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ゴンちゃんの探検学校

わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリースタイルスキー、モーグル競技では10年間にわたり全日本タイトル獲得や国際大会で活躍。引退後は冬季オリンピックやフリースタイルワールドカッ…
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2020年11月の記事一覧

ライバルこそ理解者

2009年8月8日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先日、映画「剣岳、点の記」を見に行った。これが試写会を含めて2度目。新田次郎氏の小説を映画化したこの作品の美しさに、実際に立山連峰に抱かれている気持ちになる。  日本山岳会と陸軍の陸地測量部が日本最後の未踏の山である、越中剣岳の初登頂をめぐり、ライバル心を燃やしながらもお互い厳しい剣岳登頂という共通目的の中で認め合い、一番の理解者となっていく。そのストーリーに僕は共感した。

登山ガイドの任務

2009年8月1日日経新聞夕刊に掲載されたものに修正加筆したものです。  最近、山での事故が増えている。1996年、エベレストで日本人を含む12人の登山者が命を落としたのを思い出した。この中には、スコット・フィッシャーやロブ・ホールといった一流の登山ガイドもいて、エベレスト登山史上最大級の遭難事故となってしまった。このときに問題になったのが「公募隊」のあり方だった。

登山の喜びとリスク

2009年7月25日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先日、北海道大雪山系のトムラウシ山などで10人が亡くなるという過去に類を見ない遭難事故が起きた。この自己の真相は未だ捜査中だが、疲労が重なり凍死だったとみられる。  標高8000㍍を超える超高所登山ではアタック(攻撃)、タクティックス(戦略)、撤退、ベースキャンプ(本営)など戦場で使われるような言葉が飛び交う。これらは高所登山に行くということが戦争に行くことに匹敵するほど危険度が高いからかもしれな

富士山の歴史・文化再考

2009年7月18日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  鬱蒼と茂る森、鳥の鳴き声、神社の鳥居や石造り、朽ち果てた茶屋の廃屋は自然の風景の一部に溶け込んでいる。3合目の風景は僕が知っている殺伐とした木も生えない富士山のイメージとはかけ離れていた。  富士山は年間30万人が登る人気の山だ。安全に登ってもらうため、僕たちの低酸素室でも「富士山講習会」を開いている。しかし僕自身、実はつい先日まで富士山を1合目から登った事が無かった。  僕にとっての富士山とは、

名登山家と父の交流

2009年7月11日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  「Hello!!!」 真っ白のひげが顔の9割を占めているクリス・ボニントンはサンタクロースが子供にあった時のような笑顔をこぼしながら、僕の父、三浦雄一郎と硬く握手を交わした。イギリスの偉大な登山家、クリス・ボニントンが来日した際、最初に会いたいとクリス自身がリクエストしたのが僕の父、三浦雄一郎であった。天ぷら料理に舌鼓を打ちながら、父とクリスは昔話に花を咲かせた。ボニントン氏はエリザベス女王が「サー

薬草「毒」の効用

2009年7月4日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  「探検家の病」と異名をとる壊血病は15世紀後半、世界を旅する船乗りにとって恐ろしい病気であった。壊血病は貧血、衰弱、歯茎や手足の腫れなどを引き起こし、ときには死に至らしめることもある。当時の記録によると欧州諸国では、1500年から1800年の300年間で約200万人の船乗りが命を落としたという。今では野菜や果物に含まれるビタミンCが不足すると壊血病になることがわかっている。探険家にとって植物の知識は不

環境へのフィットネス

2009年6月27日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  日本でフィットネスというとトレーニングや健康指標を表すが、米国留学中のユタ大学で、スポーツ生理学とはフィット(適応)ネス(能力)=適応能力を学ぶことであると教わった。  例えばフィットネスクラブで行う筋力トレーニングも適応と言う視点から見ると、トレーニングのよって筋肉が大きく太くなり、より重いものを持ち上げられるようになる為の筋肉適応と考えられる。

生命と酸素の付き合い

2009年6月20日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  昨年のエベレスト、標高8200㍍地点。焼けつく肺にいくら大気を吸い込んでも僕の意識は遠のいていく一方だった。酸素を吸収しようと多くの血液が流れ込んでいるが、それが仇となり、血液が肺胞内へにじみ出てくる。こうなると肺の呼吸能力が著しく落ちてしまい、地上にいながらおぼれているような状態になる。  僕は必死でボンベの酸素量を増やした。降りる判断が早かったこと、持参した薬が効いたことが幸いして事なきを得たが

成果上げた「文武両道」

2009年6月13日日経新聞夕刊に掲載されたものです。   先週、米国ユタ州のソルトレイクシティーと成田を結ぶ直行便が就航した。ソルトレイクシティーは三浦家にとって第二の故郷とも言うべき場所。僕は十数年暮らした。姉、兄もここで学生生活を送り、家もまだ残っている。身近になったのはうれしい限りだ。  僕たちの留学の目的はスキーだった。冬季五輪も開催されたソルトレーク周辺は世界に名だたるスキー場の宝庫で、選手を育成するアカデミーも充実している。兄と僕は「ローマーク・スキーアカデ

「山のカルテ」を作ろう

2009年6月6日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先週末、第29回日本登山医学会学術集会があった。登山を愛する医療関係者、登山家、旅行代理店が年に1度集まって「安全な登山」を目指し学術発表を行う場だ。  父の雄一郎は講演でエベレスト登頂について語り、僕も「低酸素下における遺伝子発現」のテーマで発表した。数ある発表の中、僕が最も感心があったのが、鹿屋体育大学・山本正嘉教授の「運動生理学から見た高所順化とその不全」という発表だ。山本教授は登山を生理学的に

標高8000mの生態系

2009年5月30日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  8000㍍を越える山は、頂上に近づくにつれ、眩しいくらい明るいのに、青が次第に濃さを増し、黒く見えることすらある。紫外線が強く酸素は地上の3分の1、平均気温マイナス30度。こんな世界では僕たちが考えるような「生態系」が存在するとは考えにくい。  ところが、昨年エベレストのアタック中に、サウスコル8000㍍の地点で大きな鷲の死骸を見つけた。シェルパの間では、鳥は神様の使いという信仰がある。僕たちは丁

大自然からの教え

2009年5月23日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  日本には数多くの素晴らしい女性登山家たちがいる。世界で女性初のエベレスト登頂を果たしたのは田部井淳子さんだ。アルプスのグランド・ジョラスやアイガー北壁を始めて登頂した女性も、日本の今井通子さんである。彼女たちは女性登山家としての可能性を世界に示した。