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3章:障害者の自分棚卸し

今章の目的は、もっと稼ぎたい障害者の方が客観的に自分を棚卸し出来るようにする事である。
とはいえ内容は健常者の方にも共通すると思うので、立場に囚われず自分のペースで読んでみてほしい。
まず、大前提として、自分の棚卸しは目的ベースで行わない事が重要になる。そこには大きな落とし穴が待ち構えているからだ。仮に、漫画家になりたいと思い自分を棚卸しした男の子のケースを考えてみよう。男の子は重い足取りで、肩を落としてぼく達に相談してきた。

「漫画家になるには、誰もが感動する空想を描く構想力と、誰もが息を呑む魅力ある絵を描く能力が必要だと思うんだ。だけど、僕はそのどちらも出来ない。自分の中に漫画家になるために役立ちそうなものが見つからないんだ。だから自分棚卸しの結果、資産は0だと分かった。悔しいけど、漫画家は諦めようと思う」

……なんとも残念で、単調な話ではないだろうか。確かに彼は空想が苦手だし、今現在魅力のある絵を描く事はできない。けれど彼は、生身で三頭のドラゴンを討伐し、常識が全く通用しない世界を大冒険した経験を持っている。その経験をそのまま描けば、空想なんかなくとも万人が引き込まれるだろう。絵だってこれから練習すればどれだけでも伸びるかもしれないのに……
まさにこれが、目的ベースの自分棚卸しに潜む落とし穴だ。

今しか見えなくなる

・最もメジャーな道しか見えなくなる

この二つの落とし穴に嵌まってしまった彼はいつの間にか視野狭窄に陥り、「今、単独の能力で、全員に認められる方法で」漫画家になろうとして自分の棚卸しに失敗し、諦める必要のない夢を諦めてしまった。なんとも勿体ない。では、より客観的に自分の資産を棚卸しするためにはどうすればいいのだろうか?

一考するに、ポイントは三つある。「幅を広く、繋げて、時間を広く」見積もる事だ。

まず、幅を広くという観点に着目してみよう。これは、自分の能力や経験をモレなく棚卸しするための作業だ。実行は簡単で、最もあいまいな書き方からスタートするだけでいい。以下に例を示す。

ぼくにできる事

・手が動く

・足が動く

拍子抜けするかもしれないが、モレなく書き出すためには必須の行動だ。とにかく体の機能について、出来る事をすべて書き出してみてほしい。レベルや程度は一切気にする必要はない。一ミリでも動けばそれは動いているのだ。

……どのくらいあっただろうか。ともかく、これでぼく達の体にできる最もあいまいな事は全て書き記せた事になる。次のステップへ進む時だろう。

次は「繋げる」段階だ。

これも難しい事ではなく、あいまいなものを具体に落とし込むだけだ。同様に例を示す。

ぼくにできる事

・手が動く──鉛筆が握れる──線が引ける

・足が動く──ボールが蹴れる──シュートができる

なんとなく理解して頂けただろうか。あいまいな部分から線を引き、具体的な行動へとつなげる。はじまりが最もあいまいであるから、そこから広がる具体的な行動は無数に増えていくはずだ。兎に角あげられるだけ書いてみて、疲れたらやめても構わない。出来上がったそのリストで、普段は何もできないと思いがちなぼく達ができる事の多さをまず実感してみてほしい。

ここまで終わったらいよいよラスト。「時間を広く」見積もる段階は最も希望にあふれていて、ワクワクするものだ。是非、色んなものを膨らませながらトライしてみてほしい。上と同じように例を示す。

ぼくができる事

・手が動く===漫画家になれる

・足が動く===漫画家になれる

……いくらなんでも滅茶苦茶だと思っただろうか。手が動くだけで漫画家になれるなら苦労はしない、足なんて尚の事、まさにその通り。だがここで着目してほしいのは線の形が違う点だ。これは今までの線と異なり、時間の流れを表している。現時点で僕は漫画家ではないが、僕は手が動くので、もしかしたらいつかの未来に漫画家になれるかもしれないという可能性を示す線だ。線は足でも引けるので、足が動くだけでも世界初の足で描く漫画家になれる可能性は存在するだろう。ここで気付いてほしいのは、最初に挙げた最もあいまいなリストの殆どが、ぼく達が描く夢に繋げられるという点だ。つまり、目標に直接繋がる現実を見つけようとするのではなく、今の現実から未来の目標へと線を伸ばす。こうする事で、あらゆる能力・経験が夢へと繋がる貴重な資産として生まれ変わる。これが自分棚卸しのコツだと、僕は思う。
最後にもう一度、同じことを言おう。障害があろうとなかろうと僕たちには未来があり、生きている限り動く体の部位がある。ぼく達が知っておくべきなのは、自分にできない事の数でも役に立つモノの数でもなく、「ぼく達ができるあらゆる事から繋がる未来」ではないだろうか。

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