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スタートアップにおける契約実務(1):総論~プロダクト/ビジネスモデルの視点から~前編

皆さんこんにちは。弁護士の三浦です。
今回から数回に亘ってスタートアップにおける契約の実務について連載させて頂きます。

さて、ほとんどのスタートアップ経営者は、新規サービスやプロダクトをリリースするにあたり何らかの利用契約書/規約が必要になることは理解しているものの、実際はそこに割けるリソースがないというのが現実ではないかと思われます。そのため、BtoBのサービスであれば、クライアントサイドが用意した業務委託基本契約書のひな形をそのまま使用しているスタートアップも多いのではないでしょうか。

しかし、契約書を作成する目的や必要な要素を意識しないまま惰性で契約実務を進めてしまうと、トラブル対応で事業効率が大幅に悪化したり、最悪の場合には事業活動の継続そのものが困難になってしまうリスクがあります。そのような事態にならないよう、経営者の方には、テクニカルな事柄よりも、まずは契約書に対する正しい目的意識をもって頂く必要があると考えております。

初回は総論として、プロダクト/ビジネスモデルの視点から、経営者が契約締結上留意すべき点について解説させて頂きます。

1.視点①:契約書/利用規約を作成する目的は何か
 契約書を作成する一番の目的は、リスクから自社のビジネスを守ることにあります。したがって、契約書全体として、ビジネスの核心が想定されるリスクからしっかり守られた内容にすることが最重要かつ最優先であり、変に交渉上の勝ち負けや個々の条項の有利・不利にこだわり過ぎると、本来の目的を見失ってしまうおそれがあります。
 実際にクライアントから「取引先から契約書のドラフトをもらったので、当社に不利な条項がないかチェックして欲しい」といった相談を受けることが多々あります。確かに一般論として契約条項の有利・不利はあり得ますし、不利だから修正すべきとアドバイスすることもあります。しかし、個々の条項の有利・不利を論ずる以前に、自社のビジネスの存続を脅かすリスクに対して十分な手当てがなされていなければ、契約書として必要最低限の役割を果たせているとは言えません。
 私としては、せっかく契約書を作るのですから、形だけのもので終わらせるのではなく、しっかり機能する内容にしてもらいたいと考えます。経営者の方々には是非、①自社のプロダクト/ビジネスモデルを脅かす具体的なリスクは何か、②そのリスクを回避し、継続的に事業を展開するためにはどういうルールや約束事が必要か、という視点から契約書を作成する目的について一度考えてもらいたいと思います。

2.視点②:フェアな契約内容になっているか
 前項の内容に関連しますが、ビジネスを持続可能性のあるものにするには、契約条件がお互いにとってフェアな内容である必要があります。どちらか一方に有利であることは、相手方に対して過剰な負担を課している可能性があることを意味しますので、有利・不利にこだわり過ぎると持続可能な関係の構築を難しくさせるリスクがあります。
 逆の視点から見ると、(実際にその立場になってみると判断が難しいところではありますが)創業したてのスタートアップだからといって過剰な値引きやサービスを要求してくる交渉相手は望ましい取引先とは言えません。実際にビジネス関係で紛争化する案件を見ると、もちろん契約の仕方がまずかったケースもありますが、そもそも基本的な条件が不公平・不均衡なケースが非常に多いです。
 したがって、お互いにとって良い契約にするためには、対価関係が取引通念上合理的な範囲内で維持されていることも重要な要素になります。ただし、必ずしもサービスの対価がお金である必要はありませんので、この点は個々の契約ごとに総合的に判断する必要があるでしょう。

前編は以上です。後編ではもう少し戦略的な視点について解説させて頂きます。

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