タリン・サイモン 『The Innocents』
PHOTO BOOK REVIEW 12:
Taryn Simon
“The Innocents”
2003年
Umbrage Editions、NY
Foreword by Peter Neufeld and Barry Sheck
Published by Umbrage about
今回は、アメリカを代表する現代作家、タリン・サイモンが、2003年に発刊した第1作の写真集『The Innocents(無実の人々)』を取り上げたいと思います。本作は、警察が捜査の際に写真の乱用をしたこと、目撃者や事件関係者の視覚的記憶の曖昧さが引き金になり、犯してない罪のため投獄された人々46名のポートレイトを収めた写真集となります。撮影現場は、犯罪にちなんだ現場(アリバイや、逮捕などの現場も含む)が選ばれ、野球場、小さな掘建小屋、酒場や、茂みに中などさまざまです。おそらく、犯してもない罪に問われた人々は、この撮影に臨んだ際に辛く、複雑な思いを抱いたのでないかと容易に想像することができます。
アメリカの北東部、ニューイングランドにある名門大学、Brown univeristyで記号論を学んだサイモンは、写真をアーカイブとして扱い、分類学的なアプローチで撮影する手法をとることで知られ、2024年2月現在までに、12冊の本を制作しています。しかし、2000年の初期に制作された本作はカタログ帳のように写真を撮ることはなく、90年後半に流行った、ジェフ・ウォールや、フィリップ=ロルカ・ディコルシアやグレゴリー・グレゴリー・クリュードソンの作品の流れに沿ってか、一見テレビドラマや、映画の映像の一コマを思い出すような構図とライティングを駆使し、被写体へのサイモンの感情的な表現が見受けられず、ドライな視線が特徴的です。
本作を手がけるようになった経緯は、2000年にニューヨーク・タイムズ紙の取材で無実の罪に問われ牢獄された人を取材したことに端を発します。フランクや、フリードランダーなど大御所の写真家が大作を制作する際に取る手段と同じように、「グッゲンハイム奨学金」を授かり、本作を完成しました。本の出版に合わせ、モマPS1やシカゴの現代写真美術館や、所属ギャラリーであるガゴシアン・ギャラリーでも展示会を開催しました。
無実の罪で問われた人が、牢獄から出れ撮影に臨めた背景には、DNA鑑定で犯罪とは関係ないことが科学的に証明されたからですが、そもそも、投獄されてしまったのは、警察が捜査している際に徴収した目撃者の証言や視覚的記憶、そして資料室にある前科者の写真などが元になっています。本作は、まさに、サイモンが、写真という媒体の虚構性とリアリティー、また人の意図や、感情が入り混ざった視覚的記憶の不確かさを検証し、さらにアメリカの司法へも牙を向けた野心作であったと言えるでしょう。
著者のかなりの意訳となりますが、サイモンの本作に向けて寄せられた言葉を以下に記させていただきます。
現実と虚構を曖昧にしてしまうことが写真の特性の一つであると思います。刑事司法制度で使用される写真に限らず、さまざまな場面において、写真が元となり、人が創造した物語なのに、現実のものとして取り扱われてしまうことがあります。無関係な人からしたら美しかったりする写真でも、上述した写真の持つ曖昧さのために、当事者にとっては残酷な道具として機能する可能性のあることを、このプロジェクトを通じ改めて学びことができました。
”Photography's ability to blur truth and fiction is one if its most compelling qualities... Photographs in the criminal justice system, and elsewhere, can turn fiction into fact. As I got to know the men and women in this book, I saw that photography's ambiguity, beautiful in one context, can be devastating in another."
以下の写真はサイモンのサイトより引用させていただきました。
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