チャーハンなんか、うまくなくていい。
フライパンの上に、サラダ油をがんと注ぐ。大さじ一杯、二杯、知らねえ知らねえ。ボトルのままどくどく流し込んだら、ひねりを一気に回して強火にしてやる。パチパチカンカンにあったまったフライパンの周りから、白い煙がひょろひょろ舞い上がってきた。
卵を手に取って、雑多に割ったらそのままどぼん。バチバチ言いながら固まり始め、このまま炒り卵として醤油でも垂らせば1品完成しちゃう。その頃、冷や飯をぶち込む。適当にごった混ぜ。塩コショウをこれまたがつがつ振りかけて、また混ぜる。
このままじゃなんとも寂しいから、醤油のひと振りなんかも足してみよう。おばあちゃんが『味の素を足せば何でも美味しくなるよ』と言っていたのを思い出した。それもおみくじみたいにジャンジャン振って、馬鹿の一つ覚え、ひたすら混ぜまくる。火は相変わらず強いまま。醤油のはんなり焦げる匂いが鼻に飛び込んできて、酒でも飲むかという気にさせる。ビールを開けた。
程好い皿を探しても、一向に見つからない。だらしない同居人が、どうせきっと自室に持って行っちゃったんだろうな。布巾を机に畳んだら、その上にフライパンごとドンと置き、完成。ザ・男の飯。立派なもんだ。
ひとさじ刺して、口に運ぶ。いや、しょっぱいよ。塩分過多。こんなもん毎日食ってたら人間塩になっちゃう。内側からどんどん塩漬け、終いに火葬でベーコンだ。困ったもんです。そういえば、先ほどのビールがありました。どこだかのビアバーで出会ったぶくぶくのドイツ人は、『ショッパイモノ、スキ!ビール、アウ!』と言った。しょっぱいもの、好き。ビール、合う。うまいうまい。日本のビールはうまいうまい。僕のチャーハンはしょっぱいしょっぱい。
どんなんでも良いんである。しょっぱかろうが、甘かろうが。苦くても良い。酒を飲んで酔っ払ったが最後、味なんかどうでも良くなっちゃって、もう、塩でも味の素でも舐めてれば良いんである。僕にチャーハンを語る資格なんか一切無い。ほんとは、「あの頃、お父さんが作ってくれたべちゃべちゃのチャーハン、本当にうまかったなぁ」みたいに寂しげな文章を書こうとしていたんだけども。チャーハンなんか、うまくなくていいのだ。酒がうまけりゃ、何でも良いんであった。
頂いたお金で、酒と本を買いに行きます。ありがとうございます。