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歩く技術、楽しく覚えて

2011年10月29日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 今月、僕と父の共著となる「三浦雄一郎 歩く技術」(講談社)が出版された。
 前半は父、雄一郎が体験した、これまでの冒険の数々のエピソード、そしてそれを支えたトレーニングが記してある。僕はそれに技術的な解説を加えて実践的に行えるようにした。 

 この本を書くにあたって、僕が一番苦労したのは、普段父が行っているトレーニングを一般的な内容に置き換えることだった。
 父のトレーニングはユニークだ。足首に7~8㌔の重りをつけ、30㌔の荷物を背負う「ヘビーウオーキング」(僕らが名付けた)や、300㌔を超える長距離自転車ライド、スキーを背負って富士山に登るなど一般的な常識に照らすと、解説するのが難しいものばかり。ところが、それを細かく検証してみると、非科学的なトレーニングのようで、実は理にかなったものばかりなのだ。
 例えばヘビーウオーキングだが、きっかけは膝痛がひどく走ることができなくなったため、独自に負荷をかけるよう工夫したトレーニング法だ。足に重りをつけて歩くことは足を痛めつけるように見えるが、実は重りをつけることによって、歩くときに膝はけん引され、半月板(軟骨)のストレスを軽減させるとともに関節内部の関節液の循環を良くするようだ。これで父の膝痛はかなり軽減した。

 すべてのトレーニングは必ず心拍数をベースに行う。心拍数は実際にどれくらいの負荷が与えられているかということを客観的に判断できるうえ、山登りの際は標高が上がっても応用できる。
 最近の中高年登山ブームに加え、山ガールや家族連れなどレジャーとして登山を楽しむ層が増えている。健康のために行う平地でのウオーキングと登山には大きな体力的な隔たりがあり、これが要因でケガや遭難に至ることが多くなっているのも確かだ。

 いかに街歩きを山歩きにつなげるか。三浦家にとっては歩くことが山に通じており、その一歩が夢を持つことの大切さにつながる。今回の共著は父がエベレストへ向かった体験を通じ、街から山へ、そのギャップを埋めるウオーキングの楽しさと厳しさをユーモアと科学を交えて書かせていただいた。未然に事故を防ぐこともそうだが、これまでにない楽しく歩く技術解説本として多くに人に読んでほしい。

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