水と太陽
元日本代表監督、イビチャ・オシムの言葉に「水を運ぶ選手」という表現がある。試合中ではあまり目立たないが非常に重要な選手を表現した言葉で、チームのために地道な貢献をし、堅実なプレーでバランスを保つ努力をする選手のことだ。
オシムはこうした選手の重要性を強調し、チーム全体のバランスを重視する指導スタイルを持っていた。
90年代、オシムは当時最強と呼ばれたユーゴスラビアを率いて活躍。後に、レアルマドリードやバイエルン、ドルトムントなどのオファーを断り、日本のジェフ千葉を選んだ。ビッグクラブではスター選手が大きすぎる力を持ち、クラブが監督に様々な注文を飛ばす。そういった環境が合わないと感じていた。
詳しくは書籍「オシムの言葉」を読んでほしい
様々な媒体で、「○○ベストイレブン」みたいなものをよく見かけるだろう。雑誌やYouTubeの動画などでは定番の企画となっている。しかし、多くの場合には「水を運ぶ選手」がいない。協調性やバランスを無視してしまっては、フットボールにおけるもっとも重要な要素の一つを蔑ろにしているように思う。だからあの類は、ロマンがないと思われるかもしれないが、個人的に魅力を感じない。
よって、私が歴代ベストイレブンを選ぶとしたらジダンマドリーの11人だ
絶対的な太陽のクリスティアーノ・ロナウドがいて、ベンゼマは太陽に「水を運ぶ」側の選手だった。そして10番の位置にはイスコがいた。メッシでもマラドーナでもジダンでもなくイスコだったからこのチームは強かったのだと思う。
ルーチョバルサのMSNにはラキティッチがいて、ペップバルサにはペドロがいた。彼らが重要だったのだ。MSNのNは自分より輝く太陽の存在が気に入らなかったみたいだが、、、
先日、EURO2024が開幕した。イングランドは注目されているチームのひとつだが、なんともお粗末な試合だった。
ベリンガム、フォーデン、サカ、ケイン
彼らがクラブで活躍できているのは「水を運ぶ選手」がいるからだ。彼らが同時にピッチに立った時、利他的な選手がいなくなり極東の我々は目を開けているのに精一杯だった。共存する環境を提供できない監督の力量不足は間違いない、それならば核の誰かを外す勇気が必要だ。ヘンダーソンやカルヴィン・フィリップスのような選手の重要性を再認識させられる。
太陽は一つでいい。
思い返せば、フロレンティーノ・ぺレスが2000年代に目指していたのは、サッカーゲーム的な銀河系軍団だった。そして長くは続かなかった。
当時のチームにはスター選手が初めから王様として招かれた。フィーゴにジダン、ベッカムにロナウド。入団しプレーする前からもう王様だった。
彼らは、夜遊びにパーティー、トレーニングに遅刻しても許されていた。
あれから20年が経ち、現在のチームはずっと健全だ。ヴィニシウスもロドリゴもチームに来た時には、偉大な先輩がいてプロフェッショナル、マドリーのシャツを着ることとは何たるかを叩き込まれた。SNSでみられるような仲良しこよしの集団ではなく、目標に対して一切の妥協を許さない、ストイックなプロ集団だ。そのグループの輪が今のチームの強みだ。
マドリーのチーム編成
先日、ドイツ紙BILDにてバイエルンのスカッドを3つの役割に分けて紹介している記事があった。
1.主力
2.信頼できるサブ
3.将来有望な若手
これを少し変えて来季のマドリーに当てはめてみる。
主力
シーズン通して毎試合出場するメインの選手
サブ
主にローテーションの際や主力に欠場者が出た場合に出場
若手
将来の主力候補。
このように大まかに分類すると、メインになる主力は15人程度になる。過去に3冠を達成したクラブや6冠を達成したペップバルサでもこのような構成をしている。主力に20人も30人も必要ない。
新時代へ
来季から白い巨人の太陽は間違いなくキリアン・エンバぺだ。クラブは年始に首脳陣でエンバぺ獲得の是非を話し合った。ヒエラルキーに変化が加わり、ロッカールームの輪を乱す存在なのではないかという否定的な意見もあった。強烈すぎるあまりにリスクも伴う、吉と出るか凶と出るか、これは来季の最重要ポイントだ。
スカッドの質と量ともに申し分ない、各ポジションにその世代で最高の選手が揃っている。そしてそれを取りまとめる調律師はカルロ・アンチェロッティだ。来季からの二年間は、彼のキャリアの最後にして最大の戦力を有しての集大成、新しい歴史を築く2年間となる。
肝となるのは、ヴィニシウス、エンバぺらの主役とそれを支える「水を運ぶ選手」の存在だ。
調律師の卓越した手腕によってチームの歯車が噛み合ったとき、ベルナベウのトロフィーのショーケースが埋まるのは時間の問題だ
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