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【日本語訳】RIVER' ロングインタビュー《前編》

この記事は、2024年7月に "KUDOS AM/PM" より公開された、ビートボクサー RIVER' へのインタビューの日本語訳です。約1時間に渡るロングインタビューなので、前後編に分けました。この記事は前編です。

2024年7月に来日中だった RIVER' にこのインタビューを日本語訳したことを伝えたところ、「ナイス! 多くの人に読んでもらえたらうれしい」とのことでしたので、ぜひ読んでくださいね。

(インタビュー映像はこちらから ↓ )

この日本語訳についての注記は要らないという方は、目次より下から読み始めてください。

注記:

  1.  この記事は、ざっくりとした日本語訳であり、正確性を保証するものではありません。

  2. 元はツイッター(X)のツリーに訳を書き込んでいったものです(https://x.com/miwa_bbx/status/1813367685532819877)。140字に収まるよう文字数を調整した部分等もあります。今回 note にまとめ直すに当たり、大きく内容を修正はしていません。

  3.  本文中に、適宜動画の分数を付してあります。

  4.  見出しは読みやすさのために付したものであり、インタビューには含まれていません。


RIVER' ロングインタビュー《前編》


RIVER' という人物

John Kudosさん(以下 J ): KUDOS AM PMポッドキャストへようこそ! このチャンネルは、デザインが与えられる影響やデザインの未来について話しています。今日はスペシャルゲストが。いきさつを話すと長くなるけど、、、Enzo Fumex a.k.a. RIVER'! エンゾ、君のことを知らない人に自己紹介してもらえる?

R: はい。今日は呼んでくれてありがとう。名前はエンゾ・フューメックス、RIVER'っていう名前でも活動してる。声を使うミュージシャンで、ビートボクサーです。歌も歌うし、プロデュースもする。
最近ビートボックスの世界チャンピオンになりました。(1:27) GBBっていう世界でいちばん大きい大会で優勝したんです。ワールドチャンピオンシップっていくつかあるけど、そのうち最も大きい2つのうちの1つがGBB。2023年10月の東京大会だった。バトル歴は7年で、全部で94回バトルしてる。

J: すごい!

R: 僕は統計好きなんだけど、勝率は82%ってところ。

J: (2:16) ビートボックスが野球みたいだなんて知らなかった。アメリカ人はみんな野球好きをからかわれてるけど、ビートボックスにも勝率計算があるんだね

R: みんながどんな風か知りたいんだよ。僕はビートボックスオタクだからね。

J: (2:40) ところで、君はミュージシャンということでいいのかな?

R: はい。うーん、違うな、僕はビートボクサーです。自分はビートボクサーだっていうことを否定できない。ラッパーでも「俺はアーティストだ」っていう人いるけど「いやいやラッパーだろ」ってなるよね。でもこの2つは両立しないわけじゃないけどね。
でもそういう意味では僕はビートボクサーで、100%ビートボックス界の人間。僕のテクニックやアートと呼べるものはビートボックスのそれ。それにさまざまな音楽の要素を取り入れて可能性を追求していきたいんだ。ミックスやプロデュースも含め、ビートボックスが自分を表現するためのいちばん大きな要素になってる。だから「僕はミュージシャンです」とも言うけれど、やっぱりビートボクサーでありバトラーなんです。

RIVER' にとっての “バトル”

J: (3:55) 自分を「バトラー」って呼ぶの、いいね。すごく落ち着いていて物静かなのに、自分のことを「バトラー」って言うんだね。

R: (4:15) うーん、実はもうソロバトルには出る気はないんだ。他のカテゴリもかもしれないけど、それはメインじゃなくて。
なぜかというと、知ってる人も知らない人もいるだろうけど、バトルはものすごく大変なんだ。たとえばワールドチャンピオンシップの時は、1日4~8時間練習した。1年ぐらい。(4:50) 体のメンテナンスも重要で、毎朝有酸素運動をして、モーニングルーティンをこなしてた。

J: 強い肺が必要だからだね

R: そう。自分の思うように動けないといけないし。だから暑い部屋で有酸素運動をして、それからパフォーマンスの練習をするんだ。バトルってそういうものだからね。(5:22) ものすごい努力が必要だよ。でも1分半のバトルで曲の構成とか、基準を満たして、自分が最強のビートボクサーだということを見せなきゃいけない。
ある一定のところまでは、それがとても楽しかったんだ。自分自身に挑戦するのが。テクニックとか、超絶技巧で自分がどこまで行けるか知りたかった。自分が最強のビートボクサーだということを見せつけなきゃいけないから。

J: ドラムの音なしで。

R: そう。もっといろんな可能性があると思うんだ、ビジュアル的な技術も含めて。
バトルは素晴らしいよ、でも今は別のことに挑戦したいんだ。(6:34) 新しいことを開拓していく。それが今自分のいる位置だと思ってます。バトルに後悔はないけれど。

ビートボックスはニッチなユニバーサルランゲージ

J: じゃあこれまで90回以上のバトルをしてきて、えーと、なんだっけ、何BB?

R: GBB。最初はスイスで開かれて、次に2回ポーランド、その後は初めて東京で開催された。(7:05) 

J: 僕はそこまでビートボックスに詳しくなくて。妻は大のビートボックスファンだから、そこから色々聞いて驚いたよ、ビートボックスにはこんなに大きなコミュニティがあるなんて。

R: そう、ビートボクサーは増えていて、ビートボックス界も進歩していると思う。(7:29) ビートボックスは、とってもニッチなんだ。国にもよるけど。日本のコミュニティはすごく大きい。インドネシアも。

J: インドネシア? 僕の国だ!

R: そう聞いたよ。たくさんのクレイジーなビートボクサーやファンがいる。だから、とてもニッチだけど、言葉の壁がないからいいんだ。
(7:58) たとえばヒップホップとか、ラッパーだったら、フランスで超有名でもアメリカでは全然知られない。言葉の壁があるからね。ビートボックスは、それ自体がユニバーサル・ランゲージだ。だからニッチだけど、多くの国の人とつながることができる。
(8:30) だから僕らには、数は多くないけど全世界にファンがいて、それがとてもおもしろいと思う。普通のアーティストは、まず自国で知られるようになって、次に外国、たぶん言葉の通じる国から。でも、僕は東京とNYで演奏したことあるけど、自分の街ではやったことないんだ。(9:08) 僕は自分の街より東京での方が知られてる。

J: ビートボックスはサブカルチャーだからかな

R:そうだね

J: ところで、君はどこ出身なの?

R: フランスです。半分フランス人で、半分はコロンビア。でもフランスで育ちました。Annecy っていうフランスアルプスの麓の街に住んでいます。(9:35) そこではビートボックスイベントなんてないから、僕はいつもフランス中、そしてヨーロッパ、今は幸運にも世界中を旅してる。いろいろな所に行けてラッキーだ。……で、何の話だっけ

J: えーと、君が「自分の街ではプレイしたことがない」って言うから出身地を聞いたんだ。とても珍しいことだよね。

R: (10:09) そうだった。オープンマイクぐらいはしたことあったかな。あ、違う、Rogue Waveとしては演ったことがある。Rogue Waveっていうのは僕のタッグチームで、相方はColapsっていう。Colapsは、僕の前の年にGBBで優勝しているんだ。決勝は僕と。

J: タッグチーム同士で戦ったんだ。

R: (10:42) そう、ソロの決勝も、タッグチームの決勝もRogue Waveだったよ。しかも2人ともコロンビア系フランス人。

J: すごいね、コロンビア系フランス人がキてるのかな

R: ものすごくクレイジーな偶然だね。そしてColapsは本当に素晴らしい、最高のビートボクサーなんだ。(11:05) だからColapsと僕の街で演奏する機会があってうれしかったし、今でも最高のギグだったと言える。でもソロでは、いろんなプロジェクトもやってきたけど、他の所で。とてもおもしろいね。

ビートボックスというアート

J: 言葉の壁がないって言ってたけど、音楽やアートもそうで、それそのものが言語だっていうことなんだよね。(11:40) それそのものが、人と人を結びつける。アートの場合はまず作者がそれを作って、それに対して人々が様々な感情を持つ。
音楽はもっと柔軟だね。アーティストは作品に「これが私」「これが自分の視点」というものを込める傾向にある。でもミュージシャンの交流のしかたはもっとダイナミックだ。(12:10) 音楽の方が、もっとコラボレーションが必要だからかな。君たちのようにデュオをやったり、5人組のビートボクサーもいたりするでしょう? それがとてもおもしろいね。
やっぱり君も、音楽が人を結びつけるものだと思う?

R: もちろん。でも、あなたはビジュアルアートと音楽は違うと思うの?

J: (12:38) そうだなあ、僕はデザイナーであってアーティストじゃないから。彫刻を掘ったりとかはしない。でも両方やるかな。自分のやりたいプロジェクトをやることもあるけど、チームで動くことも多い。他のデザイナーやグラフィックデザイナー、ソフトウェアのディベロッパーとも仕事をするし、(13:04) 多くの人と1つのものを作り上げる努力をする。

R: 映画なんかもそうですね。いろんな技術を持った人たちが力を合わせる。

J: そう、一人で全部はできないからね。オーケストラの指揮者みたいな人が要る。これが全体のビジョン、語りたいストーリはこれ、と示すみたいな。(13:30) 音楽の場合はどうなの? 君はどうしてる? Colapsとやる時は?

R: そうだな、僕とColapsの場合は、Colapsはパリの郊外に住んでいて、会うのに4時間かかる。だからまずはどうするか、しっかり計画を立てなきゃいけない。正直言って、パートナーが遠くに住んでるというのはかなり大変なんだ。(14:12) 同じ町に住んでるビートボクサーの人達もいる。でも、もしかしたら僕たちより会ってる時間は短いかもしれないね。
2ヶ月に1回は会わなきゃいけないけど、会う時には1週間ぐらい一緒にいて、そんなに出かけたりもしない。散歩ぐらいは行くけどね。(14:40) でも、時間が限られていることがわかっているから、すごく集中するよ。これとこれとこれをやらなきゃいけなくて、時間はこれだけだから、OK、やろう! という感じ。そうやって作り上げていくんだ。
(15:02) Colapsとは、バトルのトレーニングの仕方は違うけど、GBBの前には月に1度は会ってた。普段はそれぞれの目標に向けて練習して、疲れるとテレビゲームをしたり、一緒に音楽を聴いたりしたよ。何時間も、その音楽の感想や得たものを話し合うんだ。すごくインスパイアされる。
(15:38) コンサートに行ったりもするよ、パリには多くのアートシーンがあって、カルチャーが充実してるから。一緒に旅行にも行って、そういういろんなところから沢山刺激を受けているよ。そうやって2人で音楽を作っている。

J: (15:56) 厳しい鍛錬を積むんだね。音楽家ってみんなそうなのかな、バイオリニストやチェリストも知っているけど、みんな本当によく練習する! でもステージ上では、たった3分。でもそのために何ヶ月も練習してきているんでしょう?

R: そうだね、たとえばテレビゲームだったら、ラスボスを倒すのに正確にひとつの動きができないといけないでしょう? ステージ上では、そのピンポイントの動きを大勢の観客の前で成功させないといけない。そういう感じかな。

J: 全てのビートを正確に刻まないといけないよね。

R: そう。失敗は許されない。ドラマーだったら常にしっかりテンポをキープしなきゃいけないしギタリストなら間違ったコードを弾いてはいけない。そういう所がミュージシャンはとても大変だと思うし、ビートボックスも同じ。一定のレベルにまでいく人だけじゃなく、みんなそう、そこに敬意を払いたい。

ビートボックスはバイオリン!?

R: (17:50) ビートボックスは、バイオリンみたいなものなんだ。バイオリンは、そうだな、ちゃんとした音が鳴るまでに何年もかかるでしょう。わかるかな。

J: バイオリンは完璧な音程を取るのが大変だよね。

R: そうそう。練習する度ひどい音で。
でも、ビートボックスの場合は更に、社会的に認知されていない。(18:21) ビートボックスを始めた人はみんな、家族や友達から「何やってるんだ」「何その変な音」と言われるのに耐えなきゃいけない。実際変な音がするからね。上手になるまでに沢山のステップを踏まなきゃいけない。

J: その「変な音」っていうのやってくれる?

R: そうだな、たとえばリップロールとか。 

J: (18:48) リップロールって?

R: こういう音だよ。<ビートボックス> 唇を片側だけ震わせて、息を吸い込むんだ。バリエーションも沢山ある。

J: 息を吐いてるんじゃないの?

R: インワードだよ。この時は<ビートボックス>吐くけど、こっちの音<ビートボックス>は、吸う音なんだ。こうやって振動させて、(19:16) こう<ビートボックス>これですごくパワフルなベースが出せる。でも、この音が出せるようになるために、僕はこんな感じの音<ビートボックス>を、3ヶ月も出してたよ。

J: 僕の10歳の息子ががんばって出してる音みたいだ。

R: そう! まさにそれ。それで当たり前なんだ。
(19:41) そして最悪なのが、この変な音がいつ終わるかわからないということ。1ヶ月かもしれないし2ヶ月かもしれない、半年かかるかもしれない。ビートボックスは誰でもできるけど、一人ひとり違う顔、違う口、違う顎だから。

J: 口の中から音を出すんだよね。じゃあ口や喉の形が違えば変わってしまうね。

R: (20:06) その通り。だからとても難しくて、ビートボックスの音がどうやって出されているのか、解剖学的にも研究されているけど、まだ新しい分野で全然十分ではないね。
だから他のビートボクサーから習おうとしても、「舌をこうして、こう」と言われても、とても曖昧で、結局自分で推測しないといけない。(20:38) 

J: 教科書通りにはいかないってわけだね

レジェンドでさえ

R: そうなんだ。ある人にとっては簡単な音でも他の人にはそうじゃないこともある。だから、キャリアもあって、バトルの強い “レジェンド” と呼ばれるようなビートボクサーでさえ、出せない音があったりもするんだ。
(21:06) たとえば Reeps One なんて、ハーバードのレジデントアーティストで、ビートボックスと AI やビジュアルアートの研究をしているようなすごい人だけど。
これはKスネアっていう音なんだけど<ビートボックス>、ビートボックスをしながら息が吸える。

J: 息継ぎが要らないってことだね。

(21:49) R: そう。Kスネアを発明したのは Kenny Muhammad というアメリカのビートボクサーで、これをやると<ビートボックス>こんなビートを一生続けられる。ビートを打ちながら吸ったり吐いたりできるから。
これがすごく使える基本的な音なんだけど、Reeps Oneが長らくできなかった音なんだ。(22:18) でも、だからこそ、この音なしでやるにはどうしたらいいのか考えて、新しい音を開発し、テクニックを磨いたんだ。それらの音が、今では彼の代表的な音として知られていて、Reepsを特徴づけている。

J: それが彼をオンリーワンにしているんだね。

R: そう、限界があって、それを突破したからこそ

J: (22:52) そんなドラマがあるなんて知らなかったよ。自分が自分であるための発見やイノベーションが。

R: そう、そして今でも新しい音やテクニックが作られている。なんというか、テクニックの話ももっと深く掘り下げられる。
テクニックについても詳しく見ていくと、自身もビートボクサーで、高い技術を持つ人はよくわかると思う。これはどのアート分野でも同じだね。例えばフランシス・コッポラが映画を見る時、カメラワークや他の映画からの引用などが、僕たちが見るより遥かによく見えているだろう。自分とコッポラを比べるのも恥ずかしいけど

J: そんなことないよ。言ってることはわかるけど(24:07) コッポラは“クラシック”だからね。

R: ビートボクサーの中には、ものすごい超絶技巧で速いビートを打つ人もいる。すごいテクニックだ。とても印象的なものは、動画をゆっくり再生して何をやっているのか推測することもある。
(24:35) 今のシーンはとても豊かだと思う。ビートボックス人口が増えてきて、リアクション動画を撮る人、それを見る人も多い。中には表面的なものもあるけど、ビートボックスのテクニックはとても深くて、分析していくのがとてもおもしろいんだ。

後編はこちら


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