ウケないギャグは、なぜウケないのか

お笑い芸人の中で笑いの起因である「図式のズレ」や「優越理論」を意識している者はほとんどいないだろうが、知らなくてもやっている人はいくらでもいる。
ただその中でもウケる人とウケない人がいるのだろうか。
図式のズレが笑いになるなら、とにかく常識外れなことをやればウケ、優越理論が正しければとにかくバカなことをやっていればウケるはずだ。
どんなにおバカなことをしてもウケなくなってしまう理由を素人なりに考察してみた。

※図式とは常識や固定観念のことでそれからズレたことをすることで笑いが起こるとされている。

ウケない理由①:経済学者が考える「四段階説」

経済学者の中島隆信氏が言うには、笑いに至るまでには以下の四段階のステップをクリアしなければならないとしている。

○第1ステップ:不自然さを認知すること

○第2ステップ:不自然さをもたらす主体に親しみを持っていること

○第3ステップ:不自然さに対する非該当者性があること

○第4ステップ:不自然さから心が解放できること

ウケない理由②:不快さが勝ってしまっている・倫理観に反している

例えば、出川哲朗氏は今や人気者ではあるがデビュー当時は嫌われものだった。それは本人が痛い目にあったり、時には裸になったり鼻水を垂らしたりしながら面白い反応を見せるというリアクション芸が受け入れられなかったからである。
バカなことをして少し痛い目を見る程度なら優越理論に当てはまり笑いが起きますが、度を過ぎた悲痛さは「かわいそう」という感情が沸き起こり、不快さの方が勝ってしまうのではないだろうか。
特に女性は不潔さや不健康さというものに敏感で、鼻水を垂らしたり弛んだ不健康な男性の裸に不快感を感じやすいので、女性からの人気がなかったようだ。

現在は人気の芸人である出川哲朗氏だが、受け入れられた背景を「継続したこと」語っている。
それは見る側の倫理観が塗り替わったのか、もしくは本人が痛い目にあったのにも関わらずこれは芸人として欲していることだと公言し始めたために悲痛さが軽減したからとも考えられる。
ただそもそも最近は規制も厳しくテレビ自体があまり過激なこともやらなくなったこともあり、バカなことをして少し痛い目を見る程度に収まっているからとも言える。

ウケない理由③:ズレさせる図式の準備ができてない

相手を笑わせる、つまり図式のズレを起こさせるには事前にズレさせる図式を意識させておく必要があり、また、バカさを笑いにしたいなら誰がバカなことをする対象なのか意識させておく必要があると思われる。

例えば、
何かギャグを披露する場で「布団が吹っ飛んだー!」というダジャレを叫んだ場合と、
実際に布団を干してる最中に大きな風が吹いて布団が飛ばされてしまったときに「布団が吹っ飛んだー!」と叫んだ場合、どちらが面白いだろうか。
このギャグ自体そこまで面白くないにしても、どちらかを選ぶなら後者であろう。
これは聞く側が布団が飛ばされたという現在の状況がある状態で、その図式をズラすギャグを披露したことで笑いが起きるのであろう。

現在わかっている感情の仕組みとして、感情(Feel)はその前に基となる情動(Emotion)が先に沸き起こり、そこから更に細分化されたその時の状況・生理的状態に適応する感情が選ばれるようになっている。
つまり、呼び出す感情の判断材料である「現在の状況」と「視覚や聴覚による笑い刺激」が結びつかなければ、「これは笑うべき状況だ」と判断できず、苦笑に終わってしまうわけである。

とはいえ、これはそんなに特別なことでもなく、コントやしゃべくり漫才などのように、あるテーマ・状況を語りその図式に合ったズレを選べばいいのだから、大抵の芸人がやっていることだ。

ウケない理由④:図式から外れている

図式がズレると笑いが起きるが外れてしまうと笑いは起きない。
例えば、「布団が吹っ飛んだ」というギャグは布団が飛んでいくという状況がありえるから面白いと思えるが、「布団が太った」だったらどうだろう。一応言葉としては同じようなダジャレの様式にはなっているが、意味不明で想像ができない。
ある程度関連性がある、状況を想像できる範囲での不自然さが図式がズレるとするなら、その範囲から飛び出した内容は図式から「外れた」と表現することができる。外れたものというのは不自然さというより「関係ないもの」という認識になってしまうので可笑しみがなくなってしまうのだろう。


ウケない理由⑤:その図式を知らない

図式とはその人がもっている知識によるものであり、ある人は知っているがまたある人は知らないということは当然ありえる。

例えば、女性芸人がアパレルショップの店員のものまねをしたところで、馴染みの薄い男性にはいまいち笑えない。
または、「布団が吹っ飛んだ」というギャグを布団がない文化圏の人に披露したところで、やはり訳が分からないという反応になるだけだ。

いくら面白いと思えるユーモアを思いついたとしても、相手が同じ知識を持ち合わせていなければ図式のズレが発生しようがない。

また、これは私の感覚値でもあるが、最も笑いが大きくなるのはズラした図式にどれだけ精通しているかによると思われる。

ウケない理由⑥:慣れてしまって図式のズレじゃなくなった

図式のズレとして笑いを取っていたギャグが繰り返し見聞きすることで面白いと思えなくなることがある。これは不自然だったことが記憶との結び付きが強くなり、「普通」になってしまったためである。
一発屋芸人と呼ばれる人たちの芸は、独特な見た目やしゃべり口からわかりやすい図式のズレを起こし爆発的なヒットを見せるが、テレビの露出が大きく増えることでこの現象が起きやすい。
ただヒットしているかどうかをテレビの露出度で測るとすると、観客からの人気というより制作側の都合によるところが大きいと思われる。

ウケない理由⑦:描写不足

おバカなことをやってウケを取るギャグは分かりやすいのでひたすら繰り出すだけでいいが、オチのある話で笑わせるためには、どんな所が笑えるポイントなのかしっかり描写することが重要である。
①それはいつ、どこで、誰に、どうして、どのように起きたことなのか。
②出来事の要所要所でどのように感じたか。
③どういう状況だからそのオチが面白いのか。
④オチを予感させているか。
⑤説明ではなく描写で伝える。

まず①により最低限状況を想像するのに必要な背景は描写しなければならない。そして、その状況に感情移入するために②で感情を伝える必要がある。感情移入ができた所で、オチが面白くなるための状況を丁寧に描写する(③)。そして肝となるのが「え、どいうこと?」という疑問を盛り込むことである。これ自体が笑いの一段階でもあるのだが、聞く側は「先を知りたい」という欲求に駆られより一層話にのめり込む(④)。そして、想像により笑う準備が出来上がった所で最後にオチがきて笑いが起きる。
これらを全てを「説明」ではなく「描写」によって伝える必要がある。これを本に例えるなら「説明」とは教科書であり「描写」とは小説である。教科書を読んでも笑えないように、「これはこうだから面白いでしょ?」とい解説されても納得はできるが笑いは起きない。何故なら人は自分が体験していることもしくは伝聞により疑似体験した「状況」に対してしか感情は起きないからだ(⑤)。

ただの考察・思いつきなので参考程度に

色々書きましたがプロでもなんでもないので、信じるか信じないかはあなた次第ということで。

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