行商奇行vol.3


モイモイ!

夫婦の帰りゆく姿と、フィンランドの挨拶にふにゃりと脱力してしまう。おいおい、これは、なんとも言えぬ不思議な響きだな、もいもい。

まあるいフォルムの明るいお母さん。目が合うたびに、なにかあたたかい。お父さんは手招きでついてきて、わたしたちが話すのを見守る。ふたりは背丈が同じくらいで、国籍違えど、似てくるというのは本当だなあ。青い目をぱちくりさせると、デハカイマショウと、はちみつの大瓶が手にふたつ。

突然、お父さんがその口を開いた。

がんになったんですよ。いろんなところに移転してね、ついに肺まできてしまった。もうダメだと言われていたんだ。妻がフィンランドなんだけど、前に住んでいた頃ね。その時に、ギリシャのヨーグルトとブルーベリー、あっちは種類がたくさんあるんですよ。それと、天然のはちみつ。これを毎日食べ続けた。するとある日、治ってしまった。それから、欠かさず食べています。

ソンナ一時期モアリマシタネ。

つぶやかれた言葉は、骨董品みたくていねいに積まれてきた、よい重みがあったんだ。 


昨日はほかにも、
線路を直していると言うお兄さんは、ブラジルから来ていて、コロナが落ち着いたら一度家族と帰りたいと言っていた。

ある軒先では、オランダの会社とやりとりしていたと言うお父さん。近所のひともやってきて、ドイツやらアメリカやらの話が飛び交った。

ろう者さんにもあった。音のない会話は表情の割合が増えて、お互い繊細になるから神経つかうけど、なんだか好きだな。


それから、久々に配達がはいった。行き先でお客さんに、あなたじゃなかったら買わないよ。やめないでね、やめるときは連絡してよね!…そんなの、はじめて言われたよ。


その日は、行商を始める前に、神社で電動おみくじを引いてみた。春の氷がとけるように、次第にながれてゆくでしょうとあった。ほー、そうだな。などと思いつつ、ハッとしたのは、そう、どうして行商をはじめたか。


これは、生業なんだ。生きていくために、させて頂いてるもの。それ以外、特に複雑な理由は、今のところいらないのだな。


書き残すことで、噛みしめた後はさっぱり忘れよう。こころ。からだの声と向き合って、そうして少しずつ、本能的に、野性的に進んでゆけるのかな。な。


つづく。




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