ロドリゴのプライド
ロドリゴ・ゴエスについて書く時は、あらゆるリスクが付きまとう。
先日、とある方に「みうさんには尖って欲しい」と告げられた。
私は、思ったことをそのまま書いているだけなので尖っているつもりは無いのだが、向かい風を恐れて丸くなるよりはずっとマシだと思っている。
大方の予想通り、エンバペ加入後もスタメンの座を確保しておりアタランタ戦、マジョルカ戦でスタメンを飾った。
大方の予想通り、またしても右サイドに追いやられた。
私にとって予想外だったのは、今季は良くも悪くもロドリゴの存在がマドリーの今季を左右するかもしれないという事だ。
悩ましい存在
ロドリゴはアンチェロッティの悩みの種となっている。チームにはヒエラルキーがあり、レアル・マドリーにとってロドリゴは非常に重要な選手であることは言うまでもないが、彼より上が居ることも事実だ。
アンチェロッティは引き分けたマジョルカ戦の後、「バランスに欠けていた」と試合を振り返った。チームに変化が必要な時、その順番的にベンチに下がるのも、スタメンから外れるのもロドリゴが最初となる。
昨季のCL決勝とエンバぺがアナウンスされる1週間前に公開されたインタビューを思い返してほしい。
「将来のことはわからない」
「マドリーで重要な存在でなくなったら、移籍を考える」と言い、プレミアリーグ挑戦の可能性も否定しなかった。
あの時は、エンバぺの加入によりロドリゴがスケープゴート(犠牲)になるのではないかと言われていた。本人は我慢ならなかったのだろう。あの発言は、そんな世論に対する彼なりのアンサーだった。
そして、彼のアンサーはクラブに対する意思表示でもあった。「スタメンではなく控えになるくらいなら他の場所を選ぶぞ」というメッセージは効果的な牽制になる。
ちょうど一年前、開幕から数試合はクロースではなくカマヴィンガが中盤のダイヤモンドの一角として起用されていた。しばらくして序列が入れ替わり、最後までクロースを上回ることができなかった。カマヴィンガにしてみれば、競争相手が悪く、クロースがスタメンなら納得してベンチに座るしかなかったのだ。
ロドリゴの場合はどうだろうか。彼の代わりになりえるのはブラヒムやアルダ・ギュレル、エンドリック辺りだが、彼らが代わりにピッチに立った時ロドリゴは受け入れられるだろうか。
ロドリゴが居場所を失った時、メディアがなんて書くかは想像に容易い。順風満帆のチームに不協和音が生じてしまうのは、何としても避けたいのだ。
アンチェロッティが、本来代えやすいはずのロドリゴを簡単には代えられないのは、このような理由ではないだろうか。まるで割れ物を扱うかのように、彼の心に配慮しているように見える。
現在地
先日、サウジアラビアがヴィニシウスをターゲットにしているという報道があった。まだ代理人と接触があっただけで本人の意思は不明だが、マドリー側ではありえないと一蹴されている。
一方、ロドリゴにはマンチェスターシティからの関心が噂されている。こちらも否定されているのだが、「今夏は移籍しない」というヴィニシウスにはない"今夏は"という注釈が用いられている。なぜだろうか?
私自身も、前回の記事にて同じような表現を使っている。ロドリゴに対する認識に類似点があるのかもしれない。
アタランタ戦の後、MARCAはベリンガム、エンバぺ、ヴィニシウスの三人をBMVと名付け、BBCと比較した。表紙にはわざわざロドリゴを切り取った写真が使われている。BBCと比較するのであればRMVが自然なチョイスに見えるが、なぜ省かれたのだろうか。
さすがにまずいと感じたMARCAは、数日後ににロドリゴの重要性を強調したポジティブな記事をいくつか掲載した。謝罪の意味合いがあったのだろう。
しかしロドリゴは許さなかった。
WhatsAppにて、自身が省かれたことに対する不服とも取れるメッセージが拡散されてしまい、またしてもネガティブな話題を生むこととなった。
これも彼なりのアンサーであり、抵抗だ。
前と左に偏ったチームにバランスを与えるには、ロドリゴが真っ先に省かれる対象になるが、アンチェロッティはますます代えにくくなった。彼のプライドと向き合わなければならない。
副作用
エンバぺ加入後、ロドリゴは守備やスペースメイクなど脇役としての働きがフォーカスされたように思える。果たしてそれでいいのだろうか。
ロドリゴは本来、絶妙なタッチやシュート等、オフェンスセンスが優れておりスポットライトを浴びる側の選手だった。脇役になるという事は、エンバぺの方が上だと認めて主役の座を易々と譲り渡すこととなる。
彼がマドリーで生き残る術が「汚れ仕事」で納得するだろうか。ファンやメディアが勝手に脇役にするなんてナンセンスだ。ロドリゴを脇役と位置づけるという事は、BMVという表現にNoを突きつけた彼の主張と相反することになる。
彼はスポットライトを浴びる側の選手なのだから居場所はステージの中央であり、脇役に成り下がるという選択肢はない。
そもそもロドリゴがヴィニシウスとエンバぺの最適な脇役なのかという点も疑問だ。ベンゼマは、クリスティアーノ・ロナウドの最適な脇役だったが、現主役とプレーエリアが丸々被ってしまうロドリゴは相応しいのだろうか。右サイドに左利きを置く方が、複雑な構造から解放されバランスを生み出すだろう。
彼はセレソンの10番だ。先代の10番は、メッシという大きすぎる存在のおかげでどんなに輝いても主役にはなれなかった。結果、彼はパリを選んだが、ロドリゴは何を選ぶだろうか。
表情
ヴィニシウス、エンバペ、ベリンガム、ロドリゴの4人の共演が上手くいけばそれに越したことはないのだが、上手くいかなかった時は違う選択肢も考えなければならない。我慢して使い続けるのか、代えるのか。後者の選択にはあらゆる雑音に魘される覚悟をしなければならない。
レアル・マドリーの選手達も人間であるから、感情や本音が表情や声、言動に表れるだろう。クロースが引退する最後の数か月間は、彼の内に秘めたあらゆる想いが感じられた。ラストゲームとなったスペイン戦では、見たことないような鬼気迫った表情をしていた。
アンチェロッティの求める、バランスとは何だろうか?
ロドリゴの言う、重要な存在とは何だろうか?
今季の命運はロドリゴに懸かっている。
彼の表情がチームの状態を表す、合わせ鏡となるだろう。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?