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[シーズン開幕]王座防衛と軍曹

明日、シーズン最初の公式戦を迎える。今季のプレシーズンは7月15日から始まり、今季最後の試合となるクラブワールドカップの決勝は2025年7月13日。最大75試合ほぼ一年間丸々走り続ける過酷なマラソンが始まる。

このマラソンで鍵となるのは、いかに健康体でペースを保ちつつ走れるかであり、最初だけ速くても意味はない。

そして、レアル・マドリーにはマラソンのプロフェッショナルがいる。



マスターヨーダ

レアル・マドリーのフィジカルコーチ、アントニオ・ピントゥスは、愛嬌のある笑顔と内気で控えめな性格から選手、サポーターから広く愛されている。

現在は60歳を過ぎた禿げ頭のフィジカルコーチだが、彼自身も一流のアスリートである。

子供の頃、「サッカーは向いていないからランニングにしなさい」という父の影響で中距離走に挑戦し全国レベルの実力を発揮。その他にもスキーや柔道など幅広いスポーツに触れている。

19歳の時に競技者から指導者の道を目指すようになり、1986年にトリノで体育教師の学位を取得。マラソンに関する論文がイタリアオリンピック委員会の賞を受賞することとなり、これがユヴェントスへ入団するきっかけとなった。

フランスで体育教師の資格を取得後、イタリアで博士号を取得。4年前はマドリードの大学で理学療法を学び、直近ではスポーツ科学の博士号を目指して勉強している。昨年4月にはマドリードマラソンを3時間48分で完走。

向上心を持ち続け、自身が一人のアスリートとして手本を見せる、この模範的な姿勢が多くの人から尊敬される理由である。

ピントゥスの知見には、スポーツ界だけでなくNASAも注目しており、昨年の夏にツアーでアメリカを訪れた際には、宇宙でのミッションに応用できないかと相談を受けジョンソン宇宙センターで講演を行っている。


マドリーとピントゥス

ピントゥスは、アシスタントのダビデ・アンチェロッティ、キーパーコーチのルイス・ロピスと並ぶ、チームカルロ・アンチェロッティの重要人物のひとりである。

2016年にジダンの要望でリヨンから引き抜いたピントゥスは、加入以降レアル・マドリーでは常に高く評価されている。2018年にジダンが去り、後任のロペテギは自身のスタッフを連れてきたため、その後しばらくは肩身の狭い微妙な立場に追いやられてしまった。

1年後アントニオ・コンテのインテルに移籍し、2019年ジダンがマドリーの監督に復帰した際には、代わりにグレゴリー・デュポンが起用された。

2021年アンチェロッティが監督に復帰し、フロレンティーノ・ぺレス自らがピントゥスを招聘。第二章が始まった。


ハイリスクハイリターン?

彼の代名詞は「ピントゥスメゾット」と呼ばれるトレーニング方法だ。
最新のテクノロジーとデータ分析を活用しており、ポジションや選手個々に合わせて調整されている。そして、メゾットは時代に合わせて変化し続けている。

恒例となっているマスクをつけたトレーニングでは、酸素と二酸化炭素の数値を測定し、選手のコンディションを管理している。

レアル・マドリーがCLを勝ち進むときには、劇的な逆転劇がある。数多の逆転劇を奇跡やマジック、マドリディスモなどと抽象的な表現をされることが多い。あたかも偶然かのように

追い込まれたときに必要な力を発揮し、逆境を跳ね返すことのできる要因は、日々のトレーニングと重要な局面にピークを合わせる綿密なプランニングにある。それがマドリディズモの正体であり、単なる偶然ではない。

マドリーは100%の万全な状態でシーズンに入れるよう、夏のトレーニングでは高い負荷をかける。経験のあるトップレベルの選手ならば、多少無理な調整でもこなせるタフさがあるが、経験の浅い若手の選手にとっては過負荷が負傷のリスクに直結してしまう。昨年のアルダ・ギュレルや今夏のジョアン・マルティネスなどはこのケースの可能性がある。(昨年のミリトンとクルトワの負傷には運が悪かったと説明されている)

レニー・ヨロ獲得失敗の痛みを和らげるクッションとしてクラブは期待していたが、そう都合よくはならなかった。焦らず治療に専念してもらい、今後の飛躍に期待したい。


マドリーの取り組みは、トレーニングの強度、ボリューム共に緩すぎると言われていた昨年のチャビバルサとは対照的だ。


王座防衛

今季は最大7つのタイトルの可能性がある。水曜の試合はその一つ目だ。

マドリーのファンはとびきり欲張りなので、手にできる全てを期待するだろうがチームにはそれを可能にするリソースを有しているはずだ。アンチェロッティは、一ヶ月を残して「補強は必要ない」と宣言し選手の表情からも自信がうかがえる。

いよいよ待ちに待ったマドリーのある日々が始まる。







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