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2018/08/21 ケイビイカンが抜けた

8:12

6時に目が覚める。

昨夜の散々泣いた余波か、体が動かない。ベッドから出るまでに1時間かかり、やっとのことで散歩へ出る。

道中に何度も、ビッケが「これ以上進みません」になる。手も足も踏ん張って、強い意志で私を見上げ、動かない。「行くよ」。最終的にはリードを強く引っ張る。6kgないビッケがその力に負け、歩き始める。そのうちにまた、歩みを止める。

イライラが募っていく。
そして、ふと思った。

亮くんは、昔からあんなに呑んだり食べたりする人だったのだろうか。

…もしかして…、
私がストレスを与えていたからなんじゃないだろうか。

落ちに落ちた気分で帰宅する。カウチに横になる。その横で、ビッケが興奮した様子で騒いでいる。おもちゃに激しくアタックし、その勢いのまま、私の体を駆け上がった。

一気に何かが切れて、ビッケを軽く足蹴にした。

なんて酷いんだ。
自己嫌悪がピークになり、泣けてくる。泣く。

まずい。
どうしよう、どうしよう。
仕事もしないといけないのに。なんて苦しいんだ。

これは修行なんじゃないか。

今日は午後イチに打ち合わせがある。
…良かった。
そう、こんなに沈み込んでいる場合ではないのだ。

9:48

病院の医療福祉相談室に電話をかけてみる。

療養時、患者やその家族には、金銭的なことから精神的なことまで、様々な困りごとが次から次へとやってくる。そんな時に、社会福祉士や精神保健福祉士といった専門の方に相談できるのが医療福祉相談室だ。ICUの看護師さんや事務の方が言っていた「困ったことがあったらいつでも相談してみると良いですよ」を、このタイミングで思い出したのだ。

電話口のAさんが親身にアドバイスをくれる。

意識レベルが良いのであれば、「トイレはおむつにして」と言う。本人がストレスに感じているのであれば、まずはその思いを受け止め、その上で精神科の先生に診てもらうことも検討する。

意識レベルが悪いのであれば、流して聞いたり、「動けないからね」、と言う。そして、席を外してみる。面会の時間を短くする。

どんな声掛けをしたら良いのか、せん妄が専門の看護師さんに聞いた上で折返しの電話をもらえることになった。

せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。
MSDマニュアル家庭版「せん妄」

それにしても、この一ヶ月、気が抜けるタイミングが全くやってこない。

23:30

お昼頃に、医療相談室から折り返しの電話があった。

「ケイビイカンが抜けましたよ」と。

それなんぞ、と思ったら、「経鼻胃管」だった。
そうか。昨夜の面会で、W先生が「なぜ食事をしているのにまだ鼻に管が入っているのか」と指摘していたな。

「経鼻胃管が抜けたので、下しているという問題自体が解決するのでは」
そう相談員さんが続ける。

目が覚めてから(その前から?)ずっと下している。考えられる原因が、この経鼻胃管を通して直接胃に入れていた栄養だった。

これが解決すると、本当に大きい。亮くんにとって、そして、私にとって。丁重にお礼を伝えて、安堵の中電話を切った。

15時半からの打ち合わせに備え、カツ丼を食べる。カツ丼。「元気になったなぁ」と、しみじみする。食べながら、サラメシを観る。サラメシを観ながらご飯を食べるのが、なんだか好きなのだ。

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19時前に亮くんのご両親から電話がある。亮くんに代わってくれる。電話口で声が聞けるなんて…。ICUで、横たわって目を覚まさない亮くんに、目を覚ましてほしい、声が聞きたい、と、心の中で叫びながらひたすらに泣いていた、ついこの前のことを思い出す。ローラーコースターのような日々。今はこうして、電話越しに声が聞ける。電話を切って、目を閉じる。その尊さが、呼吸とともに体中を巡る。

ちえちゃんが夕ご飯を持って来てくれる。お寿司、ゴーヤの美味しい炒めもの、梨。23時くらいまで良く話した。私や亮くんのことを心配し気にかけてくれて、ごはんを作ったり、仕事の帰り道にわざわざ途中下車してお寿司などを買って来てくれる。
亮くんが落ち着いたら、ちえちゃんをもてなす会をしよう。

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