誰かの夜

いつものように中身のないテレビ番組を流し見するおばさんは、隣人が帰宅する音に聞き耳を立てる。天井の木目をぼんやり見つめ、布団にくるまり思い出を反芻しているお兄さんはここのところ体調が優れない。ただ一人からの返信を待つお姉さんは、携帯の通知が鳴るたびにやきもきしている。視力が落ち続けている少年は、蛍光灯の下で目を細め塾の宿題に取り掛かる。顎の下に小さなニキビができた少女は、暖房の効いた部屋で顔を赤くしながらも指先の冷えを感じている。雪国に住む男の子は、明日こそは作りかけのかまくらを完成させようと意気込んで眠りにつく。電子タバコ特有のキャラメルのような、ウッドチップのようなにおいのする息を吐きながら、おじさんは半額になった惣菜を買いに行くか迷っている。

人の数だけ生活があるけれど、自分はその詳細を知る由もない。想像と現実で得た知見を交えつつ、誰かの夜について取り留めのない文章を書いてみました。一人で部屋にいることにうんざりしていたのですが、なぜだか少しホッとしました。

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