見出し画像

乳児のあふれんばかりの豊かなモノ遊び:膨大な量の細切れで変化に富んだ実践(Infant exuberant object play at home: Immense amounts of time-distributed, variable practice)

Herzberg O, Fletcher KK, Schatz JL, Adolph KE, Tamis-LeMonda CS. Infant exuberant object play at home: Immense amounts of time-distributed, variable practice. Child Dev. 2022 Jan;93(1):150-164. doi: 10.1111/cdev.13669. Epub 2021 Sep 13. PMID: 34515994.

【要旨】

モノ遊びは乳児の発達にとって非常に多くの利点がある.しかし,モノとの関わりが多く見られる家庭での自由遊びに関してわかっていることはほとんどない.我々は13ヶ月のハイハイで移動する乳児,13ヶ月・18ヶ月・23ヶ月の歩いて移動する乳児がいる家庭(N=40; 男児21名,75%が白人)へ2時間の訪問を計2回にわたって行い,自然な活動をビデオに収めてフレームごとに分析した.年齢に関わらず,全ての乳児・時間尺度において,合計10,015ものモノとの関わりは短く(中央値=9.8秒),多様(オモチャとオモチャ以外のモノの間を何十回も移り変わる)でありつつも,乳児は多くの時間をモノとの関わりに費やしていた.乳児の豊かなモノ遊びは短く・細切れの時間で・変化に富んだ関わりであり,モノの特性や機能の学習,運動スキル獲得につながるものであり,そして,認知的・社会的および言語領域での成長につながるものではないかと考える.

【本文一部抜粋】

環境はモノにあふれている.そして,モノ遊びは乳児の学習において非常に重要である.

モノとの関わりについて,それが乳児の発達にとって役立つという意見の一致は見られるものの,学習に対するその自然な入力についてはほとんど知られていない.

Current study: Quantifying natural object interactions

家庭で2時間のビデオ撮影を計2回行い,制約のない状況での乳児の活動を記録した.

それぞれのモノとの関わりをフレームごとにコーディングすることで,モノとの関わりのタイプやその回数(言語学習における「tyepes」と「tokens」に相当する),および時間的な特徴を定量化した.時間的な特徴とは,モノとの関わりの持続時間,関わりの時間配分,モノと関わる時間の累積時間である.

13ヶ月のハイハイで移動する乳児,13ヶ月・18ヶ月・23ヶ月の歩いて移動する乳児を観察し,移動スキルや月齢がモノ遊びに影響を与えるかどうかをテストした.

Data coding and processing

Temporal characteristics of object interactions

ここでの「モノとの関わり」とは,手でモノを動かすことと定義している.

Unique objects

観察中,あるモノが乳児によって初めて動かされたとき,そのモノは「新奇 unique」なモノと記録した.

RESULT

記録されたデータにおいて,乳児は全体として10,015回,それぞれの乳児では1時間あたり41回から99回(中央値=63.5回)のモノとの関わりが記録された.

object bouts are brief

画像2

モノとの関わりは短かった.図は月齢および移動状態ごとにグループ分けされた乳児ひとりひとりのタイムラインを示しており,4時間の中で最もモノとの関わりが多かった乳児から順に並べてある.

乳児のモノとの関わりは短い時間で起こり,その合間にモノと関わらない時間が散在している.

画像3

全体として,多くのモノとの関り(85.3%)は短く,つまり,1分未満しか持続していなかった(中央値=9.8秒,範囲=0.03秒~22.3分);13%は1分から5分の中等度の持続時間;わずかだが(1.5%)持続時間が長い,つまり5分を超えるモノとの関わりが見られた.

モノと関わらない時間(92.6%)も短く,1分も持続することはなかった(休憩時間の中央値は9.2秒; 範囲=3秒~17分); 7.5%のみが1分~5分の中等度の持続時間で,わずか0.5%のみが5分を超えて持続するモノと関わらない時間であった.

Infants accumulate immense time with objects

画像4

図は訪問した各1時間のうち,61.2%の時間をモノと関わっていたことを示している.

Variety  of object interactions: Infants play with all types of objects

画像5

乳児はモノと関わる時間の32.3%をオモチャと,30.8%をオモチャ以外と,36.9%を両者を組み合わせて過ごしていた.(a)に示されているように,それぞれの乳児のモノと関わる時間はさまざまで,オモチャは12%~69%,オモチャ以外は8%~61%,組合せは11%~63%であった.

画像6

図は乳児の少なくとも25%が遊んだオモチャ(n=32),オモチャ以外のモノ(n=36)である.

DISCUSSION

乳児は60%の時間をモノとの関わりに費やしていた.膨大な量の細切れの時間で,多様なモノと関わることはモノの特性や機能について学習する理想的なカリキュラムを生みだしていて,それは運動・認知・社会・言語の領域における成長を駆り立てているようである.

Quantifying natural play in the home

控えめな我々の定義にも関わらず,乳児は1時間あたり36分もの時間をモノとの関わりに費やしていた.

1時間あたり63.5個ということから推定すると,典型的な乳児であれば1日の中で起きている10時間で600個を超えるモノと関わっていることになるだろう.

モノの多様性が非常に印象的である.乳児はその機能やサイズ,肌触り,形,重さなどが異なるモノの中を動きながら,1時間あたり30個もの新奇なモノと関わっていた.

色鮮やかで,「子ども向け」にデザインされたオモチャで,手に持ちやすく,家の中にたくさんあるにも関わらず,乳児はその時々で興味を惹かれたどんなモノでも遊んでいた.

乳児にはどれが遊ぶためのモノで,どれがそうでないのかを知る理由などほとんどないのである.

Less can be more in infant development

未熟であることは非効率的であるということと同じではない.

それが何で,それを使って何が出来るのか,発達のある時点で乳児がその情報を得るときに多様性というものは学習にとって有利に働くのである.

あふれんばかりの豊かな活動に潜む利点とは何であろうか?

乳児のその豊かな活動によって様々な握り・行為(ひっくり返す,ひねる,安定させる)を練習する機会が生まれ,しゃがんでモノを拾い上げ,押して,引っ張って,部屋の中を持ち運ぶことがバランスの練習になるのである.さらに,合理的な使用を含む様々なモノとの関わりを繰り返すことがモノの特性やアフォーダンスの学習をサポートしているのである.

Practical implications

乳児の遊びについてのワークショップでは,乳児が静かに座ってパズルをやらない,1つのオモチャに集中し続けられないという心配事を聞くことがよくある.

あふれんばかりの豊かな活動が乳児の発達における価値ある財産である,というメッセージを聞いたことがある親はいないだろう.

モノとの関りが(身体的,認知的,知覚的な障害によって)限られてしまい,たまにしか起こらないのであれば,子どもの知覚-運動領域,社会領域,言語領域にわたる学習の機会は減ってしまうのかもしれない.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?