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日用品の使用:ジッパーに隠されたアフォーダンスの学習(Children's use of everyday artifacts: Learning the hidden affordance of zipping)

Rachwani J, Kaplan BE, Tamis-LeMonda CS, Adolph KE. Children's use of everyday artifacts: Learning the hidden affordance of zipping. Dev Psychobiol. 2020 Oct 30. doi: 10.1002/dev.22049. Epub ahead of print. PMID: 33124685.

【要旨】

日常生活は人工物であふれていて,その使用にはデザイナーが意図した通りの運動行為が必要とされる.しかし,これまでの研究ではどうやって子どもが日用品の使用を学習していくのかが明らかとなっていない.12-60ヶ月の子ども44人にビニール製ポーチのファスナーを60秒間あけてもらう実験を行った.ポーチのファスナーをあけるのは容易く見えるかもしれないが,実はそうではない.ファスナーをあけるためには役割の異なる両手動作,つまり片方の手でポーチを固定しつつ,もう一方の手でタブを引っ張る必要がある.さらに言えば,6名の成人から得られたデータから,上手く開けるためには比較的狭い範囲内で力を入れる必要のあることがわかった(ファスナーから4cm範囲内でポーチを持ちつつ,ファスナーを引っ張る角度を63度以内にする必要がある).子どもは成長に伴いファスナーを開ける行為が上手くなっていった.年少の子どもはポーチをあけるために必要な引っ張る行為を示すことはなかった;年齢的に中間にある子どもはタブを引っ張るものの,その力はファスナーをあける許容範囲内に収まっておらず(間違った方向にタブを引っ張る,ポーチの適切な場所を固定していない),年長の子どもは上手くファスナーを開けることが出来ていた.今回の知見より,子どもが日用品に隠されたアフォーダンスを発見し,それを実行するときの知覚-運動の必要性が示された.

INTRODUCTION

日常は意図的な行為とその帰結が意図された人工物であふれている.

子どもの日常生活も人工物でありふれているが,どうやって意図された行為を学んでいくのかはほとんどわかっていない.

本研究では課題分析を行い,子どもがポーチのファスナーをあけようとする様子を調査した.

ファスナーをあけるためには役割の異なる両手動作が必要である(Nelson et al., 2013)-片手でタブを持って引っ張りつつ,もう一方の手でポーチの生地を固定しておく必要がある(図a-c).

タブとファスナーの角度が49度を超えるとファスナーをあけにくくなり,63度を超えると不可能となる(図a).さらに,ポーチの素材が柔らかいため固定する手はタブを引っ張っているときにファスナーの下を固定しなければならず,具体的にはファスナーから4cm以内を持っておく必要がある(図a).

Participants

ニューヨーク市在住の12-60ヶ月の子ども44人(21人が女児)が参加した(図dのy軸を参照).

Procedure 

ファスナー付きのポーチは長方形(12.5×5.5cm)でビニール製,透明,子どもがあけたくなるように小さなオモチャを中に入れている.タブは大きなものをつけて(2×5.5cm),目につきやすいよう色をつけている.

Data coding

子どもがタブとポーチ双方を持ったとき,子どもがタブを引っ張っているのかどうか,引っ張る方向が正しいのか(ファスナーに向かって引っ張っている,つまりファスナーに対して90度未満の角度で引っ張っている),間違っているのか(ファスナーから離れた方向に引っ張っている,つまりファスナーに対して90度を超えた角度で引っ張っている)を判断した.

RESULT

Success and time to unzip

24ヶ月未満の子ども11人は全員がファスナーをあけることが出来なかった(図dのx軸の60秒で示されている).

図dのタイムラインの長さからわかるように,ファスナーをあけるのにかかる時間は月齢とともに短くなっていった.

Holding pouch with one hand and tab with other

14ヶ月の子どもを除き,トライアルのある時点で全ての子どもが片手でポーチを持ってもう一方の手でタブをつかんでいる(図d-eの濃灰).

ポーチとタブを持っている時間は24ヶ月未満の子どもで0%-38%,24-30ヶ月の子どもで22%-69%,35ヶ月以上の子どもで33%-84%と増えていっている.

全体として,子どもは60秒間のなかで平均して5.64回ポーチとタブを持っていて,その頻度は月齢とともに減少していった.つまり,年長の子どもは持ち直す回数が少なかったということである.

Pulling the tab

24ヶ月未満の子どもは1-8回タブを引っ張っていて,24-34ヶ月で1-24回(7/16人の子どもは10回以上)であった.年少の子どもと同様に,35ヶ月以上の子どもはタブを1-8回引っ張っていた(図f)。

Pulling in the correct direction

24ヶ月未満の子どもはタブを正確な方向に引っ張ることはほとんどなく(0%-13%の確率),24-34ヶ月になるともう少し多くなり(0%-100%の確率),半数(8/16)は50%以上の確率で正しい方向に引っ張っていた.35ヶ月以上になると2%-100%の確率で正しい方向に引っ張るようになり,11/17人の子どもは100%の確率で正しい方向に引っ張っていた.

個々のタイムラインで赤色から黄色/緑色へと確実に変わっていないのは,子どもが間違った方向から正しい方向へとリアルタイムで上達しているわけではないことを示唆している.

Stabilizing hand location

正しい方向にタブを引っ張っているときに,24ヶ月未満の子どもは正しい位置でポーチを安定させることはなかった;24-34ヶ月の子どもになると0%-100%の確率でポーチを正しく安定させ,8/16人は50%を超える確率で正しく安定させていた;48ヶ月の子どもを除き,35ヶ月以上の子どもは全てポーチを正しく安定させていた.

DISCUSSION

安定させつつ引っ張るという行為は子どもの日常に共通してあるものだ.

(つままなくても済むようにタブを大きくしたり,子どもが片手で持てるように小さなポーチを使ったりといった)課題を簡単にしようという私たちの努力にもむなし,多くの子どもは24ヶ月になるまでポーチを安定させてタブを引っ張るという動作を上手く協調させることはなかった.コートのファスナーを外せるようになるのはもう少し後で32-40ヶ月である.

おそらく,子どもは似たようなモノ1つ1つにおいて用途に合った使用に必要な知覚-運動を学んでいるのだろう.

年少の子どもはファスナーのタブは引っ張るものであるということさえ知らない.引っ張るという動作はそれほど多くなく,子どもの手はタブにもポーチにも置かれていなかった.その代わりに,子どもはおもちゃをよく見て,ポーチに触れて動かし,タブをくねくねと動かすなどしていた.

中間の月齢にある子どもになると,ファスナーを開けるということはわかっていて,引っ張る動きも頻回なものとなる.ただし,その多くは正しい方向に引っ張る,正しい場所を持って安定させるというバイオメカニカルな要求に苦戦していた.

年長の子どもになると手を正しい位置に素早く置いていて,タブを持つ手はファスナーの歯に向かって力を入れつつ,支える手をファスナーの下に置いてファスナーの動きに向かい合う力を出していた.

子どものおもちゃを含む日用品を用途に合わせて使うのは運動的に難しいもので,その使用方法を発見して上手く遂行するには数年を要するのである.

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