある。しかも運転免許を二人とも返納し、コロナ自粛と重なると外の買い物をして手で持って帰ることはしたくない。

 それを見越した訳ではないが、新鮮な野菜が週一回届き代金の一部がある少女の団体の活動援助費になるサポーターの会を二年余り前に作った。野菜を作っている友人にお願いしてサービス品袋をいくつか畑からボランティアさんに運んでもらい、メンバーが買い取るシステムである。その朝採れた茄子やズッキーニ、胡瓜など、冬には白菜や大根、葱など新鮮で美味しい。友人は研究熱心で今迄見たこともないゼブラ茄子や神楽南蛮、会津赤かぼちゃなども作っていて、そのどれもが心をこめていて美味で驚くことが多い。

 「食」といえば生協にもお世話になって久しい。穀物や果実・調味料・ペーパー類は重いし、かさばるので戸配は本当に有難い。その中で最近利用が増えているのがコープデリデリミールキットとよばれている食品である。八宝菜や豚肉などであるが、材料が洗って刻んであり、調味料は計って袋入り、作り方に従ってフライパンで10分程度の料理である。しかもワールドディッシュと名付けられた外国籍の料理は興味深い。ブイヤベース、ルーローファン、ビーフストロガノフ、プラウンマサラなど、自分では思いつかないメニューが並んでいて毎週レストランに行く気分になる。

 友人の畑の野菜と生協の配達で食への安心が得られ、食べる量は減っても楽しみは増えている。

 終活ことはじめとして生活を振り返ったが、まだ考えているだけのことがある。本・冊子・資料や趣味の持物の整理である。みいちゃんに新年会で報告できることを目標に考えて始めたい。

             (市民文芸 「さやま」第26号 2022/3   掲載)

 

 

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