ドラマ 「アンサング・シンデレラ」第6話解説

こんばんは。

女性ホルモン製剤と女性の暮らし

いわゆる「低用量ピル」と呼ばれるものについての解説。
 卵胞ホルモンと黄体ホルモンを組み合わせて、妊娠に似せたホルモンの分泌の状態を作り出し、妊娠しないようにしたり、子宮内膜が必要以上に分厚くならないようにします。もしくは、自分の体の中で起こっているホルモン分泌バランスの乱れを整え、月経周期に伴う心身の不調を改善する目的で服用することもあります。最近では、より影響の少ないとされる「超低用量ピル」も出てきていますし、その中には120日間連続服用可能なものもあります。

https://whc.bayer.jp/ja/yazflex/

こちらが120日まで連続服用可能なホルモン剤ヤーズフレックスの患者さん向けサイトです。

 生理痛や月経困難症で日常生活に支障が出るのは現象としては珍しくないのですが、それを「当たり前」として女性に我慢を強いる風潮は良くないと考えます。月に1-2日の体調不良を改善する権利はあります。

 http://www.mochida.co.jp/naimakusho/interview/momoeda/index.html

子宮内膜症の患者数は推定260万人と言われ、非常に多い人数です。彼女たちの日常生活を楽にすることができるのであれば、その周りの人たちも救われるのではないでしょうか。

エストロゲン製剤による血栓症のリスクはあります。しかし、妊娠によるものよりも低リスクとされています。しかし、起こってしまうと命に関わることがあるため、初回服用時の説明は必須です。

血栓症の初期症状 
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f22.pdf

「手足のまひやしびれ」、「しゃべりにくい」、「胸の痛み」、「呼吸困難」、「片方の足の急激な痛みや腫れ」
即病院にかかるでもいいぐらいの症状です。

「女性の体のことはわからない」と女性の月経や妊娠、婦人科疾患についての薬の説明を女性の薬剤師に任せっぱなしの男性薬剤師は多いです。たまに「疾患に対する共感よりもドライに対応する男性の方がいい」という人もいますし、知識としては知っておいても損はない(女性の体調不良の原因は妊娠だったりホルモンバランスの崩れだったりすることもあったり、相互作用などを知る上でも)ので、男性薬剤師も学んでおきましょう。

ジエノゲストは卵胞ホルモンであるエストロゲンの働きを邪魔しますが、エストロゲンではないので血栓症のリスクは非常に低いです。こちらも服用期間中は月経がなくなります。

番組中でも触れられておたとおり、セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)はいろいろな薬の効果に影響を与えます。(代謝酵素CYP3A4の作用を増強し、いろいろな薬の効果を減弱させます)
 対し、グレープフルーツ(やそれに近い柑橘類:文旦、はっさく)はその逆に薬の代謝を遅らせ、作用を必要以上に強くします。

https://oici.jp/hospital/patient/fdin/medicine_06/


(結果として)患者の言いなりになってしまう医師

この話題を、
 比較的誰も悪者にせずに書けたというのは立派な脚本だと感じました。
(患者さんも悪い部分がある、というふうに描けたことが重要です。しかも、この心理描写は「よくある」医師-患者関係です。)

 地域コミュニティに馴染めず、行く場所が病院しかない高齢者が少なからずいます。病院しかないのはまだいい方で、COVID-19以前はショッピングセンターのベンチに一日じゅういる高齢者も少なからずいました。仲間と話すのならともかく、電気代がもったいないので一人でいる人もいました。会話する相手もおらず、介護を必要とする状態になったら誰からも発見されないことがあります。
 患者さんから薬を希望することもあるんです。例えば、使用状況を診察のたびに確認して、疾患のコントロール状態を推し量る場合。毎回処方する必要がない薬だと、必要な薬だけ処方してもらうために患者から処方して欲しいと言うことがあります。(例:ニトロペン 期限も短く期限切れを起こさずなおかつ切らさないようする。)

 しかし、患者さんが多すぎます。そして、患者さんが気持ちの上で受け入れるまで説明する時間もありませんしそれだけの報酬は診察料の中に含まれていません。(なんたら管理みたいな大きな加算をつけてもらって、「様子観察したから算定OK」とする、という医療機関も)
 患者を説得するのを諦めて処方する事例、経営的視点(患者離れを避ける)で処方する事例、患者がより根拠のない有害な医療(の名を借りた金儲け)に走らないために処方する事例、患者に脅された事例・・・(さすがにここまではドラマに書けなかった)

 患者さんの思い込みの強さに押し切られる事例が多いですが、自分の好みの治療をしてくれなかった医師の悪口を言う患者もいます。しかし、言うほど悪い噂は広まりません。しかし、一旦広まってしまうと、個人事業主である診療所では対応しきれないため、押し切られる事例もあるようです。
 医師の中には、患者からの薬の希望に関して、必要がない場合は頑として処方しない医師もいます。


と思っていたら、こんな事件がありました。治療方針が気に入らないとして、主治医の頭を金槌でかち割った患者が逮捕される事件。しかも、診察室で。この時点で患者と医師の信頼関係は終了しています。
 ここまで白昼堂々とではないにせよ、治療に関して患者から危害を加えられたり嫌がらせを受けたり付きまとわれる医療従事者は少なくないです。(事件の性質から、あまり表沙汰にされない。患者さんの病気に対する不安から通常の精神状態では行わない人の道に外れた行動をすることがある、悪いのは病気であるという認識から)

 医者を脅す患者いるのかよ!と思った方もいたようですが、こういう事例で表沙汰になりました。(だから大阪は・・・という声が上がりそうですが、全国どこでも起こっていると思われます。事件数には地域差があるかもしれませんが)

https://www.sankei.com/west/news/200820/wst2008200033-n1.html

薬をもらったら安心する、という考えは医師の「診察」という行為に対する価値が低いのではないかという印象です。
「困ったことがあったら、いつでも来てください」
という言葉だけでも安心するのに、安心の証を求めて薬をもらう。文章というか、メッセージカードのほうがより「診断」という行為に近づくのではないかと思った次第です。長崎先生の言葉は十分に安心を与えています。
 もちろん、狭心症の人にニトロペンを頓服として出すのはお守りどころではない効果があります。お守りとして薬を持っておくと安心して過ごせるという効果は否定しません。ただし、それはその薬による害が出ないことが前提です。抗菌剤や眠剤を処方するのは耐性菌や転倒などのリスクがあります。
 


人としての薬剤師

地域の健康教室に薬剤師が登場して講演したりするイベントが増えました。
(今はCOVID-19感染拡大防止のために、予約制だったり、人数を絞ってのものに限定されます)
 ここで、真面目に薬の話をするだけでなく、医療従事者個人の趣味や一芸を披露することで、地域住民の心をつかむ方法もありです。
 荒神さんはマジックだけでなくミシン縫いで絵を描けるという「手先が器用な薬剤師」というアピールもできて、プラスの印象を与えています。

今話では、患者さんのインスタグラムを見つけて、併用しているサプリメントやハーブティーから相互作用を発見しました。通常、初回問診の時点で、併用している薬やサプリメント食品の確認を行います。特に、ピルとセントジョーンズワートの相互作用は有名です。
 インスタグラムの場合、「自分を見てほしい」という願望のある人が、自分の生活の充実した部分を紹介する要素が強いし、この方の場合は顔出しまでしてしまっているのでアカウントを探しても支障はなかったと思われます。

 ただし、Twitterの場合は話は別です。趣味についてとことんつぶやくものから、ダメな自分を披露しまくるもの、ネタ披露、愚痴など職場や学校では見せない姿を表しているものがほとんどです。公の場で出していないことを公表するのは避けましょう。それが大人の対応です。(筆者はツイ廃10年で、得たものは思考を文章にするのがスムーズになったことと、キーボード入力のスピードです。)


患者さんは生活している

外来に来ている患者さんは、日常生活の中で治療を行っています。入院するのと違い、治療100%の暮らしはしていません。そのため、薬を飲むのを忘れたり、つい飲みそびれたり、生活習慣が乱れたりといろいろなことが起こります。そのことを医療従事者が正面切った言い方で問い詰めると、患者さんは治療に消極的になります。

実際に患者さんの薬の余り具合を聞くと、飲んでいることのほうが多いです。それだけでも評価できるのではないでしょうか。飲めていない患者を攻める前に、無理のない処方設計であったか考えるほうが有益です。そして、認知機能が低下している場合は、誰かに見てもらえる状況で薬を飲めるようにしたり、何日か飲み忘れても薬の効果が落ちにくい薬にしたり(むしろ飲み過ぎを避けたい)、薬の置き場所を工夫したりと医療者からのアプローチが優先されると考えます。


患者さんの話を聞く、というのは重要な要素です。患者さんの言いなりになるのではなく、どんな生活をしているのか知る上での話を聞くことは非常に大事です。
  劇中に登場する診療所の長崎先生はいい先生です。地域から孤立している高齢者の話を聞き、気分をスッキリさせています。医療不信が人を殺すかもしれないこともわかっているのでしょう。自分が見捨てたら、この患者さんたちは完全に地域から切り離されてしまうことを理解していると思われます。スタッフの数も多くなく、あまり患者さんを増やさないでも経営できるように努力していると思われます。患者が増えて、話を聞いてあげられなくなったら自分の診療所の役割は果たせないと認識できているようです。
 診療所で世間話をして帰る高齢者と揶揄されますが、丁度いい人間関係を維持できるコミュニティであることは否定できません。あまり長時間滞在しませんし、コミュニティの主は医師という同意ができています。高齢になると、特に自分の話をしたいけれども他人の話は聞きたくないという傾向が強くなります。コミュニティ構成員が回転する診療所の待合室は丁度いい距離を作れます。

 もし、長崎医院が今の状況で実在しているなら、診療所に一度に入れる患者数を制限するなどして、風邪症状の患者も受診できる体制をとっていると思われます。先生自身も勉強して、感染予防策を取るでしょう。

 ずっと働いていた人にとっては、地域の趣味の場は入りづらい面もあります。

 刈谷さんは「薬局時代は親身に話を聞いて、ひとりひとりの患者さんに時間を書けていた」「患者さんに有害事象が起こったのを見つけられなかったので、薬局薬剤師を辞めた」「正しい薬を出すために、病院に移った」とあります。これだけでは説明不足になっています(スポンサーに対する忖度の可能性あり)。

 薬局時代の刈谷さんが見つけられなかったのは「高マグネシウム血症」こちらは、兆候が出れば医師への疑義照会もしくはトレーシングレポートにて医師に報告ができると思われます。

高マグネシウム血症
http://www.mochida.co.jp/dis/tekisei/mag2710.pdf

吐き気、嘔吐、立ちくらみ、めまい、脈が遅くなる、 皮膚が赤くなる、力が入りにくくなる、体がだるい、 傾眠(眠気でぼんやりする、うとうとする)
の有無を確認し、定期的な採血の有無を確認すれば防げたと思われる副作用です。刈谷さんの知識が足りなかったということです。
 当時の刈谷さんはただ患者さんの話を聞いてあげればいいと誤解していた可能性があります。まあ、それだけでは20代で旗艦店舗の副店長になれるとは思えませんので、知識はあったし、調剤ミスはしなかったものと思われます。

 もしくは、疑義照会をしたけれども、医師に押し切られたか医師との関係悪化を恐れた上司によって阻止されたかでしょう。(ただし、総合病院ではそういう事例は余り見られない)日本の不完全な医薬分業について、各種団体の力関係で描けなかったのが謎の保険薬局を下げる表現になったのではないかと推測されます。
 初期の医薬分業では、法律としては認められていても、医師が圧力をかけて疑義照会は許されない状況のところもありました。他にも技術料のキックバックを求めたり、服薬指導自体を認めなかったり。
 患者に対して恫喝する医師が今もいるという声がありますが、他の医療職に対して恫喝する医師も絶滅危惧種ではありますが存在します。(高齢の医師や開業医に散見される)

 親身に話を聞くことと、正しい薬を出すことは両立できます。むしろ、親身にならないと「その患者さんにとって正しい薬」は出せないことが多いです。

 親身になって話しているうちに、患者さんの生活状況が見えて、その患者さんにあった薬、服用方法が見つかる場合があります。例えば、2交代の仕事をしている場合は、眠剤以外は「寝る前」を服用時点に設定していると飲む時間が定まらないことになります。
 運転をする仕事であることや、家族構成がわかると、これまた事情にあった薬の提案ができるようになります。
 また、医療機関との連携ができていれば、医療機関で説明されたことをうまく咀嚼できていない患者に対するフォローが可能となります。処方内容が患者にとって安全かつ効果的であることを薬剤師の視点で分析し患者にわかるよう言語化し、患者が安心して治療に取りかかれるようにするのも役割です。たとえ同じことであっても複数の人に言われたら説得力は増すでしょう。
 また、患者の中には言葉の意味はよくわからんが信頼できる人の言葉なので言うことを聞くという人もいます。自分に対して親身になってくれる人の言う事なら聞くという人です。

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 患者さんに親身になるのは、正しい、というか根拠のある知識があってのこと。車の両輪です。




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