【私小説】消えないレッテル 第7話

  *

 ゲンショーさんに振られて、セクハラとして彼女に訴えられたあとの私の自慰行為に使うおかずのことだが、とりあえず、三次元の女性の裸では抜けなくなってしまったので、ここから完全に二次元女性キャラクターの裸でしか抜けなくなってしまった。

 でも、抜けるのはABCのCではなく大体がBだ。

 二次元女性キャラクターの口、胸、手、足による男性器を刺激させている絵によってでしか抜けない。

 二次元女性キャラクターの髪で抜きたい気持ちもあるが、その表現をおこなっているイラストは、なかなかないので、いわゆるレアケースだ。

 どちらかといえば、私は胸、ときどき足というシチュエーションばかり十八禁ゲームの回想シーンをプレイしている。

 特にパイズリと足コキを好んでいる私だけど、一番やってみたいシチュエーションがあった。

 乳首だ。

 乳首による男性器を刺激するシチュエーションが最近の私のトレンドだった。

 両親がマンションでオスのワンちゃんを飼っているので、私は、そのオスのワンちゃんの習性を理解していた。

 これは人間にも適応されるように思う。

 私たち男性は、あなたたち女性にマーキングしたくて辛抱たまらないのだ。

 でも、そのBだったりCだったりができる男性はカースト上位だけであり、カースト下位の人間はAVを見続けながら童貞を貫き致すか、二次元女性キャラクターの赤裸々な姿が映し出されるPCゲームのH回想シーンで致すか、風俗を利用して童貞中退するかの方法しか残されていない。

 本物の恋だの愛だのを享受できる人間は、やはりイケメン三高に限るのかもしれない。

 断言をしないのは、そうすることで希望が残るからな。

 私は希望を残したい人間なのだ。

 たとえカースト下位であっても希望は捨てないようにしたい。

 しかし、今回のゲンショーさんとの出来事で、私は二次元女性キャラクターにしか快楽物質を発射できない去勢されたワンちゃんのような状態になってしまった。

 そう、今回の件、いや、今までの女性たちの言動と行動により、私は二次元女性キャラクターしか崇拝できない三次元ミソジニスト女嫌いへと進化していた。

 私が三次元フィロジニスト女好きになるためには三次元女性に対するトラウマを克服しなければいけないのだが、その三次元女性トラウマ除去計画は永遠に実行されないまま人生を終えることになりそうだと私は思うのだった。

  *

 ゲンショーさんが会社を辞めた。

 人事異動先の経理部での仕事がうまくいかなかったらしい。

 そりゃそうだ、と私は思った。

 精神障害を持つ者は、まず、その環境に慣れる必要がある。

 だから、ゲンショーさんが総務部という環境に適応できるようになってからが始まりだ。

 いきなり人事異動で経理部に行かせたことは、明らかに会社側のミスである。

 障害者という人間、その特性を持っている人間ならば、誰でも理解できることであった。

 しかし、そのことを会社が理解できていないというのは、ちょっと問題があるのではないか、と思ってしまった。

 けど、ゲンショーさんが私をハラスメントで訴えたことが原因で、どっちにしろ総務部にすらいられないか。

 私は結局なにハラスメントでもなく、まだ普通に総務部で働けている。

 その事実は、あるのだけど、どうやらゲンショーさんは転職による退職らしい。

 寿退社でもないらしい。

 ヤンキーな彼とうまくいっているのだろうか。

 少しだけ心配である。

 心配する必要はないだろうけど。

  *

 私は総務部で四回目の春を迎え、有期契約社員四年目となった。

 私の会社では、四年目と五年目の有期契約社員の人材は、会社の正社員登用試験を受験できる権利が手に入る。

 私も当然、その試験を受けるのだが、そもそも障害者雇用の人材には、どういう登用試験がおこなわれるのだろうか?

 私は、それすらも理解できないまま、四年目の夏と秋の間の時期に初めての正社員登用試験を受験したのだが、なにも、わからなかった。

 受験場所は、とある施設のデスクトップPCで、とのことだったが、その問題を解くための制限時間が早すぎる速度で終わってしまう。

 私に考える時間を与えないくらいに、問題を解こうとした瞬間に時間切れとなる。

 一問、一問、その繰り返しがおこなわれ、私は結局、正社員登用試験の問題を一問も解くことができなかった。

 それに付随するかのようにデスクトップPCの画面に渦のようなものが見え始める。

 いわゆる幻覚のひとつである幻視というやつだ。

 一般的な「幻覚」という言葉で認識されている、そのものが目の前に見えてしまった。

 私は少々パニック状態になってしまい、この正社員登用試験が、ものすごくハードルの高いものであった事実を知っていく。

 私は正社員になれないのだろうか。

 おそらく会社は障害者雇用というものを理解していない。

 この試験は健常者用のものだ。

 この試験を私は合理的配慮なしに突破することはできないだろう。

 いや、できない。

 断言できる。

 会社は、きっと勘違いをしているんだ。

 たぶん、私が障害者雇用であることを忘れて、間違えて一般雇用の試験を受けさせたんだ。

 そうに違いない。

  *

 私は、この試験を受けた後日、会社の上司に「相談」という形で意見をぶつけることにした。

「あの、正社員登用試験のことですけど、あの試験は障害者雇用の人材に向けて作られていないように感じるのです。あれは健常者の方たちに向けた試験だと思うのです。私に障害者雇用の正社員登用試験を受けさせていただけないでしょうか?」

「障害者雇用の正社員登用試験? いったいカミツキさんは、なにを言っているのですか?」

「えっ?」

「正社員登用試験は正社員登用試験だよ。みんな平等にチャンスを与えられているんだ。そこに差はないよ」

 この人は、いったい、どうして、こんなことを言っているんだろうか。

 私は、ちゃんと上司に伝わるように説明していく。

「差は、あります。あの、課長は、どうして私が障害者雇用の人材として、この会社の社員として働いているのか、その理由をわかってくれているのではないのですか? 私の障害と病気を理解してくれているのではないのですか?」

「だから、言っているでしょ! 健常者も障害者も平等に試験を受けさせているじゃない! そこに差は、ありますか?」

「いや、だから、あるって言っていますよね? 私は精神障害者保健福祉手帳二級を持っています! 私のスマホ画面に表示されているウィキペディアを読み上げますけど、『日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの』が二級の手帳持ちの障害特性理由です! その意味を理解してください! お願いします!」

「なにをよくわからないことを! 君は、それで賢くなったってアピールするつもりか! そんなに、その知識を自慢したいのなら正社員登用試験くらい突破してみせてよ! 期待してるからさぁっ!」

「よくわからないことと言って、理解するのを諦めないでください。私、どうして、この会社で障害者雇用として働かされているのか、わかりません。私は障害者雇用なんですよね?」

「そうですよ。障害者雇用で会社に雇われていますよ」

「なら、私にだって言えることがあります。課長は合理的配慮という言葉を知っていますか?」

「もちろん知ってるよ」

「だったら、合理的配慮をちゃんと、おこなってください。今回の試験を障害者雇用の試験にして、もう一度、受け直させてください」

「そんな、君だけを贔屓することなんてできないよ。それに、合理的配慮は、ちゃんと、おこなっています」

「えっ?」

「君にわかるように説明するけど、君を職場で受け入れている。それが合理的配慮だよ」

「どういう意味ですか?」

「しつこいくらいに説明しないとダメかい? 障害者の君を私たち健常者が社員として、仲間として、受け入れている。君が職場で、ものすごく量の飲料水を飲むことだって、君に職場で耳栓をすることだって許している。そんな君を受け入れている。それが合理的配慮だよ。わかるように説明したつもりですけど、理解できますか?」

 私は目の前の上司である課長をぶん殴りたい気持ちで、いっぱいになった。

 でも、私はぶん殴らない。

 殴ったら犯罪になることを理解しているからだ。

 でも、私にだって、言いたいことがある。

 仲間として受け入れている?

 そんなの当たり前のことじゃないか。

 障害者だけど受け入れていると言いたいのか?

 私は、あなたたちのことを仲間だと思っているけど、仲間であろうと受け入れることに条件が必要なのか?

 それに、なんだ?

 私が、ものすごく飲料水を飲むのは薬の、オランザピンの副作用なんだよ。

 私が副作用に悩まされていることが、あなたたちにとって嫌悪な感情を抱かせている。

 だけど、あなたを特別に受け入れている。

 そう言いたいのか?

 耳栓をすることだって自閉症スペクトラム障害の特性が原因なのに、なんで私が悪いことをしているのに、私たちは、それでも、あなたを受け入れているよ、という体《てい》なんだ?

 私は望んで、こんな状態になったわけじゃないのに!

「とにかく、君は合理的配慮をおこなわれながら会社に社員として受け入れられている。その事実をよく噛みしめることだね。君が社員として受け入れられている、その意味を理解しながら来年の試験を突破できるように努力すること。がんばってね」

 私は、今すぐ会社のビルの窓を突き破り、上から落ちたい気分になったが、それをするにはセキュリティの高すぎるビルなので、窓は頑丈で、それはできない。

 私は今日の出来事の怒りの矛先をどこに向ければいいのか、わからない。

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