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手の行為における視覚制御:定型発達における脳のメカニズムと発達障害(Visual control of manual actions: brain mechanism in typical development and developmental disorders)

OLIVER BRADDICK

Dev Med Child Neurol. 2013 Nov;55 Suppl 4:13-8.

手を使った行為と視知覚の関係について述べたレビューですが,この文献に関しては要旨abstractよりも結論conclusionの方が簡潔にまとめられていてわかりやすかったので,そちらの日本語訳をのせます.

【結論】

視覚情報を手の行為へと変換する背側経路のネットワークは漸進的な機能的発達を示す.6-9ヶ月までに,視覚情報(立体と大小の判断)は背側経路によりリーチを導く.発達の早期においてこのリーチングのモジュールは視覚定位から独立しているが,リーチングと見る行為はやがて協調して共通の視覚運動の目標へと仕えるようになる.リーチングを誘導する背側経路は一時的なものである;成人はそれを数秒しか利用せず,その後は腹側経路による記憶に頼ることとなる.2歳までの子どもはこの代替的な記憶情報を効果的に使うことが出来ない;そのような戦略は5歳までに(成熟はしないが)利用可能となる.2歳までに,定型発達の乳児は目標物へのリーチに協調的で計画的な両手の行為を示す.しかしながら,快適な最終状態(end-state comfort)を達成するための効果的な視覚運動プランはより後になって発達する.

背側経路の障害は発達障害の広範囲で見られる特徴である.私たちはそのような障害を示す手の協調の例を早産児やウイリアムズ症候群の子どもで例証したが,それは明らかにより広範囲に及ぶものであった.リハビリテーションの戦略では,神経発達学的な障害における「運動」の問題が単なる運動システムの失敗ではなく,目標に関連する視覚空間の空間的情報の選択と専心(attend),そしてそれを適切な順序だってプランされた手の行為へと変換する,というより広範囲な失敗を表していることを認識すべきである.

【私見】

end-state comfortとは以下のようなものです.例えばコップに水を注ぐとき、コップが逆向きに置かれていた場合は手を逆さに(回内させて)コップを持ち,持ち上げた時点でコップが正立した状態になるよう予め予測して行動することです.この予測的な行為により,その後に続く水を注ぐという行為が円滑に行われます.

手を使った行為を視知覚という観点からまとめたおもしろい文献でした.とくに興味深かったのは両手動作の発達です.

写真の課題は箱の蓋を開け(片方の手)、中にあるおもちゃを取り出す(もう片方の手)ものです.定型発達児では蓋を開けると同時におもちゃを取り出す手が動き出しています(右図の上).つまり両手が同時に作業を開始しているということです.一方でDEHSIを伴う早産児では,完全に蓋が持ち上がってからおもちゃを取り出す手が動き出しています(右図の下).つまり両手の動作に順序(sequence)があるということです.これは臨床でも両手動作の質を評価する視点として使えそうな気がします.

この他にも乳児では単眼視,両眼視でリーチの質がどう変わるのか,暗闇でのリーチは発達的にどう経過するのか,といった報告は興味深く,原著を読んでみたくなりました.

最後に,背側経路の脆弱性(dorsal stream vulnerability)という言葉が最近あるようです.広い意味で発達に障害を持つ子どもは腹側経路よりも背側経路がより障害されやすいということです.確かに臨床でも背側経路に関連する視知覚障害が顕著な例は多く見られるように思います.これについても機会を見つけて提唱者のAtkinsonの文献を読んで理解を深めたいと思います.

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