2018/08/11 反応

7:57

先週の土曜日が、一番底だった。
それからもう1週間が経つ。
着実に時は進んで行く。

庭では、日中の酷暑を考慮して早朝7時過ぎからウッドデッキの修繕が進行中だ。ウッドデッキ職人で、大家さんで、今では良き友人、いや、もはや母のような存在のSさんに、ここ数日の亮くんの状態を報告する。「『一山越えた』のLineに涙が出た」と言うSさんの心配が、表情から声音から、全身から伝わってくる。

夕方の面会

ビッケを連れて、チカさんと車で病院へ向かう。
道中、晴れているのにゲリラ豪雨に遭う。ハンドルに体を引き寄せて、なかなか緊張感のあるドライブだ。

面会中、チカさんは一階のドトールで待っていてくれた。ICUの面会に、家族以外は入れない。

ICUに入ると、しばらくは人工透析交換中だった。
体温は38度6分。二日前は70%で「目指せ60%」と言っていた酸素濃度は、50%になっている。

執刀医W先生は泊まりで今朝帰宅したとのことで、当直の先生が代わりに説明をしてくれる。質問はしづらかったので、聞いたことのみをメモ。

  • 昨夜鎮静剤を止めた。透析をしているから、腎臓から鎮静剤が抜けるのに普通より時間がかかる

  • 透析で水抜ける →(内臓などの)むくみがもう少し取れる → 呼吸良くなる → 意識が戻る → 人工呼吸外す、の順番。
    意識が覚めていない段階で人工呼吸を抜くのは危険(痰が喉に詰まるなど)。なので、今は目覚め待ち

  • 肺炎:レントゲンの結果は良くなっているし、採血も良くなっている

  • 寝返り:ずっと仰向けだと肺の背中部分が潰れる、体重もあるし

床ずれ防止の枕が左半身下に敷かれていて、亮くんの体は、私がいる方とは逆の方向を向いていた。

背中越しに、上になった左腕を触ると、すぐに反応がある。

嬉々として、額を撫でながら声をかける。

亮くん、良く頑張ったね、頑張ろうね、私は側にいるよ、ずっと側にいる。大丈夫だから、すぐ良くなるから頑張ろうね、良く頑張ってるね。
愛してるよ。ここにいるよ。

亮くんは、一生懸命に、目を開こうとしている。
声のするほうに、一生懸命に頭を向けようとしている。

私の声が、届いている。
亮くんの、意思を感じる。

初めての出来事に、胸が一杯になった。

左手で亮くんの左手を握り、右手で亮くんの額や耳元、側頭部を撫でた。すると、左手にくっと反応がきた。

しかも、2回も。

驚いて、嬉しすぎて、飛び立っちゃうんじゃないかと思った。

胸が、目頭が、熱くなっていく。

看護師さんの「口を開けて」という指示に応えて口を開いたこと、目も開けることがあったことを、先生が教えてくれる。

亮くんの意識が戻りかけている。

次の面会時間には、目を覚ますかもしれない。意識が戻っているかもしれない。できれば毎日、午前午後両方の面会時間に、会いに来よう。

目が覚めて、自分の置かれている状況に気づいたら…、ものすごく不安になるんじゃないだろうか。
面会時間はたったの45分、お昼前と夕方の二回だけ。その時間だけでも、できるだけ側にいたい。明日も午前中から面会に来よう。

もう一度私を、その目で捉えて欲しい。見つめ合いたい。手を握り返して欲しい。声が聞きたい。
やっぱり、もう一度恋をしているようだ。

24:04

面会を終え、ドトールで待ってくれていたチカさんに、「反応があった、意識が戻りかけている」と涙ながらに様子を伝える。いっぱいに喜んでくれて、その表情や声色から、チカさんだけでなく、チカさんのご両親が本当に心配してくれていることが伝わって来ていた。

成田の駅に、チカさんを送る。車から降りて、ハグをする。側にいてくれて、飛んできてくれて、本当にありがとう。この温もり、感触、エネルギー、その存在に、どれほど支えられているだろう。「来て良かった」。チカさんの言葉に、私は言葉を見つけることができない。

長野で待つご両親にも、良いニュースを持って帰ってもらうことができて本当に良かった。
落ち着いたら、亮くんが退院したら、お世話になった人々にしっかり恩返しをしよう。

大切なひとに何かがあったとき、チカさんのように、すぐに駆けつけることができて、必要なサポートができるような人になりたい。

経済的に自由になる。
大切な人たちに何かがあった時に、心からのサポートを惜しみなくできるように。自分に何かがあった時にも、自分で対処できるように。

時間的に自由になる。
大切な人たちに何かがあった時に、すぐに体を動かせて、側にいることができたり、必要なことのために動けるように。

「反応があった」「もうすぐ意識が戻るかもしれない」。
このニュースに、両親も叔母も、JosephやAlvin、みんなが喜んでくれている。

ひとりで生きているのではまったく無い。

生かされているのだと、自然に思った。

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