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「雲と風と──伝教大師最澄の生涯」を読んで


この私が本を160ページも読んでいる。
ようやく、読書感想文の域に達することが出来そうだ。因みに今、4冊くらい同時に読んでいて、まだ読んでいない本がある。どれも哲学系統の本ばかり。さぁ、最初に読破できるのはどの馬なのか。

感想もありますが、メモ的な要素も多分です。


◉青年最澄は、丈高く色白の美丈夫だった。もの言い穏やかで、生涯声を荒げたことがない。とも言われている。

おお、声を荒げるつもりがキャンキャン程度の子犬の鳴き声にしか聞こえない私とは、物腰からして違う最澄。

そんなふうに最澄を形容した筆者の方に、私は最初から好感が持てた。

「伝記を読むにあたって、どの伝記にもありがちな、あらわな虚構性。書き手の心情が入っており、あてにならない。例えば、織田信長の『信長公記』は信長を扱う小説は大抵これを使っているが、そのいい加減さは呆れるばかり。材料として使う気になれない。

──もう少し丹念に、どこでどういう嘘、またはそれに近しい言い廻しをし、どの問題では、目をつぶって書き落としをやっているかとういように見ていくと、書き手の意図が次第に見えてくるのである」

と、若干『大師伝』(最澄の伝記)をディスったような言い方の文章が書かれてあるが、私も何かを読む場合は、全てこの技法を使っている。

筆者の、何かへの感情移入には冷めた目で見ている。筆者独自の考察は鵜呑みにしない。それらは都合の良い場所への誘導を示唆している場合がある。またその蓋然性も考えてみることにしている。
感情を利用した誘導と思われる内容は、必ずといっていい程、何かをひいきし、何かを敵対視している。それを読み取るのがまた面白くもある。

この筆者も、あらゆる書物を読み比べ、人物同士の時代背景を照らし合わせた上で、それらの書面に虫を這わせ、キーワードを察知するのだ。その能力があり、それを理論で紐解いている。

その筆者が紡ぎ出す文章の音や調律、波調。そのテンポも軽快で、私のリズムに合っているのです。


◉最澄編
本書の方も読み進めると、ようやく桓武編が終わり、最澄編に入ったと思われる。

最澄を語る上で欠かせないのが、天台宗の開祖「智顗」

「智顗」…「法華経」の精神と竜樹の教学を形にし、天台教学を確立。金陵の瓦官寺で強化活動。32才で、その後都を棄て、台州の天台山に籠る。
「自分が指導しても、真理を体得した者はじつに少なく、それも年々減ってゆく」と十一年山に籠り、その後は、また金陵に戻る。
千年に一人の智者と呼ばれる。智者大師。天台大師。

そんな智顗の天台法文に巡り会えた最澄は、自身が山に籠る決意を語る、有名な『願文』を書いた。『大乗起信論疏』他は、いずれも天台教学を指針としている。

◉山籠最澄

「願文」の中の名文
「悠々タル 三界ハ 純ラ 苦ニシテ 安キコト無ク 擾々タル 四生ハ 唯患ニシテ 楽シカラズ」

「是ニ於テ 愚中ノ極愚 狂中ノ極狂 塵禿ノ有情 底下ノ最澄 上ハ諸仏ニ違ヒ中ハ皇法ニ背キ 下ハ孝礼ヲ 闕ケリ」
と、最澄は、自身のことをこう述べている。

・愚…禅定の修行をしても学問研究をしない姿勢。
・狂…学問研究はしても禅定の修行はしない姿勢。

◉その後、最澄は5つの誓いをたてる。

「私は六根相似の位という悟りへの段階に到達しないうちは世間に出ることはすまい」

「過去世と未来世の中間である、現在世において修した功徳は、自分の身だけに受けることはせず、あまねく人々に施して、すべての人にことごとく最高の悟りを得させよう。

その後にこうして、努力し、悟りを得たときは、その解脱の喜びの味を人々とともに味わうことにしたい」

「六根相似」
眼、耳、鼻、舌、身、意の六つの器官の働きが清浄になり、仏の悟りに似たところまでの到達。「相似即」を最澄はめざした。


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◉ここまでの感想

桓武と共に、この智顗という天台開祖にも、どこか懐かしいような、近しい性質というか、親近感のような、そんな趣きを感じた。

若干二十歳そこそこの青年最澄さんは、今の私からみると、大きな夢を抱く純粋無垢な青さが、この時点ではあります。

この時代は仏教が精神の学舎で、どのくらいの人々がどの程度の真理を悟ったのか知りませんが、、、

青年最澄さん、悟りに悦びは特に無いよ。

最初の願文の名文のように、悟り後もずっと、「純ら苦して安きことは無い」の、永劫回帰。“平穏ー苦ー平穏ー苦”の順繰り。

人間は苦をもってして人間と呼ぶのでは。と悟ったばかり。

人々は解脱より、真理を悟るより、欲望を掲げて満たす喜びにしか興味は無いよ。
でも、その欲望を満たそうと、皆必死で生きている。

私はそんな今世の人々に興味がなくなってしまったよ。そんな人々を思うと辛くなって来たんだ。

私も人々とともに解脱の悦びを味わいたいよ。

最澄さん。。






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