ドラマ「アンサング・シンデレラ」第8話 解説とツッコミ
こんばんわ。今回は様々な薬剤師の方がそれぞれの業務内容、業務に対する思いをつぶやいていたのが印象的でした。
いいつぶやきも多かったので、自分のツイートだけでなく、他の方のつぶやきも引用します。
薬剤師による在宅療養支援
「居宅療養管理指導」(介護保険によるもの)
要介護認定を受けた人に対するサービスです。介護保険の上限額の枠の外で計算されます。(上限額に関係なく、一定の額の支払いとなります)
独居や介護者が長時間目を離すことが難しいなど通院が困難な人が対象となります。寝たきりだけど、家族や他の訪問系のサービスの利用で薬を薬局に取りに行くのが難しくない場合は、医師の訪問を受けていても、薬は家族が取りに行くという選択肢もあります。また、通院はできても、居宅療養管理指導をしている場合もあります。(例えば、お薬カレンダーに適切に薬をセットしたり、自宅にある飲み忘れの薬を持ち帰って利用者が勝手に薬を飲まないように調節することもあります:次回の訪問までの薬しか自宅に置かない。または、利用している他の介護系サービスの時間に合わせて薬を飲む時間を調節することもあります。(コンプライアンスの維持・向上)
https://www.heartpage.jp/contents/magazine/03-00085
通院が困難な人を対象にして行います。
https://www.tyojyu.or.jp/net/kaigo-seido/kaigo-service/shidou.html
在宅患者訪問薬剤管理指導料
病院の薬剤師も訪問して薬剤の管理を行うことができます。
(薬局薬剤師だけが行うものではない)
https://clinicalsup.jp/contentlist/shinryo/ika_2_2_1/c008.html
https://kanri.nkdesk.com/kasan/kasan4.9.php
劇中では「終末期患者の治療を支援する」ものが取り上げられていましたが、実際は多岐にわたります。
1.高齢になり心身の機能が制限され、薬の正確な管理が難しくなっている人に対するもの
独居で自宅だけなら体が動かせる方で、 認知機能はしっかりしているので薬を一包化せずにお渡しできる事例もあります。その場合は、ご自宅で通常の服薬指導を行い、体調や残薬等を自宅で確認することになります。自宅の衛生環境の観察も仕事です。
高齢になると自宅の掃除が億劫になり、足の踏み場がなくなることが往々にしてあります。故に、訪問する薬剤師が上履きを履いて訪問することは珍しくありません。余談ですが、認知機能が低下し、ごみの分別を自分でできなくなった結果、自宅にゴミが散乱するケースも少なくありません。自治体も、ゴミを捨てるサービスや分別のサービスを行っているのですが、そういうサービスを知らない人や、手続きの方法を知らない人、自宅に人が入ってくるのを拒む人もいますので、個人的にはあまり細かい分別をしないでいいゴミ収集を希望します。
2.医療的ケア児に対するもの
医療的ケア児が在宅で生活するには、多くの支援が必要です。
・通常の食事ではない形での栄養補給(→かさが大きく、荷物が多い)
・希少疾患であることが多いため、薬の調剤に手間がかかる物が多い(成人用の薬を粉砕するなどして使用している)
・薬の種類が多く、家族による仕分けが煩雑である
・急変することが多く、薬の切り替えが急に行われる
上記のことを薬局で行っている間に薬局のカウンターで待つのは難しい上に、家族が薬ができた頃に薬を取りに行くのが難しい
小児在宅医療における地域薬局 の役割 - J-Stage
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/51/12/51_1164/_pdf/-char/ja
3.精神疾患の患者さんに対するもの
精神科病院に所属する方のつぶやきです。病院薬剤師も訪問薬剤管理指導を行います。認知症も精神の疾患ですので、高齢者に対する訪問とかぶってくるのですが、統合失調症の方に対する訪問も存在します。
病院と薬局薬剤師の違い
劇中で、「病院薬剤師は退院したら終わりだけど、薬局はそうではない」という台詞がありました。最近は、病院と診療所や薬局との連携が進み、分担するようになりました。
病院では治療に集中する期間を過ごし、退院後は生活とともに治療を行う。
在宅療養の場に薬剤師が行くと
医師の指示で、すでに飲み始めている薬の処方変更が行われることがあります。その時はすでに一包化したものから薬を取り除きます。一旦薬局に戻って丁寧に包装するよりも一包化の袋を開けて該当の薬を取り出したり必要な薬を入れたりして、シーラーで閉じたほうがきれいです。
それを簡易化するのがセロテープドメです。
医師の往診に薬剤師が同行し、薬の量の設定や、医師の専門外の薬の辞書代わり的なことをします。自分の専門以外の薬の使い方は医師も詳しくないので、より効果の出る薬剤選択の支援をします。患者宅の薬を整理し、使用できそうなものを使うこともします。
往診同行自体には報酬がない上に、時間もかかりますので、人員的に余裕があるところでないと難しい部分もあります。
https://pupule-iryou.com/home/
通院困難な患者さんは得てして日常品の購入も難しいことが多いです。
店に行って適切なものを選べない人もいます。
おむつを使っている人が多いですが、心身の状態に応じて適切なおむつが異なってくる(ちょっとトイレに間に合わないことがあるという程度の人から、ずっと寝たきりの人、認知機能が低下していておむつを外そうとする人まで)のと、おむつが大きすぎて買いに行くのが大変という理由で、薬局がおむつを配達するのは薬剤師の仕事から外れていないと考えます。おむつの選定はヘルパーやケアマネ、看護師と利用者が一緒に選択するにせよ。
長期的に安定しているのであれば、Amazonなどで定期購入する手もありますが、心身の機能に応じて使うおむつが変わってくるので。
蛍光灯を薬剤師が替えるシーンがありましたね。あれは薬剤師の仕事か?と思われますが環境衛生に関わる仕事なので薬剤師が全く関与しない内容ではありません。
学校薬剤師の業務について解説された文章があります。
https://www.nichiyaku.or.jp/activities/activity/about.html
この中に、学校環境衛生検査というものがあり、教室の採光に関する検査を行う業務も存在します。(他に、換気、水質、騒音など学校内の環境衛生を調べ、どうすればいいのかについて学校に提言をする)
これを患者の自宅に応用する、となると薬剤師が実行しても全くの的外れではないこととなります。患者さんに声をかけて、どうすればいいか訪ねた結果薬剤師が買い物に行くこともありえます。
終末期の家族が家にいることはそれだけで家族にとっては仕事が増えます。しかし、家族間で悔いのない(少ない)生活が送れた、という事実は残される家族にとっても救いとなるでしょう。家族を失ったあと、「ああすればよかった」という後悔は大なり小なりあります。それが小さくなるのであれば、それだけでもよいのではないでしょうか。
辰川さんの話でも出てきましたが、
在宅医療に関わるスタッフの疲労
まず、終末期の場合は家族が抱えるものは大きくなります。(長期の介護や医療的ケア児を抱える家族の苦悩も大きい)それを軽減するために医療・介護従事者は支えていくのですが、最も長い時間患者さんを見ているのは家族です。その苦悩を全部は抱えられない、そのことに無力感を感じる医療・介護従事者は多いです。
長年、在宅医療に関わる仁科さんでも「慣れない」といいます。これは、患者さんを一人の個人としてみてるからではないでしょうか。
小野塚さんのこの発言、非常に重要です。
医療という仕事では、医療従事者が最善を尽くしても結果が芳しくないことはしょっちゅうあり、その度自分の無力さを感じることになります。それで精神をやみ、職場を去る人もいます。
自分の心身を守るために、一歩引くこと、患者さんとの距離を近づけすぎないスタンスは非常に大事です。
また、やる気があっても手順が間違っていたら人が死ぬことがあるので、技術があることが大前提です。
在宅療養に関わると、いろいろな人との連携が必要になってきます。
患者の状態やその家で見てきたことを関わるスタッフと共有。薬の準備に時間がかかるものも多いです。(輸液の調製など)また、急を要する業務が突然入るのも特徴です。
居宅療養管理指導のフィー:1回2900円から6500円(患者負担は1-3割)
今年の4月から、体調が変わって臨時に訪問する場合でも2000円(患者負担は1-3割)がつくようになりました。(麻薬や抗がん剤の場合は別途費用がかかる)
お金だけの話ではありません。1回の訪問時間+現地までの移動で1時間でも短いほうです。その後の報告書への記載を考えると高いものではありません。
報告書をネットで送れるようにしたらいいのでは?という考えに及ぶ人が少なくありませんが、セキュリティレベルを高める必要があります。医療に関する情報はセンシティブです。治療を受ける人との関係によっては、非常に美味しい目玉情報なのです。有名人や企業の経営者層、政治家のものは特にメディアに狙われます。通常のセキュリティレベル以上のものが求められます。
メッセンジャーで簡単に情報を送ることができれば業務は非常に効率的になると思われますが、それぞれのスタッフがそれぞれの担当患者を複数抱えていて所属元に在室していないことが多く、薬の場合は他のスタッフが発注や調剤をしておくと時間を節約できるので、意外とFAXという方法が効果的だったりします。(在宅専門薬局であっても、誰かが薬局内にいるようにしている)
笹の葉薬局、モデルが存在します
笹の葉薬局の撮影場所
子供に薬を飲ませないで
妻が臨月で入院している父親が、忙しくて我が子を小児科につれて行けず、自分の鼻炎の薬を飲ませる事例について
鼻炎でステロイド配合のセレスタミンを飲むほど重症なのか?という疑問がありました。現在では、ステロイドの点鼻+抗アレルギー剤の併用、もしくはどちらかというのが多いです。
薬剤師の「みる」は他の医療スタッフにはない視点があります。
患者の動きを見て、薬の作用(良くも悪くも)を想像することができるのが薬剤師です。
今回はお子さんが目をこするのを見て「眠気が出ているのではないか」と想像したのですが、手の震え、せん妄、表情、いろいろなことを想像します。添付文書等にある副作用や作用が出た場合、どのように表面化するのかを学び、観察し、他のスタッフに報告するのも薬剤師の仕事です。
また、患者さんの身体機能から、外用剤の選択や調剤の工夫をするのも薬剤師の視点です。
他のスタッフから「薬剤師は患者の前に立たなくてもいい、薬を速く作って欲しい」と言われるのは、自然なことです。自分たちの職種にない視点で、ときに他の職種と違った視点だからです。これは、他のスタッフに対する言い方を工夫すれば解決していく部分です。もしくは、的確に言い当てる体験を他のスタッフにしてもらうか。
小児に喘息の治療でステロイドの吸入を使用し続けた場合の体への影響を調査した研究があります。僅かですが、慎重が低くなる可能性があるというものです。
ちなみにこの論文
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25504972/
小児科に連れて行く時間がない+アレルギーなので、小児アレルギーの先生がいそうな萬津総合病院を紹介させれば解決するのに、と思った次第です。
萬津総合病院はホワイト職場
1.薬剤部長の気遣い
いつも「いいね」ばかり言ってる阪田薬剤部長ですが、部署のスタッフ一人ひとりをよく見ています。そして、それそれのスタッフの考えを尊重しています。その「他人を尊重する」姿勢が薬剤部全体に浸透しています。
みどりが「笹の葉薬局」に行って、訪問することになった患者さんの名字が「荒神さん」珍しい名字なので「もしかして薬剤部の荒神さんの関係者かもしれない」と想像してしまいそうです。
荒神夫妻の結びつきは手品でした。自分たちの結婚式の余興も手品。毎年の結婚記念日に手品をして記念写真を撮っていました。
夫婦の仲をよく知っていたのか、奥さんの終末期に部下であるみどりを送り込み、患者家族としての荒神さんを支える仕事をさせています。
現に、荒神さんは薬剤師でありながらも自分の最愛の妻に対しては冷静ではいられませんでした。一般的な患者家族でした。
(余談ですが、一般的な患者家族でいられた、というのは荒神さんにとってはよかったかもしれません。医療従事者となると、どうしても冷静でいなくてはいけないという抑圧がかかります。その抑圧がもとで、立ち直りに時間がかかってしまう恐れがあります。それを解放できたのは幸せなことかもしれません。
今回の話では、結局奥さんは亡くなってしまうのですが、ベッドに手品の衣装を敷いて、奥さんとの日々を思い出し、その衣装をたたむというシーンをエンドロールに使っています。
2.アンサングな薬剤師の更にアンサングな仕事
荒神さんは、人を和ませるだけではなく、知識も確かな人のようです。(劇中には出てきませんが)欲しい情報が書いてある資料の場所を的確に答えられる、輸液の在庫管理を的確にできる(期限や患者の病態に合わせて適切な薬を切らさず余らせず用意しておける:ただ調剤して在庫がなくなったらその文だけ補充すればいいものではない:薬剤師特有の視点から行う在庫管理)
患者や他の医療従事者の前に出る薬剤師が目立ちますが、彼らが安心して外に出られるのは、刈谷さんにも通じるところがありますが、こういった屋台骨を支える人たちの働きがあってこそです。
そして、荒神さんが休むとなったら、他のスタッフが彼の働きを評価する言動をする。一般的に若いスタッフは、高齢のスタッフに対し動きが遅いなどいい印象を持たないことが多いですが、評価するところを口に出し、尊重するのは、給与や休みと同じぐらいの価値があります。
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