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自然体験、大人が見本

2010年9月4日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。

 今年で3回目の開催となる瀬戸内海の島キャンプ。海に浮かぶ余島と豊島で9~12歳のおよそ30人の子供らと5日間のアウトドア生活を楽しんできた。
 今年のキャンプにはこのコラムで紹介した海洋冒険家の中里尚雄さんにもスペシャルゲストとして参加してもらった。プロのウィンドサーファーで選手として数々のW杯入賞や世界の過酷な大波や海峡に挑戦してきた経歴を持つ。昨年は650㌔に及ぶ鹿児島から沖縄の離島の子供たちへウィンドサーフィンで手紙を届ける「海のポストマン」として夢を届けた。彼の夢に対しての行動力が子供に伝わるのではないかと期待してのことだった。

 2日目の夜、キャンプファイアを囲みながら中里さんは海で出会った様々な動物たちの話をした。ウィンドサーフィンをしている横で空中に飛びながら並走するマンタ、セーリング途中で出会った巨大なサメ、そして危うくトビウオが眉間に突き刺さりそうになった話を面白おかしく語り、子供たちを盛り上げた。そして海亀の話題となった。彼は胃の中にゴミが詰まって死んでしまった海亀を解剖した写真を取り出した。僕たちが何気なく捨てるプラスチックやビニール袋を海亀はエサのクラゲと間違って食べて、窒息したり餓死したりしてしまうのだという。
 翌日、子供たちみんなで浜辺のゴミ拾いを行った。発泡スチロール、空き缶、カップ麺の容器など一見きれいな浜辺ではあったが、10分ほどでゴミ袋はいっぱいとなった。どれもいつも見かけるような身の回りにあるものだ。

 ゴミは人が足跡を残すところにある。今年の春、僕は三浦隊のゴミがエベレストC2(6400㍍)に残っていたという話を聞き、その実情を確かめに行った。僕たちの隊のゴミはなかったが、そこにはエベレスト登山60年の歴史を物語るような過去のゴミが至る所に氷河から溶け出してきていた。それらは人類の活動によって温暖化が進んだことによってはじめて目に付くゴミ達である。3日目の夜はそんな話を子供たちにした。

 山と海、大自然のフィールドでの体験を語る時、子供たちは真剣に耳を傾けてくれる。心躍る冒険に胸をときめかすと同時に彼らの目は僕ら大人の行動する姿を映し出す。話だけでなく、努力や勇気、その行動に対する責任を僕らが担うことを忘れてはいけないと、彼らを前にして強く感じた。

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