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2022上半期に聞いた音楽20(後編)

後編です。
前編はこちら

■Maladapitive Daydreaming / sonhos tomam conta

ブラジル・サンパウロ出身のブラックゲイズ・プロジェクト。Parannoulともレーベル同郷。2枚目。1stのジャケットがserial ecperiments lainから、今作も同作からサンプリングで少しセリフを引用。
…と前情報が過多なのだけれど、それに押して押されぬ世界観、完成度。アルバム丸々一枚禍々しさと清涼感の入り混じるキレイな轟音。シューゲイザーって何?って初めての世代でも入りやすい音だと思います。夏にシューゲイザーは涼しくて良いので、ぜひこれからの季節にも。


■You Belong There / Daniel Rossen

アメリカのベテランロックバンド、グリズリーベアのフロントマンのソロ。リリースはWARPから。リリースレーベルが物語るようにバンド活動時よりエレクトロニカに肉薄するフォーク。
音楽を聴くとき「音を楽しむ」というより「音が作る景色を眺めるようだなあ」と思って、「音楽」というより「音像」だなあ、と思うことがしばしばあるのだけれど、このアルバムもその類。ピーク時のレディオヘッドに似ているようで、もう少し肉感的に研ぎ澄まされたような、そんなどこか神秘的な「世界観」。ひたってください。


■GOLD / Alabaster DePlume

ロンドンのサックス奏者のアルバム。前作をメチャクチャ聞いていたのだけれど、今作もメチャメチャ良い。(頭が悪い感想)
ジャンルはジャズでよいのだろうけど(詳しくないのでうまく説明できない…その辺は他のプロの解説を見てください…)とにかく丁寧で甘くて神秘的。昔の東洋の映画のサントラをアップデートしたかのような甘さ。これもまた甘美な「音像」。
しかしSam Gendel然りですけれど、普通のバンド編成の枠から外れたところからポップスターが生まれる流れはとても多様性があってよきですね。


■Planet Love Vol.2 - Early Transmission 1990–95

オランダ・アムステルダム出身で、あらゆる音楽をまたにかけるDJ、Young Marco。彼の主催するSAFE TRIPによる1990〜1995年のアーリーテクノ/トランスからのコンピ盤。
「トランス」と言っても今のように派手にバキバキではなく、昔の機材特有のシンプルさミニマルさ、環境音楽と自然につながっている神秘さトライバル感…と、すごく「今に馴染むリバイバル」。「90年代リバイバルってこういうことか〜」と膝を打つセレクト。勉強になりました。
イルカの声とか入っているからこちらも夏のお供に良いかも。
昨年リリースのVol1もいいよ。


■Finally,New / They Hate Change

「今年はドラムンベースが来る」「ジャングルも来る」「グライムも来る」「バイレファンキも来る」と言われ続けて早何年か。ドラムンベースは去年あたりから今年にかけて、どうやら本当に来始めている気配はあるのだけれど、果たして本当に来るの?どれくらい来るの?
そんな流れに乗ってか乗らずか、They Hate Changeはドラムンベース、ジャングル、グライム全部乗せのラップユニット。ブラックミュージックをアイデンティティも持ちながら、「本当にリズムミュージックぜんぶ好きなんだろうな」と伝わってくるとにかく節操ないラップアルバム。飽きない。プロジェクト名からもわかるけれど、どこかシニカルでもある。
正直そこまで派手でもないけれど、どこにでも跳ねうるトリックスター。今後を見守りたい。


■for you who are the wronged / Kathryn Joseph

スコットランドのシンガーソングライター。2015年にデビューして御年47歳、遅咲きの大輪。
アルバムほぼ一枚幽玄的なエレピと掠れて力強い彼女のボーカルによるストイックな構成、世界観。蝋燭の火やお香の煙をボンヤリ見ながら、とにかくじっくりドップリ「浸りたい」一枚。


■Pripyat / Marina Herlop

バルセロナ在住の女性コンポーザーのエレクトロニカ。リリースはPANから。
エレクトロニカといっても静かで環境音楽のようなエレクトロニカではなく、物語をゆっくり紡ぐために展開していく方のエレクトロニカ。全盛期のビョークの続きにある神秘性。先行リリースのmiuは「牛の出産」がテーマであったり、ジャケットは人の顔をしたカタツムリだったり、少し不思議で、それでいて居心地の悪くない世界観が「展開」していく。
涼しげな音楽なので夏にもちょうどいいし、それこそ「宝石の国」を読みながらのお供なんかには最適なんじゃないでしょうか。


■Glitch Princess / yeule

シンガポール出身、ナット・チミエルのソロユニットのセカンド。客演にはTohjiも参加。
ジャンルはハイパーポップなんだろうな…そうなのだろうけれど、どこかワールドエンドガールフレンドにも通じる幽玄さがアルバム一枚に満ち満ちている。ハイパーポップとは実質グランジである…と言わんばかりの儚い夢のようなポップアルバムの金字塔。
最後に4時間44分の曲を入れるのも、普段聞くのに邪魔なのはさておき、そういうのやっちゃう発想はメチャクチャ好き。


■MOTOMAMI / ROSALIA

もはや説明不要かもしれない、スペインのシンガーソングライター。フラメンコとポップスを融合する稀代のポップスターとして近作はジャンルや国籍を超えて大きく評価されている。
そんなポップスターが、稀代のトリックスターArcaと組んだ今作、2022年のリリースを語る上で外せない事件ではないか。事件なのか、事故なのか、どちらなのだろう。そもそも事件と事故の違いは?確信犯的にパチっとはまっていれば事件、何かが偶発的に誤って繋がってしまったのが事故、だとして、これは…?どうなんだろう。
裸のジャケット、騎乗位で美しく跳ね回るHENTAIのPV、Arca提供のきれいなレゲトン、話題性には事欠かないのだけれど、全てが綺麗に「ポップ」に収まっている。すごくトリッキーなのに、すごく普遍的に綺麗なアルバム。
好きなアルバムであることは確かなのだけれど、私はこれを望んでいたのか?心のどの箱に入れれば良いんだ?正直ちょっとまだ消化に困っている。


■Some Nights I Dream of Doors / Obongjayar

ブラックミュージックは今年もエバーグリーンだったし、ケンドリックラマーもヴィンスステープルもデンゼルキャリーもロジックもLucky DayeもRavynn LeaeもKayCyyもあとElujayとかも全部良かったね!!!全部好きだね、どうする???
…と迷った挙句、結局一番聞いたやつを入れることにしました。
オボンジェイヤーと読むらしいです。ナイジェリア出身のロンドンのアーティストです。リトルシムズの前作に客演で参加したことで注目を浴びることにもなりました。
アフリカらしさを感じるところもあるけれど、とにかくジャケットのように親しみやすく牧歌的でポップ。それでいてちょっと茶目っ気溢れてファニー。何気ない日常に少し色を添えるにとても最適なポップアルバム。上半期はお世話になりました。

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